大波注意報5
斎宮は、大きく三つの棟があり、カンムが私的につかっている・風の棟、客室や祭事につかわれる・泉の棟、あとは来客用の鋼の棟だ。
棟をつなぐ中央部分には、縁側がある。普通は庭園なのだが、カンムの希望で縁側にされた。カンムは、暇があるとき縁側で茶を啜りながら、日向ごっこをするのが日課になっている。
「なんで今日は斎宮で会うの? しかも、風の棟で行うなんておかしいわ。せめて、鋼の棟でしょう」
カンムは髪を大きな槿の花が模られた飾りとガラス玉が揺れる簪で結い、初夏の暑さを和らげる涼しげな明るい水色と黄緑の葉や花が刺繍されている韓服を着ている。
「しょうがないでしょう。お見合いみたいなものだし……」
なぜかライまで一緒に風の棟に来ている。しかも、服装を褒めるどころか、『うん、やっぱり髪をあげたほうが、腫れたみたいにパンパンの顔が普通に見えますよ。それにこの服ですと、服に着られてるというのは今のカンム様の状態のことですね』とまで言われた。
(普段着慣れないし、似合わないかもって思ってはいるけど、年頃の子に何を言うんだ!
ここはお世辞でも、お似合いですねっとか、痩せて見えますよとか、いえないわけ!?)
「もういいわ。それよりもどんなかたかしら? 何も聞いてないわ」
「羽家の二男で、名前がユジン。年が十九歳らしいですよ。ですが、羽家に詳しい女たちが言うには、あの方とは友達としたら最高ですが、殿方として結婚には向いていないと申していましたよ」
(十九といえば、とっくに結婚してもいいころなのに。羽家だということも考えたら、女性には困らないと思っていたけど現実は厳しいのね。そんなにお顔が変なのかな?)
「おかわいそうに。でも、安心したわ。ようするに、性格がいいってことでしょう? だったら、ちっこいだの、太っているだの言われないはずよ」
部屋にはいるとミンギと、先ほど笛を奏でていた女の人が座っていた。
(相手方の付き人だったのかしら?)
「カンムこっちに座って。ライも座る?」
「いいえ。私は護衛なので遠慮いたします。お気遣いありがとうございます」
「あら、そうなの残念」
(おい、何が残念だ!)
カンムは心の中でつっこむがミンギには言わないでおいた。これ以上話をややこしくしたくない。うきうきとしているミンギはカンムが不機嫌そうに睨んでいることも目に入らない。
「それじゃ、紹介するわね。コレが私の娘であり次期宮主のカンムです。こんな姿だけど、やせたらマシになるから」
実の母だというのになんて言い草だ。そこまで太ってはいない。若干豊艶なだけだ。大きなお世話だ。こめかみに青筋を浮かべながら聞いていたが、いつまでたっても室のなかにユジンらしき人が現れない。女性だけだ。
「ユジン殿がまだなのではないですか?」
「なにを抜けたことを言っているの? ユジン様に失礼でしょ。間抜けなのは知っているけど、初対面から失礼ね。あなたの目の前にいらっしゃるでしょうが」
「えっ? かあさまのほうこそ目が悪くなったのでは? 目の前には男性なんていませんよ……」
しかし、ミンギはにっこりとカンムに微笑むと冷や汗が背中をつたった。
「も、も、もしかして――」
「その通り。この方がユジン殿よ」
「はじめまして……、じゃないね。カンム様」
くっと、今にも噴出すのをミンギは必死でこらえた。ライは笑いをごまかすために軽く咳き込んでいる。