第101話 妹に相談
「じゃあ、例の件は考えてくれよ」
「私も・・・。期待しているから」
翌朝になった。
本日は土曜日だが、羽矢と莉菜は早朝に起床した。どうやら、朝早くに帰宅するらしい。
「う、・・・うん」
一輝はぎこちなく答えた。視線も羽矢達を捉えていない。自宅のドア辺りに敷かれた地面を直視する。
「お邪魔しました。非常に良くしてもらって色々とありがとう」
「かずくんありがとう。美月ちゃんも料理だったりお風呂だったり、もてなしてくれてありがとね」
羽矢と莉菜はそれぞれお礼を伝えた。
「いえいえ。またいつでも来てください!私のできる範囲でのおもてなしを提供するので」
美月は力量を見せるように。右腕に力こぶを作った。
「それじゃあ、朝元はまた学校でな」
一輝は無言で頷き、ひらひらと手だけ振った。頭が働かず、適切な言葉が脳内に生まれなかった。
羽矢と莉菜は仲良く並んで一輝の自宅を去った。
一輝と美月は羽矢達の後ろ姿が小さくなるまで見送った。
「はぁ~眠い」
一輝は昨日の夜に寝付けなかった。羽矢と莉菜からダブル告白され、戸惑いを隠せなかった。
告白を受けた後、羽矢と莉菜はすぐに返事は必要ないと言ってくれた。
一輝に考える猶予を与えた。
彼女達の告白を現実だと受け止めきれず、脳や心がパニックを起こした。
身体は熱くなり、戸惑いや焦りから一睡もできなかった。ただベッドに寝転がり、目だけはぱっちりと覚醒していた。
「どうしたのおにぃ。顔が疲れてるよ?」
美月が心配そうに尋ねた。一輝の顔を不安そうにまじまじと見つめた。
「ああ。ちょっと悩みというかなんて言うんだろう。一生懸命に考えさせられることがあってね」
一輝は眠い目を強引に擦る。瞼は通常の倍は重たい。
「どうして。寝れないほど頭を悩ませることなの?私が話聞くよ。早く家に入ろ」
美月は自宅のドアを指差し、一輝を自宅へ誘導した。
「うんありがとう美月。相談に乗ってもらえないかな。俺1人では難しい話なんだ」
美月の優しさに少し癒された。少しだけ、心が落ち着いた。まだ完全には胸のザワザワは収まらない。
「わかった。リビングで聞くよ」
美月がまずリビングのソファへ座った。一輝も美月に倣った。
「実は俺、昨日の夜に羽矢と莉菜に告白されたんだ」
一輝は先日の夜に送った出来事を記憶に覚えている限りで話した。
美月は当然、驚きの反応を示した。だが、途中で話を遮らずに黙って一輝の話に耳を傾けた。
一輝は美月が聞き手なため、特に勇気を振り絞る必要は無かった。自然と昨日経験した過去を言語化できた。嘘偽りは決して存在しない。ただありのままの事実を言葉で表現した。誇張や捏造も当然皆無だ。
「そうなんだ。やっぱり羽矢さんと莉菜さんはおにぃのことが好きだったんだ。それにしても驚きだね。まさか同時に告白されるなんて」
美月は安心させるように一輝へ笑い掛けた。少なからず、妹なりに一輝の胸中を推し量ったのだろう。
「予め伝えておくけど。私はおにぃ相談に乗ることはできるよ。でも生憎、おにぃの求める答えは提示できない。答えはおにぃが決めるものだから。その行為が羽矢さんや莉菜さんに対するリスペクトだと思うから」
美月は真剣な顔で一輝を見据える。そこに笑顔は既に消えていた。
「そうだよな。そこが難しいな。俺、優柔不断だから」
一輝は頭を悩ませる。重大な2つを選択する経験は今までの人生で無かった。しかも、告白され、2大巨頭の羽矢と莉菜のどちらかを選択しなけらばならないのだ。究極の選択と言っても過言ではない。
「悩むだろうし、苦しいと思うよ。でも、おにぃの意志で決めるべきだよ。おにぃの正直な気持ちに従ってみて。羽矢さんと莉菜さんもそれを望んでいるだろうからね」




