77話 体育祭④
昼の休憩が終わると、次は午後の部に移り変わる。
午後の部は借り物競走から始まる。そのため、出場者の一輝はアナウンスの指示に従い、待機場所に集まる。
「あっ!かずくん借り物競走に出るんだ!頑張ってー!!」
莉菜がたまたま一輝を発見してひらひらと手を振る。
「くぅ〜。羨ましすぎる!なんでお前なんだよ」
近くにいる勝が悔しそうに両拳を握り締める。本音もダダ漏れだ。
「それは俺に聞かれてもわからないと思うよ」
一輝は頬に1粒の汗を浮かべながら、そう返す。思い当たる理由は特にない。強いて言うなら、付き合いが長いことぐらいだろう。
『それでは選手の皆さんは係員の指示に従ってグラウンド内に進んでください』
ハキハキとしたアナウンスがグラウンド全体に行き渡る。
借り物競走に出場する選手達はゆっくりスタート地点に足を踏み入れる。勝以外、運動部らしき人間はいない。
「よっしゃ!まさかお前が隣とはな。絶対にぶっ倒したる」
一輝は幸か不幸かスタート地点で勝と隣同士になった。出場者は一輝と勝を含めて7人もいて隣になる確率は決して高くない。
「それでは、位置について〜~用意〜」
一輝の心に緊張が走る。緊張感から解放されるために心から早く始まってほしいと思う。
『ドンッ!?』
スターターピストルの火薬音が豪快に鳴り響く。
一輝を含む選手達はその音を合図にスタートを切る。
早速抜け出したのは勝だった。さすが野球部だけあって運動神経の高さを見せつける。
「よっしゃ!1番乗りだー!」
勝は身を地面に置くカードを取り、まるで勝利したかのように叫ぶ。
「うう~ん」
勝はカードの中身を確認してその場に固まる。何か考え込むように首をかしげて。
その間、次々と選手達がカードの内容を目にする。
一方、一輝は運動神経の低さが災いして最下位でカードを手に取る。
「え~っと。内容はどんなものかな。簡単であってくれよ」
一輝は祈りながらカードを確認する。
「なになに。趣味が合う友達。そんな人いたっけ?」
一輝は胸の前で腕を組み思い当たる節がないか、自身の記憶を信じて脳内を探索する。しばらくすると、1人の人物が頭に浮かぶ。
「いや、いるな。趣味が合う友達がな」
一輝は思い当たる人物を見つけるためにまずぐるりと周囲を見渡す。しかし、雑に探したため目的の人物の姿はない。
(クラス専用テントはどうだ?)
一輝は疑問を解消するために行動する。彼の目には2年5組のテントで待機する生徒達が映る。
「おっ。いた!」
一輝はお目当ての人物を発見すると、2年5組のテントを目掛けてダッシュする。
数10秒ほどして無事に到着する。
「増本!ちょっと一緒に来てくれないか?」
一輝はテントの下で待機する羽矢を手招きする。
「は?私がか?」
羽矢は目を大きく見開き、戸惑いながら自分自身を指差す。当たり前だ。突然の誘いなのだから。
「いいから早く!急いでるんだ!!」
一輝が珍しく荒い口調で催促する。現在はレース中なため焦りを隠せない。
「わ、わかった」
羽矢は渋々立ち上がり、靴に履き替える。その後、一輝の後を追う。
「はい。連れてきました」
一輝は係員にカードを差し出す。
『お~っと。連れてこられたのは、学校で有名な増本羽矢さんだ~~』
アナウンスが興奮気味な声で解説する。その声に刺激されて生徒達の熱気も上昇する。
「増本さんはこの生徒と趣味が合いますか?」
係員が真偽を確かめに羽矢に言葉を投げ掛ける。
「あ、ああ。彼とは共通の趣味がな」
羽矢は歯切れの悪い返答をする。おそらく、未だに平静さを取り戻していないのだろう。
「はい!おめでとうございます!!1着でゴールです!!」
一輝は係員に誘導されて1位を示す旗に到着する。
羽矢はその光景を呆然と眺める。
それから一輝がゴールした後、次々とゴールする選手達が現れる。まるでスイッチでも入ったかのように。
「はぁはぁ。クソ!なんで俺が最下位なんだよ!」
勝は不満を言いながら、手にノートを持ってゴールに走る。係員と簡単に言葉を交わし、無事ゴールする。
勝は係員を介して最下位を示す7位の旗に誘導される。
「なっ!?1位!?俺は最下位なのに・・・」
勝は悔しそうに顔を歪めた。自分自身が負けるなど微塵も思っていなかったような顔だ。
そんな勝を見て、一輝は心の中で不覚にも喜びを感じてしまった。




