大波注意報2
「――カンム」
名を呼ばれたような気がした。
「カンム様、カンム様ってば! 早く起きて下さい。宮主様がお呼びですよ」
まだ夢の中との区別がつかないまま目をあけた。さっきとは違う声で名を呼ぶ。腰に剣を付け、黒い服を身につけ、相変わらずふわふわ猫毛のライの姿があった。いつもは彼が起こしに来ることはない。
「う~ん。なによ? なんであんたがいるのよ」
知らない間に開けられた窓から心地よい風が入ってくる。
うなりながら、カンムは布団に潜っていく。朝つゆの日差しは、目にまぶしい。
「ああぁ、また布団に潜るのはおやめ下さい。さっきの話聞いていましたか? 宮主様がお呼びです! 侍女たちは手荒く起こせないので私が来ました」
ライは勢いよく布団を持ち上げ、ふり回した。布団を除けるだけでは生ぬるい。実際、寝台は空っぽだ。布団にへばりつき、ふり回しても落ちる様子がない。このままでは、宮主様に怒られてしまうと髪をかきあげた。
「しょうがない奧の手段を使うか。こうなったのはカンム様が起きないからですよ」
カンム付きの布団をそっと寝台に戻す。カンムはお構いなしに、何事もなかったかのようにまだ目を覚まさない。
ライは、寝台から一歩下がり、礼をした。顔を上げぼっそとつぶやく。独り言のように小さい声だ。たぶん隣で聞いていても気づかないだろう。
「チビ」
瞬間にカンムの目がぐっわっと開き、飛び起きる。そして、寝台の上に立ち上がりライを見下ろす。
「なんだと!! だれがチビだ。自分がデカイからといってなんて言う言葉を使うのだ! チビと言う言葉は侮辱だ。屈辱だ。だれがそんな心の傷をえぐる様なことを……」
天をあおぎ、涙を流している。さっきまで、寝ていた人間のできることではない。
「ライ、聞いているのか? いつも見下ろしてばかりいるから背の小さい人の気持ちが分からないのでしょ。なんせ、百八十五センチは超えているからな。ちびっ子の気持ちが分からないのだよ。私は約三十センチ低いからな。しかも、ちょっとだけポッチャリ体型さ。自分で言うと認めるようで涙が出る。うぅう」
半分涙目になりかけて、必死で上を向いて涙を堪えている。
「誰も体型まで言ってないですって……」
そう、カンムは身長が百五十センチ(本当は百四十八センチ)で、体型も痩せているとはいいにくいが、同じ歳の子と比べたら、ちょっぴり顔に肉が付いている。この国の平均身長は女性でも百六十センチ以上だ。
「心配しなくてもまだカンム様は十七歳だから、まだあきらめてはいけませんよ。俺でも同じぐらいの歳で十センチ伸びましたし。お顔の肉もほっそりしますから。でも体型が変わるとは思いませんけど頑張って小魚食べてください」
ライはフォローしたつもりだったが、ますます怒らせただけだった。
「ライ、歯をくいしばれ」
振り下ろされた平手打ちは素早くて、やばいと思った時にはすでに遅い。
バッチーンと大きな音が廊下まで響きわたっていた。