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大波注意報6

 カンムは池の鯉みたいに口をパクパクさせて目が点になっている。

「確認のために聞くけど、先ほどお会いした方よね?」

「ええ、そうですよ。お会いしましたね。頂いた果物はおいしかったです。ご馳走様。服、お似合いですよ。可愛いです」

 にこりとユジンはカンムに微笑んだ。どっからどう見ても、美しい女性だ。ちょっと胸が平らなだけで……。

「お、お、女じゃないの!?」

「いいえ、違いますよ。髪をおろしていたため、誤解されたのでしょう。申し訳ございません。それと、僕は生まれたときから男です。よく間違えらますが、れっきとした男ですので。――なんなら、確認しますか?」

 カンムは恥らうこともなく即答した。

「うん」

 ユジンに近づくカンムにぎょっとして、慌ててライはカンムを引き止めた。ユジンは冗談で言ったのかも知れないのに、真に受けて触ってはカンムの評判に関わる。

「カンム様! 何をなさるのです!! 」

 羽交い絞めにされたカンムは「離せ!」と足をバタつかせる。

「少しだけ、胸を触るだけだ!」

「なに堂々と変態発言をなさるのですか! 初対面で胸を触るなどとは言語道断です」

「僕がいいと言っているから、どうぞ」

「ほらな。ライ、ユジン殿がいいと言っているではないか。聞こえたらさっさと離せ」

 了解も得ているが、ユジンの胸をおそるおそる触った。ライは、恥ずかしがって顔を背けた。

「ない。胸がないわ。でも貧乳ってこともありえるわ。そうよ、ここを確認しなきゃ……」

 すっとある所へ手を伸ばした。

「カンム様何しようとしているんですか!? そんな子に育てた覚えはありませんよ」

 ライが不安を感じて止めにはいろうとしたが、おそかった。後一歩届かない。

「ああ、筋肉がある。女の人と違うわ。女の人なら、ぷよぷよだもの」

「っえ? 二の腕ですか?」

まだユジンの二の腕から手を離さず、触っている。

「なに言っているの? 面倒はかけているけれど、ライに育てられてはいない。二の腕を確かめただけじゃない。これはセクハラじゃないわよ」

 ライはほっとした。想像していたことにならずに安心してカンムの後ろの位置に戻る。

 たんなる思い過ごしだったみたいだと安心した。

 いくらなんでもそうだ、冷静に考えればカンム様は頭をよぎった確かめ方はしないと分かりきっているというのに自分のほうが慌ててカンムに悪いことをしたと心の中で謝るがふと疑問に思った。

 カンムはいつもならば男ならばすぐに気付くはずなのだ。

「どうして触れることができたんだ?」

 ライの呟きはユジンにかき消されカンムの耳には届かなかった。

 

「これで男だと納得していただけましたか?」

 ユジンは怒るどころかカンムの反応をおもしろがっているようだ。

「ええ。勘違いしていたみたいで、ごめんなさい。そうよ、さわったとたんに蕁麻疹がでてきたもの。あーかゆい! ライ薬取ってきて」

(触ったとたんに出てくるなんて! 話すだけなら出ないみたいね。でもどうしてかしら? 他の男性なら近づくだけで蕁麻疹が体中に出る前に怖く感じるのだけれど。確かにライの情報通りだわ。モムチャンが大好きな若い女の子がこんな女顔の人を結婚相手としてみないわ。けど私には好都合だわ。男と思わなければ平気みたいだから)

