第98話 ウィスキーボンボン
「はぁ疲れた」
一輝はリビングでソファに腰掛け、盛大なため息を吐いた。お風呂から上がって、部屋着に着替えた状態だ。
「おにぃ大丈夫?大変だったね」
美月は心配そうに一輝を労った。
美月が帰宅してからお風呂場を開けた結果、羽矢と莉菜はようやく一輝を解放した。その流れで3人とも順にお風呂から退散した。
「ちょっと疲れたかな。まぁ、犯人達は異常に元気だけどな」
一輝はジロリと目の前ではしゃぐ羽矢達に視線を走らせた。
羽矢と莉菜はリビングのテレビ前でWeeeeをプレイする。Weeeeのスポーツで対戦中だ。競技はゴルフだろう。
「確かに、おにぃと羽矢さんや莉菜さんはテンションが対照的だね」
美月は苦笑いを浮かべた。
「本当だよ。あの2人が俺の体力を吸収しているみたいだ」
一輝はリビング用のテーブルに置いたプラスチックカップを手に取り、一気にお茶を呷った。
冷たい水分が一輝の喉を通過し、心地よく潤す。水分は一輝の体力を搾取しない。逆に、回復させる。
「かずくん!ここに置いてあるチョコレート食べてもいい?」
莉菜はリビング用のテーブルを指差しながら、尋ねた。ゲームは中断中で、画面を停止させていた。
「いいよ。好きなだけ食べて」
一輝はウィスキーボンボンの入ったプラスチックの器を莉菜へ差し出した。その動作は内心だるかった。
「ありがとうかずくん!」
莉菜は律儀にお礼を述べると、ウィスキーボンボンを開封し、口に放り込んだ。
「オッケー。再開できるよ」
ゲームが再び再開する。
莉菜はチョコレートを咀嚼しながら、ゲームに取り掛かった。テレビに映る画面だけを直視する。
莉菜はゲームの途中でチョコレートを飲み込んだ。その際、頬や鼻は仄かに赤い。
「うにゃ。ゲームは途中で中止ー」
突然、莉菜は普段の倍ほどテンションが高くなる。
「ど、どうしたんだ莉菜?」
「私?私、何かおかしい〜?」
ポィッとWeeeeのコントローラーも軽く投げた。コントローラーはリビングの床へ優しく落下した。
「かーずく〜ん」
莉菜はソファで寛ぐ一輝の身体へダイブした。
「ぐえ!?」
莉菜が一輝へ馬乗りする形となった。
「かーずくん〜。かーずく〜ん。えへへ」
莉菜は子供扱いするように一輝へ頬擦りした。
シミ1つない純白な肌が一輝の頬と擦れ合う。
「ちょっとやめ!?テンションがバグってるぞ莉菜」
一輝は引き離そうとするが、一筋縄ではいかない。女性相手に強引に力づくで引き剥がすわけにもいかない。
「まさか・・・。莉菜さんウィスキーボンボンで酔ったの!?」
美月は驚愕する。
「そんなバカな」
羽矢が念のためウィスキーボンボンの成分を確認する。微量だがアルコールが含まれていた。
「美月ちゃ〜ん。なに言っれるの〜。私は全然酔ってらいよ〜」
莉菜は呂律が回っていない。頭を左右にゆらゆらさせ、瞳も、とろんっと歪む。
「これは完全に酔ってるな」
「うん。確実ですね」
羽矢と美月はお互いに目を合わせた。両者共に同じ考えに辿り着いた。莉菜がアルコールに非常に弱い事実に。
「かずく〜ん!かわいい〜!本当に大好きだよ〜!」
莉菜は頬擦りをやめ、次は一輝の顔を胸元に埋めた。
「ぐぉ!!」
柔らかく弾力ある感触が一輝の顔全体を襲った。圧迫され息も途切れ途切れになった。
「ちょっ!?まっ!?ストップストップ!お〜い!増本と美月ー。助けて〜」
一輝は大きく叫び、SOSの意志表示をした。
「これは流石に不味そうだな」
「莉菜さん!おにぃが潰れちゃうから!!」
羽矢と美月が協力し、苦労しながらも莉菜を一輝から引き剥がした。
「な、何をするかぁ〜。私をかずくんから引き剥がさないれぇ〜〜」
莉菜はバタバタ抵抗した。しかし、羽矢と美月の合わせた力には及ばなかった。
「もぅ〜〜。どうして私の邪魔をするの〜。かずくんから離れたくないよ〜〜」
莉菜は頬を膨らました後、子供のように地団駄を踏み始めた。他人の家にも関わらず、お構いなしだ。
「お、おい!やれやれこれは面倒臭い体質だな」
「ですね。莉菜さんは2度とアルコールを摂取しない方が良さそうですね」
羽矢と莉菜の顔には疲労が溜まる。一見すれば容易に推測可能だ。
「・・・ありがとう2人共。本当に助かった」
一輝は鼻先の感覚を確かめ、心の底から感謝を伝えた。おそらく、2人の助けがなければ、あのまま莉菜に拘束されていた。
「それにしても、まさかウィスキーボンボンで酔うとは・・・」
一輝は未だに地団駄を踏む莉菜を視認し、率直な感想を呟いた。




