9話 部活帰り
時刻は18時45分。空はわずかにオレンジ色に染まっていた。その上、気温も日中よりわずかに低下している。
「クソ!今日は本当に運が悪い。部活で調子出なくてミスばっかりしたしよー」
片山は苛立ちを露わにしながら、西城高校の正門に差し掛かる。片山は怒りをぶつけるように足の裏を地面に何度も強く打ちつけた。
「人間なんだから、そんなこともあるわよ。だから、気にする必要はないと思うわ」
松本は横に並んで歩きながら、片山を宥めた。その際、松本はかなり気を遣っているようだった。
ちなみに、片山はサッカー部のエースであり、松本はサッカー部のマネージャーである。そのため、部活終了後に一緒の下校が可能なのである。
「あっ!?なんだよそれ?そんな言葉で俺を励ましてるつもりかよ」
片山は冷淡な口調で松本を口撃する。目で睨みを利かせながら。
一方、松本は片山の目にひるんでしまう。
「ご、ごめん。もしかしたら、私が迂闊だったかも。賢治の置かれた状況を深く理解せず軽い言葉を掛けた。本当にごめん」
松本はしゅんっとしながら、顔を俯けた。松本におそらく悪気はなかったが、片山を思って掛けた言葉が逆鱗に触れたようだった。
「ったく。しっかりしてくれよ!マネジャーなんだからさ」
片山は吐き捨てるように言葉を紡ぐ。
「う、うん。今後は失敗しないように注意するわ」
松本は俯きながら、頷いた。今、松本からはマイナスのオーラが放出される。
「ちっ。それにしても、部活での不調の原因は絶対に今日の休み時間での出来事だ。そうに違いない!なぜだ、なぜあの陰キャの朝元に増本羽矢や与田莉菜が寄ってくるんだ。しかも、すごく親しげに雑談もしてたしよ〜」
片山はぶつぶつと不満を吐き出しながら、地面に転がる小石を本気で蹴り上げた。小石は4メートルほど前方に勢い良く転がる。
「信じられねぇ。信じられねぇ」
片山は爪をかじり、満足がいくと、ぷっと唾を吐き出した。片山の汚い唾が地面に付着する。
「あー。今日は気分悪いから1人で帰りてぇ感じだわ。だから、今から1人で帰るわ。お前、絶対に付いてくるなよ!」
片山は意図的に松本に視線を送る。松本は視線を素早く察知し、その場に立ち止まった。
「ものわかりが早くて良い」
片山は松本に一瞥を向けると、お礼を伝えず、スタスタと前方に歩を進め続ける。徐々に松本から片山が遠のく。
松本は佇みながら、どんどん離れて行く片山の背中を見つめる。悲しそうに瞳を潤ませながら。
しかし、片山は松本の心境など露知らず、気に掛けた様子もなく、前だけを眺める。
「どうして、どうして、どうして。こうなるのよ・・・」
松本はいささか吹く風に打たれながら、哀愁の漂う表情で片山の背中を捉え続けた。反応が皆無の片山の背中にわずかな希望を持つように。
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