大波注意報1
あの夜からもう、二週間が過ぎようとしていた。探させてはいるのだが、イニョンは見つからない。しかし、宮下では今までなかった誘拐が広まっていた。
同じ頃宮では、第二十四代目宮主・シン(親)家ミンギと、分家と呼ばれる・ウ(羽)家インジェ、パク(白)家ホンゲ、イ(伊)家セギ、キム(金)家スヤら、大五家各当主と話し合いが行われていた。
ホンゲが身を乗り出し、声を荒げた。
「宮主殿、今おっしゃられたことは本当ですか?」
「ほんとうだ。私には力を持っていない。しかし、娘のカンムには力が宿っている」
「しかし、まだ十代の子どもです。そんな子どもに任せる訳にはいかない。なんとしても我々で捕まえるのです!」
「では聞くが、四家の当主たちよ。この世に、クィを封じ込められるのはただ一人だけだ。ファンヌン様が残した力を受け継いだ者。力はあざのように目に見える形で引き継がれていったとされているだろう。私に封じ込める力はない。しかし、カンムには直系で、生まれたときに家紋である槿の花が浮かんだのだ。この目でそなた達も見たであろう」
「四家の代表として言わせていただくが……」
「なんだ、羽家の当主・インジェ殿」
「この国は、古くから『クィ』が住み着いており、天神の子・ファンヌン様と我らの祖先達が、クィと戦い、なんとか社に封じ込めたと伝わっております。巻物には続きがあり、その後ファンヌン様の子タングン様が国の治めたあと、ファンヌン様の力を親家の当主ムリョウに継承しました。血がつなぐ力です。ムリョウは当主から宮主になり、国を治められ今でもこの宮主の血統は残っております」
「そうだが、何が言いたいのだ?」
「宮主様、この話にはまだ続きがあります。我ら、四家だけに伝わる話です。宮主の力が暴走しないよう、封印としての能力をタングン様から受け継ぎ四家の中で、鳥の痣が出ている者が持っています。ですから、カンム様が宮主に就任なさるときは、このものを婿に迎え入れて下さい」
「その者とは?」
ミンギは、まっすぐインジェを見つめた。その張りつめた緊張感に、他の当主たちの顔が引きつる。
インジェは少しためらい、申し訳なさそうにぼそぼそっと話した。
「実は、私の息のユジンでして……」
「あの子が? ずっと隠しておいたのか!!」
今にも、置いてある水をぶっかけそうな勢いのミンギに鋭い視線で刺されているインジェは耐えきれず机の下に潜って視線から身を隠す。
このままでは、らちがあかないと、セギが張り詰める二人の空気に割って口を挟む。
「ですが、二人を一緒にしなければ意味がないのだから仕方がない。それに、カンム殿が嫁ぐわけでもないのだからいいじゃないか。案外あの二人ならうまくいくと思うのだが…どう考える? カンム殿は、大の付く男ぎらいで幼少時に知り合った男しか近づけないだろう。ユジンは気にしているがあの顔は問題ない」
横で他人事のように傍観しているスヤに目で合図を送る。
『今だ。言え、攻めどきは今しかないだろう』
『そう言っても、どうやって納得させよう?』
『それはスヤの仕事だ』
「スヤはどう思う? やっぱり反対だろう?」
「えっ!?」
ミンギに突然話をふられ動揺する。セギを見たが何事もないように素知らぬ顔で茶をすすった。『お前のせいだ!』とセギの太ももをつねるが手を貸さない。
「どう思うのだ? 言ってみたらどうだ? 幼馴染みなのだから今さら緊張する仲でもないだろ」
再びミンギに訊かれごくりっと唾を飲み込んだ。
「えー、私もユジン殿とならカンム様の性格も合うと思います。力どうこうではなくても、私たちの子では、歳がカンム殿とずいぶん離れておりますので今後の結婚を考えてもいい選択だと思います。皆さんそう思いませんか?」
ミンギ以外の全員が肯き、さすがにミンギも観念したようだ。
「ああ、仕方がない。なるべく早くユジンをこちらへ連れて来て下さい、インジェ。それと、一つ提案が……。一週間だけでいいから、娘達に時間をあげたいのです。クィを捕かまえた後、相性がどうしても合わないのであれば結婚は自由にして構わないということを条件とし、宮主か、正式な後継者でしかもつことのできないこの腕輪をカンムに渡すことを了承すること。この受継がれている腕輪はカンムの助けとなるはずだから。意義はないな? 後から意義申し立ては一切聞かぬからな」
全員が顔を見合わせ肯いた。
「カンムにはユジンが到着後、私が話そう」