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第4話 はじめてのきょうきゅう 後編

「えっと、聞き間違いかな、あの」

「……キスです……」

「……キス、ですか」

「あぁ……やっぱり嫌ですよね、今日初めて会った相手と魔力を供給するためとは言え、こんな、」

「いえ、全然」


 ……ん? 全然?

 全然いいです? 全然嫌です?

 ど、どっちの意味で言ったんだろう。


「先生はとてもお綺麗ですし、供給にかこつけて……じゃなくて、供給のためのキス、嫌じゃないですよ」

「あ、ありがとうございます?」


 混乱してなぜかお礼をしてしまった。何はともあれ、彼の許可も取れたのでこれで供給が出来る。

 出来るんだけど、あくまでスタートラインに立っただけで、ここからわたしが行えるかどうかはまた別の話であって。


「先生? どうぞ」


 目を瞑って待つレオくんに余計に緊張する。

 こんなの、まるで……まるで、キスじゃない……! 最初からキスなのは分かり切っているけど!

 職員には何回もしたというのに。そうだ、これは供給、供給、なんの感情もない行為……。


「い、いきますねっ!」


 心で呪文のように何度も唱え、意を決してレオくんに口付けをする。


「っ!」


 魔力を送り込んだ瞬間、レオくんの体がわずかにびくりとする。魔力が合う、合わないは魔石からの補給でもなるって理事長は言っていたはず……。慌てて口を離すと驚いたような顔で固まっている。


「あ、あのレオくんっ大丈夫でしょうか……? わたしの魔力が体質に合いませんでしたか? それとも他に何か不都合が?」

「……キスの時に魔力を送りましたよね? 魔石ではないですよね?」

「は、はい。……やっぱり気分が悪くなりましたか?」

「逆です」

「え?」

「すごい……こんな純度、ルカ先生並み、いやそれ以上か」

「ルカ先生?」


 確か学園の職員名簿にルカという名前があったような。まだ会ったことはないけれど。


「検査の時、みんな純度が高いとか言ってませんでしたか?」

「ああ、言っていましたね。ただ魔法や魔力のことにはとても疎くて、純度というものがよく分からなくて……」

「そうですね、できる限り分かりやすく解説してみますね」

「は、はい!」


 --------------------------------------------------------------------------------


 レオくんが言うには、わたしの魔力はなんの混ざり物もない真水のようなものらしい。逆にみんなが持つ魔力は、例えるなら砂糖水や塩水のようなもので、真水に近い人もいるが、わたしほど何も混ざっていない人は今までいなかった。らしい。

 魔石から得る魔力は、その砂糖水や塩水に苦味や酸味が加えられていて、人によってはその苦味や酸味が体に合わず気分が悪くなるんだとか。


「とても分かりやすかったです! わたし、自分の魔力のことすら何も分かっていなかったんですね……」

「今まで魔力や魔法と無縁の生活をしていたんですから、無理もないですよ。……それより、もっと貰ってもいいですか?」

「えっと、」

「魔力です。こんなに気持ちいい魔力、そうそうないですから。ああでも、これからも先生から供給されるんですよね?」

「そうですね、何か不備などがなければ、このままこの学園に勤めますので」

「嬉しいです! でも他の人にも供給するんですよね? それはちょっと、かなり嫌だなぁ」


 いろいろ喋りながら百面相するレオくんを見つめる。何を言っているかはよく分からないけど。

 でも、体質に合わなかったり供給――もといキスが嫌だったりしたわけじゃないのはよかった。これから働いていく中で、体質的に合わない生徒も現れてくるだろう。供給によって体調が悪くなった生徒の介抱の仕方も学んでおかなければ。

 今後について考えごとをしていたら、今度はレオくんがわたしを見つめていた。


「あ、あの……?」

「供給、まだかなぁっていい子で待ってました」

「え、ああ! すみません!」


 再度どうぞと言わんばかりに目を瞑るレオくんに供給を行う。今度は途中でやめることなく。

 魔力の量の上限になると、送り込んでいるはずが自分の方に戻ってくることは検査で分かっているので、上限までしっかり送り込む。

 レオくんのそもそもの魔力の量も多いんだろうけど、それにしてもたくさん使ってきてくれたんだなぁ。

 ずいぶんと長く供給した気がする。唇を離すと、とても満足そうな顔をしたレオくんに思わず笑ってしまう。


「ふふ、」

「なんですか」

「いえ、そんなにいい魔力でしたか?」

「はい、もちろん! まあ、それだけではありませんが……」

「え?」

「なんでもないですよ。今日はこれで終わりですか?」

「この後、理事長に報告して終わりですね。レオくんの意見も欲しいとおっしゃっていたと思うので……」

「理事長室ですね、一緒に行きましょう」


 椅子から立ち上がったレオくんは、すっとわたしの前に手を差し出してくる。これはこの手を取って立てということなのだろうか。レオくんを見上げるとそうですと顔に書いてある気がしたので、おずおずと手を伸ばすと嬉しそうに顔が綻ぶ。今日、というかさっき会ったばかりなのに、こんなに懐いてくれて嬉しいようなレオくんの今後が心配なような……。


 勤務初日、ではなく前日のお試し魔力供給は無事に成功に終わった。これからの仕事への弾みになるといいなぁ。

次回は3,4話のレオポルド視点です。

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