2話 嘘告白
「よっしゃ!ナイス比奈。ご苦労!!」
片山はテンションマックスで松本の肩に腕を回した。スムーズであったため、慣れているのだろう。
片山以外の男子生徒2人は歯を剥き出し、にやにや口元を緩ませなが、一輝に視線を向ける。
「これでいいの?賢治の目的は達成した?」
松本は頬をわずかに染めながら、恥ずかしそうに片山とは目を合わせずにそっぽを向く。片山が自身の身体に触れているため、落ち着かないのだろう。
「こ、これはどうゆうこと・・・かな?」
一輝は落ち着かず、目をあちこちに移動させ、戸惑った表情で松本に問い掛けた。
「それについては俺がわかりやすく答えてやるよ!」
片山はにやっとを口元を歪め、松本から離れる。
片山の腕が離れた瞬間、松本はあからさまに名残惜しそうな顔を示した。
「比奈のお前に対する告白は嘘だったんだよ。つまり、嘘告白だったわけだ!!」
ギャハハッと片山を含む男子生徒達は大きな笑い声をあげた。人気の無い体育館裏からやかましい音波が拡がる。もちろん、それは一輝の鼓膜を鬱陶しいほど攻撃した。
「最高だったぜ!靴箱で手紙を見つけて興奮してさ。しかも、ガッツポーズなんて作ってよ〜」
片山は「なぁ?」と友人らしき男子生徒に共感を求める。
「それな!廊下で隠れながら耐えられず、みんなで吹き出したもんな!」
「それにな、比奈から告白されてんのに。怪しむ素振りは皆無で、即行で告白を了承するしな!お前みたいな陰キャに比奈が告白するなんてありえねぇのに」
片山の言葉に他の男子生徒が大爆笑した。全員が腹を抱え、涙を流していた。
松本もうっすらと笑みを浮かべている。一輝ではなく、上機嫌な男子生徒達を視野に入れながら。
「そんな・・・」
一輝は真実を理解し、自然と身体から力が抜け落ちて俯き加減になった。一輝の心の中は悲しさで満たされてしまった。松本が本気で告白してくれたのだと、疑わずに信じていたのだから。
「そういうことだから。今日1番の面白いもん見せてもらったよ!!ありがとな。クラスで陰キャな朝元君」
片山は制服のズボンのポケットに手を入れ、満足げな様子で踵を返した。残りの男子生徒2人も同様の行動を取った。2人は片山の後を追うように進む。
一方、松本だけは歩を進めず、その場に佇んでいた。メンタルを大きく損傷し、明らかな悲しげな一輝を直視する。
「ばっかじゃないの。私が本気であんたみたいな陰キャに告白すると本気で信じてたわけ?」
松本は冷淡な口調で淡々と口撃した。悪意の篭った口調が言葉と同じくらい一輝を襲った。
これらが一輝にとどめを刺した。
「そんな。そんな。こんなことって・・・」
一輝は消え入りそうな声で独り言をつぶやき、力無く地面に両膝をついた。一輝のズボンは地面にぶつかり、多量の砂がこびりついた。
「情けないわね」
松本は一輝を見下してから、ゆっくりとその場を去った。
一方、一輝が松本に嘘告白をされ、片山に真相をバラされるまでの光景を最後まで目にしていた人物が2人だけいた。
その2人は共に女子生徒であり、それぞれ異なる場所でその光景を黙って凝視していた。
「「ひどい・・・許さない・・・」」
2人の女子生徒は怒りを帯びた目で歯を食いしばっていた。両拳を力強く握り、身体全体も小刻みにぷるぷると震えていた。