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【完結】ヴェノリュシオン ~ 違法研究所を摘発したら、実験体にされていた遺伝子組み換えされた子供を育てることになりました ~   作者: 廿楽 亜久
第10話 水面下

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01

 橋口は、口元に浮かべた笑顔はそのままに、彼らが資料を読み終えるのを待っていた。

 立涌中尉の障害から、ヴェノリュシオンの存在は上層部へ一気に広まった。


 とある国から始まった”アポリュオン”ウイルスのパンデミック。

 既存の生物の遺伝子を変異させる凶悪なウイルス。

 一時は、感染力が強い株もあり、人間が感染することも少なくなかった。毒性は、様々で体が大きく変異するものから、感染に気付かないようなものまで存在した。

 人間に感染するとなれば、無論、感染対策が取られる。

 特に、未知のウイルスならば、取れる感染対策は単純。隔離だ。


「弱毒性のアポリュオンを用いた遺伝子組み換え……ウイルスの回収はこれで全てか? セーフ区画内に撒かれた可能性は?」

「0ではありません。ただ限りなく低いと考えています」


 未知のウイルスに対して、隔離は有効な手段だが、ウイルスの繁殖できる生物が大量に存在する地表を明け渡した時点で、時間が解決することはなくなる。

 そうなれば、次に行わなければならないことは、そのウイルスについて知り、対策を考えること。


 各国が協力し、ウイルスについて研究を行った結果、人類は首の皮一枚繋がり、以前の形を変異させず生き残っている。

 その努力は、違法か合法かは別として、今でも世界中で続けられている。おかげで、この人類の危うい生命線は保たれていた。

 新人類、つまり、ヴェノリュシオンたちの研究もその人類の生存のために、大切な資料に他ならない。

 余すことなく、糧にしなければいけない。


「受精卵にアポリュオンを感染させることで、遺伝子変異を起こす。これは、哺乳類が胎児へ成長した段階で、二次感染を起こさないエビデンスを持っている、比較的安全な研究です」

「それはあくまで管理下に置いての話だ。アポリュオンの脅威は、その変異の速さだ。ヴェノリュシオンたちは、知識を持ち合わせていない人間の子供というより、人間に飼われた犬猫に近い存在なのだろう? ウイルス標本そのものを破損していた場合は?」

「……近くにウイルスが繁殖可能な分化速度の遅い宿主がありません」


 アポリュオンは、他のウイルス同様、ウイルス単独で増えることはできない。他の細胞の増殖に相乗りする形で増殖する。

 それが結果として、生物の変異を起こすことになる。

 弱毒アポリュオンを用いた故意の遺伝子操作は、人の細胞が新しく作り直される速度とウイルスの増殖速度の違いを用いることで、最終的にウイルスは自身の免疫機能によって排除される。結果、出来上がるのは、ウイルス本体は存在しない遺伝子変異を起こした肉体となる。


「それは生きた生物の話だろう。以前にもあっただろう。研究所内のネズミの死体に感染して、パンデミックを起こしたという事件だ」


 研究所の研究者たちは、誰一人として逮捕されていない。

 ヴェノリュシオンたちによって、緊急警報装置が起動している記録などから、殺害されたのだろうと考察されている。


「はい。存じています。その上で、申し上げています。()()()()()宿()()()()()()()()、と」


 あくまで、状況証拠からの推測だ。

 ひとつ、本来いるはずの研究者たちが誰一人として逮捕されず、死体が発見されていないために、殺害されたのだろうという考察しかできていない事実。

 ふたつ、ヴェノリュシオンたちは調理を知らず、狩猟する際に無毒であるなら、生肉で食すという事実。

 みっつ、彼らの食事量と研究所襲撃から保護までの期間。


 これらを総合的に判断した結果、彼らは”研究所にいた人間(しょくりょう)を全て食している”可能性が出てくる。


「人間を……?」


 骨まで残らず、全て食らい尽くしている。

 その事実に、その場にいた男たちは、表情を強張らせた。


「先程おっしゃっていたではありませんか。ヴェノリュシオンたちは、人間に飼われた犬猫に近いと。犬猫がやせ衰える中、元飼い主だからと目の前にある手軽に入れられる食料をみすみす腐らせますか?」


 淡々と告げる橋口に、彼らは言葉を詰まらせるが、誰かが小さく息を吐き出すとともに言葉を発する。


「おぞましいな……」

「やはり、殺処分にすべきではないか?」


 臭い物には蓋をする。

 人類に手が及ぶものであるなら、先に排除してしまう。前例の多い、単純な回答だ。


「それをお待ち頂きたい」


 単純で簡単な回答には人が集まる。だからこそ、それを止めた久留米には、視線が集まった。


「久留米少尉。まだ何かあると?」

「はい。先程、ヴェノリュシオンたちを犬猫と同じとおっしゃいました。それは事実です。ですが、それは訓練されていないからです。幸い、彼らに言葉は通じます。事実、一名の監督下で狩猟を行わせたところ、食糧問題は大きく改善しています」

「つまり、訓練次第では、使えるようになると?」

「自分はそのように考えています」


 危険ではないかと、眉を潜める人間はいた。だが、手元にある資料には、食糧問題、変異種の討伐、遭難した隊員の救助と、彼らのこれまでの実績が記載されている。

 しかも、彼らに対する追加でかかったコストは、ほぼなし。


「首輪はしっかり絞めておけよ」

「承知致しました」


 

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