「それにしても驚かれたでしょう。モムチャンを望んでいらしたのでは。僕は全然そういった筋肉がないから……。これでも鍛えているのだけれど筋肉がつきにくいようで」

――そう、モムチャンとは、若者の間で生まれた言葉で、筋肉が引き締まり、腹筋がいくつにも割れていること。

 お腹に出来た王の字は男のプライドだ。

 侍女や女官から聞いたモテる第一条件は、モムチャンなため普段から鍛えている兵士が人気だ。

 また、鼻筋が通っていて目が一重なのも今は人気だ。

 汗をかいたあとにさわやかに汗を拭き、水を飲むタイプのことを指していると噂を耳にした。

 手入れが行き届いた髭を生やし似合って入れば尚のことお姉さま方の愛を独り占めするぐらい人気らしい。

 男らしい代表として挙げるなら、ライだと口をそろえて侍女たちが言う。

 腹筋が六つに割れ、特技のように胸筋をピクピクできると見せてくるのがカンムは嫌がるが侍女たちは黄色い悲鳴を叫ぶ。

 宮内なら、モテ男は一位はライだろう。

「いいえ、私はモムチャンなんて男臭いのはいやなの。ライは一緒に居すぎて神経が麻痺して分からなくなってるし、なんて言うかお兄ちゃんっていう感じだから違うのよ」

 パアッとユジンの顔が明るくなった。

(ちょっと可愛いかも)

「ねえカンム、気に入ったでしょう? 仮婚約でなくて、本当にしたらどう?」

 ミンギは肘でカンムの腹をつつくが、カンムは真面目に答える。

「いいえ。これもクィを捕まえるまでです。ユジン殿には悪いですが、本当に婚約するつもりはないので」

「なら、僕と駆け引きをしないですか?」

 何を考えて言っているのだろかと戸惑った。聞き間違いじゃないかと耳をほじった。

 わけの分からないことを言われてユジンをカンムは睨みつけた。

 後ろから小声で、「睨んではいけません」とライはなだめたが効き目はなさそうだ。

 そんなことにかまわず話をユジンは続けていく。

「僕、いや、私はカンム様に惚れてしまったのです。今まで女顔とさんざん惨めな思いをしてきましたが、カンム様は笑わずにいてくれました。そこでこれは運命だと感じたのです。せっかくはるばる領土を出て会いにきたのです。一つぐらい聞いて下さってもいいのではないですか?」

 真剣な眼差しでカンムを見つめている。

 カンムはわざわざ来てもらった手前ここで断る訳にはいかない。

「いいでしょう。一つだけよ。ただし、今すぐ結婚して下さいだけはだめよ」

「二週間、僕に時間を下さい。この間で僕に好きと言わせてみせます」

「ふっん、やれるものならやってみなさい。この勝負受けてたつから!」

 ずっと、傍観していたミンギが手を腰につけて、二人の話に口を挟んだ。

「二人とも勝手に勝負になってるけど、クィを封印することが目的なのだから必ず封印しなさい。分かっている?」

「はーい、分かっているわよ。かあさま、見ていて! 早々に捕まえて民の平和と婚約解消の一石二鳥にするから」

「そんなこといっても、僕とカンム様とは最後は結婚する運命だよ。僕のほうが年上だしお兄さんと呼んでもいいけれど名前で呼んでくれて構わないよ。カンム様とお呼びするのも他人行儀だから愛称で呼んでも? あなた~とかお姫様とか、あとは――」

 カンムは一気に鳥肌が立ち、身震いする。

 愛称を選ぶまで言い続けそうなユジンを黙らせようと口を挟んだ。

「カンム」

「えっ?」

 ユジンは小さく聞き返した。

 思ってもいなかったらしい。

「私のこと『カンム』と呼んでいいから。対等な関係を望んでいるのならば敬語は使わないから。いいでしょ、ユジン?」

「ではカンム。いつでも愛称で呼ばせてくれることを待ってるよ。それにユジン兄さんと呼ばせてあげるよ。カンム」

 親しい人に間柄で兄妹のように育ち『兄さん』と呼ぶことはある。

 年下から年上の男性に『お兄さん』と呼ぶのだが年下の女子たちが愛をこめて呼ぶ愛称でもある。年下の彼女の場合に鼻がかかった声で呼んでもらいたいらしい。

「そんな日は来ないから期待しないで」

 両者一歩も譲らない。ユジンは笑顔を絶やしていないが、カンムはユジンを見上げて、眉を吊り上げている。

 この見えない火花の間に挟まれているライは、「はぁ」とため息をつき、たぶん(いや、接待)巻き込まれることを半ばあきらめたのだった。

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