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第8話 好奇心の獣 前編

 ――放課後。


 コンコンッ

「失礼します」

「おお、ちょうど来たのぅ!」


 理事長が足早に歩いてくる。口ぶりから紹介してくれる人はすでに来ているらしいが、そこにいたのは制服に身を包んだやや小柄な生徒が椅子に腰かけているだけだった。

 促されて彼の正面に座る。


「さて、早速じゃが、本題に入らせてもらうぞ」

「は、はい!」

「彼が話していた魔法に詳しい人物で、この学園の3年生じゃ」

「グレース先生ですね? 初めまして。ヒューゴ・セルヴァンと申します」

「! 初めまして! グレース・ベネットです」


 起立し深々とお辞儀をしながら自己紹介した彼に、わたしも慌てて立ち上がり自己紹介をし返す。理事長が笑っていたから、傍から見たら面白い図になっていたのだろう。


「セルヴァン君、彼女、グレース先生は……」

「ああ、大丈夫です。学園から公表されている情報はすべて把握済みです」

「そうかそうか。では、グレース先生にセルヴァン君のことをしっかり紹介するかの」

「はい、お願いします……!」

「彼は、学園において最も多い魔力を持っておる。生徒だけでなく教官やわしをも超える量じゃ」

「理事長は確か大魔法師の資格をお持ちですよね。魔力の量も重要な資格で世界でも数人しか所持者がいないのに、それを超える量を彼が……?」

「うむ。わしら男性は産まれた時から魔法に触れておるから、他人がどれくらい魔力を持っておるかある程度は感じ取れる。彼が初等部に入学した時、驚いたのも懐かしいわい」


 理事長は長く伸びた髭を撫で目を瞑りながら思いを馳せる。

 わたしはまだ魔力があることが分かってから少ししか経っていないから、周りの人がどれだけ魔力を持っているか、そもそも魔力自体を感じることがほとんどできない。分かるのは、精々、供給して相手が満杯になった時に返ってくる魔力くらいだ。

 それでも、理事長以上に魔力を持っているセルヴァンくんが規格外なことは十分理解できる。


「彼のすごいところは魔力の量だけじゃない。これだけ魔力があれば、多少雑に魔法を使っても強引に押し切ることができる。じゃが、彼の元来の性格からじゃろう、あらゆる物事を知ろうとするのじゃよ。幼少期から到底読めないような文献も好奇心から読み、それらを理解した。今では、世界中の閲覧可能な文献はすべて読んでおり、誰が読んでも分かりやすいように噛み砕いたものを完成し次第学園に置いておる」

「世界中の……! わたしが調べた時には言語がまったく分からないのもありましたが、それらも読めるんですか! すごい!」

「ただ、好奇心が旺盛なのはいいんじゃが……」

「?」

「……グレース先生は、いつ頃魔力を持っていることに気付いたんですか? それに聞くところによると、純度がルカ先生をもはるかに凌ぐそうではありませんか。僕はまだ供給を受けたことがないので、その感覚は未経験ですが、女性から魔力を感じている今この瞬間がすでに不思議ですね! 確か、ウィックニ―諸島の文献に半陰陽で魔力を持っていた事例があったはず……。その方は男性ホルモンが女性ホルモンよりも優位で、体も半陰陽とは言うものの男性寄りだった、との記述があったと記憶しています。あまり長く生きられなかった、とも。しかし、先生は完全に女性ですよね? これまで見たどの文献にもなかった事例が今、目の前にある。こんなに心躍ったのはいつ以来だろう……!」

「わっ! セ、セルヴァンくん!」


 ソファから立ち上がり、眼鏡の奥の目をキラキラさせながらわたしに詰め寄ってくる。突然の出来事に手を伸ばして制止すると、嬉しさにあふれていた表情が一変し悲しそうな顔をした後、語り始める前のセルヴァンくんに戻った。


「あ、あの……?」

「すみません。……気持ちが昂ると、つい口早になり相手が聞きたくないだろうことまで長々と話してしまう癖があるんです。知りたいことがあれば、周りを見ずに突っ走って迷惑をかけてしまうこともしょっちゅうあります。同級生にも同じようなことをしてしまい、煙たがられています」

「……彼の魔力と知識の量は学園一なんじゃが、人間関係があまり得意ではなくてな。少し距離をおかれておる」

「僕の長いうえに難解な話に付き合ってくれるのは理事長くらいですよ。グレース先生も僕のこと、ウザいし面倒なやつだと思いましたよね。今までもみんなそうでしたし、」

「そんなこと!」


 思ってない。微塵も思ってない。

 その気持ちが先走り、セルヴァンくんの言葉を遮って語気を強めてしまった。驚いた顔をする二人にハッとし、何事もなかったかのようにゆっくりとソファに座り直す。顔に全身の熱が集まっている気がする。


「、本当に……?」

「へっ?」

「僕と会話をするの嫌ですよね……?」

「いえ! むしろ、わたしが知らないことを教えてくれて感謝しかないですよ!」

「そんなわけ……」

「さっきの、ウィックニー諸島でしたっけ、たしかすごく小さな島国で独自の言語がありましたよね。読むのも大変だったんじゃないんですか? 共通言語に訳されてたかもしれませんが……」

「! 訳されているのもありますが、僕はできる限り原本を読みたいのでそっちを読みました。訳しながらは大変でしたが、ウィックニーの言語は法則性があって、それがすごく面白くて……あ、また……」

「続き、聞かせてください。それと、魔力や魔法のことも、これからたくさん教えてくれますか?」


 おずおずとこちらを見ていたセルヴァンくんの瞳が、みるみるうちに輝いていくのがよく分かる。

 時間の許す限り、理事長室で魔法のことについて教えてもらった。彼の言った通り、興奮すると早口になり一方的に話してしまうようだけど、彼の話はとても分かりやすくまとめられていた。途中途中に関連した豆知識が入るくらいで、大きく脱線するようなことはなかった。


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