正解ちゃんと不正解ちゃんの○×夏祭り
八月三十一日、夏祭り最終日
時刻は既に二十二時を回り、祭りも終盤に差し掛かっていた。
「もう祭りも終わっちゃうね」
「……うん」
不正解ちゃんは躊躇っていた。
「やっぱ、告白はなしかな」
「良いの?このまま気持ちを伝えなくて」
「良いんだよ。私はいつだって間違ってばっかの"不正解ちゃん"なんだから」
不正解ちゃんは気持ちを伝えることを諦めていた。
「私がすることは全部間違ってる。だから、気持ちを伝えることも間違いなんだよ」
後悔が残る夏祭りになる。
気持ちを伝えられればどれだけ楽か、分かっていても、いざその瞬間が目の前に来ると覚悟が決まらない。
成功よりも失敗を考えて、怖じ気づく。
不正解ちゃんは花火を見上げていた。
諦めがつき始めていたから。
「君は自分のことを不正解ちゃんって呼ぶけど、私だってそうなんだぜ」
「ん?」
「間違えない人間なんていないし、間違えることに脅えない人間だっていない。でもさ、間違いか正解かなんて、大した違いはないんだよ」
「間違えることは間違ってる」
「正解も間違いも、全部糧にして前に進めば、結局人生プラスなんだよ。人生、楽しんだもん勝ちだろ」
それでも彼女は勇気が出ない。
「でも、永遠に続く幸せなんてない。人生、そう簡単に楽しめないよ」
「永遠に続く幸せは、自分で探さない限り、あることもないことも証明できない。これはお前の人生なんだ。間違えたって、失敗したって、幸せがなくなるわけじゃない。
だから、勇気を出して前に進んで、その勇気をコツコツ積み重ねたらさ、最終的に人生は楽しくなると思わないか」
「でも、怖いよ……」
「誰だって、幸せになる権利は平等に与えられている。目の前にある幸せに手を伸ばせば、幸せだ」
彼女は少年を見た。
少年への恋心は、まだ消えない。
きっとこれからも、この思いは膨れ続ける。
「じゃあ、今の私は幸せなんだね」
「幸せだな」
「私はもっと幸せになりたい。だって私は、今までずっと我慢してきたから。その分幸せになるんだ」
「不正解ちゃんは告白するの?」
「私はもう不正解ちゃんじゃない。幸せちゃんだよ」
少し前までの躊躇いはなかった。
満面の笑みで、彼女は少年のもとへと向かった。
「きっとその未来が、幸せでありますように」