傷だらけの花
たくさんの美しいバラがある。
そんな花壇で、一輪の花だけが傷だらけだった。
「どうしてこんなに傷だらけなのかしら、お花のお医者さんに診てもらわなくちゃ」
なぜか、大勢でいると、その花は傷を受けてしまう。
けれど一輪だけにすると、元気になる。
そんなとても不思議な花。
「この花をよく育てるには、特別に目をかけてやるしかないでしょう」
「わかりましたお医者様」
だから、花をそだてている人は、特にその花には注意していた。
一輪だけの花では、さぞかしさみしいだろう。
そう思って様々な治療を試してみたが、多くの花と一緒にすると、その花はいつも傷だらけになった。
だから、その美しいバラは、かわいそうなことに一生一輪だった。
けれど、バラはそれで満足だった。
最愛の育て主の特別であれたのだから。
この上なく幸福な一生だった。
「特別な愛情をえるためなら、この身に生えたとげで自分で自分を傷つけるわ」
敵を傷つけるための武器を、自分に使って微笑んでいた。
健康に生きることより、その花にとってそれは大切なことだったのだ。