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4話 2人だけの空間


「朝元〜。最近、ネット小説のチェックしてるか?」


 羽矢はわずかに膨らんだ胸ポケットからスマートフォンを取り出す。この高校は休み時間の間、スマートフォンの利用が可能である。


「ああっ。ヨムカクの小説だけはチェックしてる。まあ、ラブコメのランキングトップ20位までに入った小説しかチェックしていないけど」


 一輝は完全に普段の気分に戻っていない状態で問いに答える。そのため、普段よりもわずかにテンションが低い。


「お〜。流石だな。もちろん、毎日チェックはしてるんだろ?」


「あぁ、一日おきにランキングは更新されるからな。毎日、チェックしている。読んだ経験のない小説はランキング20位以内に入ってたら必ずと言っていいほど読む」


 一輝は自身の話を口から発し、数分前とは打って変わり、気分がいささか高揚した。趣味について語ることで、一輝の心が徐々にネガティブからポジティブに向かう。


「やっぱり。未だに以前と変わらず継続的にチェックしているんだな。まぁ、私はヨムカクにおいてはラブコメ作品だけでなく、異世界のランキング作品もチェックしているがな。ちなみに、毎日、トップ30位までの小説はすべてチェックしている」


 羽矢はわずかに目を細め、得意げな顔を披露した。


「暇人かよ。それに、どうせヨムカク以外にも小説投稿サイトのランキングをチェックしているだろ?」


 一輝は控えめに呆れた顔を示した。普段は明瞭にそういった表情が出てしまうのだが、今は気分が安定を保てないため、抑えたような中途半端な反応になる。


「それは当然だ。『小説を書こう』も毎日欠かさずにチェックしているぞ!」


 羽矢はスマートフォンの画面をいじり、光彩をを放つスマートフォンを机上に置いた。


「今日のヨムカクにおける週間ラブコメランキング1位の「長年妹を溺愛してたら、同級生の美少女達から盛大にモテだした」を一気読みしたんだ。アイディアが斬新であり、最高におもしろかった。朝元はどうだった?」


 羽矢はスマートフォンから一輝に視線を走らせる。羽矢と一輝の目がぴたっと合う。


「確かにそうだな。文章も1文1文が短くて読みやすい上、キャラの会話も多いから魅力的だよな」


「そう!そうなんだよ!!相変わらず、朝元はわかってるな〜。やっぱり持つべきは共通の趣味を持った友人だな!!」


 羽矢は周囲を一切気にする素振りを見せずに、鼻息を荒らして饒舌に言葉を紡いだ。


「ライトノベルを読む人間は多いが、最新のネット小説を読む人間は私が知る限り朝元しかいない。もう1度言うが、やっぱり持つべきは共通の趣味を持った友人だな!」


 羽矢は心から楽しそうに笑った。


「ど、どうして。どうしてだ。・・・ありえない。俺の時とは天と地ほど態度が違う・・・」


 片山は目を剥き、わなわなと口元を震わせていた。イケメンが台無しのみっともない顔が露出する。


 一方、片山の友人である男子生徒達はアホ顔で口をあんぐりと開いた状態にある。2人は、先日、一輝を心から馬鹿にした表情では決してなく、信じられないを形容する顔を形成する。


 松本は無言で狼狽えながら、一輝と羽矢の会話する光景から目を放せない。その証拠に瞳はあちこち忙しなく動きつつも、目には一輝と羽矢が映る。


「大丈夫なの?俺とこうやって雑談して。ライトノベル系のネット小説を好んで読む趣味がバレるぞ」


 一輝は周囲をぐるっと見渡した。ほぼ全員のクラスメイトが一輝と羽矢に注目している。そのため、ほとんどのクラスメイト達が彼らの会話の内容に神経を集中させ、耳を傾けている。


「別に構わない。たとえ、オタク臭い趣味として多くの同級生に認識され、最悪のケースとして引かれてもな。皆が描く私のイメージと大きく異なろうと、関係ない。私は好きな趣味を親友と共有し、楽しい時間を過ごしたい。その欲望に嘘をつかず、納得いくまで満たすまでだ」


 羽矢は長々と説明を終えると、次なる惹かれた小説を紹介する。一輝は羽矢の言い分や感想を受け入れて共感した後、自身の感想や主観を口にした。


 彼らが共通の趣味を通して盛り上がるため、周囲とは一線を画した彼ら専用の空間が生まれた。


 現時点で教室に身を置く人間では、決して入り込めない。一輝と羽矢が共創する特別な空間。


 この空間は10分間の休み時間終了を合図として報告するチャイムが鳴るまで存在した。


 羽矢がチャイムと同時に足早と一輝の席から距離を取った途端、決して視認できない2人だけの空間はすっと姿を消した。


⭐️⭐️⭐️

読んでくださった方、ありがとうございます!


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