表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

バトルオブワーク

作者: 孤独

その鐘はまだ鳴ってはいない。

しかし、そこで戦いの如く働く者達がいて、そんな奴等に実況と解説、観客となって声援を送る者達もいる。

始まりの鐘は鳴らずとも、熱い実況と共に始まっていた。


「さぁー、始まりました!!バトルオブワーク!!第3回、我が社最高の社畜選手権!!決めましょう!!誰がこの会社で働いているか!!どのチームが一番、働いているか!!実況は、第一部長、高梨!!解説は、計画責任者課長、山川!!その他、多くの他社におられる部長の方々、ご利用されるお客様が観客となってネット通して視聴しております!!」

「はい、山川です。よろしくー」



そんな挨拶と共に、


「殺すぞ、テメェ等!!」

「ふざけてんじゃねぇぞ!バーカ!!」


まだ戦いは始まっていないはずなのに、実況者達に罵声を飛ばす選手もとい社畜達。


「まずは1時間前の作業着手からか……」

「仕事中は何が起こるか、分かりませんからね!!」

「社畜によっては、1時間半前。あるいは2時間前からの入念な準備をしていますよ」

「本当に素晴らしい!あらゆる事態に想定した、まずは当然の社畜としての対応!!」

「もう起こってるよ!!人手不足だから、こーいう緊急事態になってんだよ!!」


ふざけてる場合じゃないんだよ。実況・解説やって、この仕事風景をリアルで流してスパチャ貰ってる場合じゃねぇよ。逆に人が来ないだろうが!!


「社畜の皆さん、とても静かなサービス業務です!」

「黙々と作業されております……!」

「あーーーっと!これはなんだぁっ!?部長への挑発か!?」


社畜の1人が取り出したのは、スマホと……ワイヤレスイヤホン!耳に付け、作業を始める。


「音楽を流し始めたーー!!あっちではスマホゲー!これはどーいう意図があるんでしょう!?」

「仕事と娯楽の両立ですね。長時間労働、加えてサービス残業です。溜めたストレスを少しでも発散させるため、音楽やスマホゲーをやりながら、仕事をする。まずは精神の安定化です」

「しかし、この仕事に対する姿勢は見せられない!とてもお客様に見せられないーーー!!」

「ですが、我々も今は”本来”作業をする仕事時間じゃない以上、なかなかご指摘ができない状況です。ここらへんは、無難にこなして、メンタル維持をしつつタダ働きをして欲しいものですね」

「私達も日頃のストレスがある中、こーして仕事してますからね。メンタルは大事ですよ、結局」


そんな実況と解説にイラっと来て、本音を吐き出す社畜達。


「お前等も俺達で遊んでるだろーが!!」

「朝くらい家族と過ごしたいんだけど!!」

「家でPS5をやりてぇーんだよ!」


そんな言葉など、まったく聞く耳を持たないまま。実況と解説は


「あ!失礼致しました!まだ、我々。ここにいる社畜がどんな仕事をしているか、お伝えしていませんでした!」

「はははは、”人”はうっかりしますからねぇ」

「この方々は、荷物の配送業務をやっております!!早朝はこうして、荷物の居住確認、ならびに配達の道順を並べているところです!」

「まだ追加で荷物が来ますがね。こーして朝早く、しっかり準備することで、お客様にちゃーんと荷物を届けられる配慮となっております。居住確認はスマホを片手にしながらする事もできますよ。効率低下するけど」

「素早い配達の前に、確実にお届けするが、モットーですからね!そうでないと、会社として成り立ちません!ここは決めたいところ!」



そんな実況と解説を挟んだ後、ようやくあの鐘が鳴る。



キンコンカンコーン


「鳴ったーーーー!!始業開始の鐘が鳴ったーー!!」

「これで各班も仕事開始です。いつも班に7人ほど配置されているはずですが」

「しかし、……これはっ!!」


おおっ。

そんな声が実況や解説ではなく、ネット中継から見ているお客様達から思わず出た。

分かっている癖してこの驚き方を見せる実況と、冷静な事を言う解説。

それに呼応するように、ネットに飛び込んでくるメッセージも驚きが入る。


「なんだーーー!?人がいないぃぃぃっ!!各班、配置人数が1人・2人と足りていないぞーーー!」

「6人、5人、あるいは4人で、本来7人必要なところを業務するんです。そのための作業前着手だったのです。仕事開始したら、みんなスマホ止めます」


【な、なんて人数でやっているんだ!?】

【今、仕事始まったばかりなんだぜ!!】

【なんでこいつ等仕事してるんだ!?待遇か!?奴隷か!?】

【分類できん!!頭が足りていないっ……!】


驚く実況、お客様達の声を聞いても、社畜達はその現場で戦い、もとい働き続けるだけ。そんな中で作業前着手の時は手を抜いて連中が、こぞって本気を出し始める。

人手が足りておらず、欠けている地区への配達は現場にいる人間で補うわけで


【なんだあの社畜は!?まったく予測できないっ!!】

【一人で二人分をやろうって言うのか!?】

【あっちじゃ三人分を一人でこなす気だぞ!】


人手が足りてないのなら、あなたが頑張ればいいじゃない。うっせー、もう頑張ってるわって感じの態度を業務に表現できるのは、社畜としての質が高い。


「授ける作戦などありませんね。およそ、並の社畜では。一人だけで二人分の業務を行うのは無理・危険とされているが……私達の社畜は平然と行い。それを淡々とこなしていく」

「とんでもない会社です。誠にとんでもない会社です」


いや、お前達が責任者になってる会社だろうが!!

何、他人事で実況と解説を始めているんだ!


「あっ!見てください!5班所属の今年入社の落合くん!23歳の若手ですが、すでに疲労困憊の表情!!君の若さはどうした!?なんのための若さだ!!」

「簡単な業務と侮ってしまいますが、この拘束時間と車の運転、荷物・お客様の取り扱いなど、体力と神経をすり減らします!おおー」

「その落合くんに近づく、先輩ーー!!助ける!!助けに来たっ!?いや、違う!なんだ!?……これは、12時~14時再配のお荷物ーー!!助けるどころか、仕事をさらに渡したーーー!!悪魔か!?この班に在籍している先輩達は!!困っている新人を助けないのかーーー!!」

「確かにそうですが、落合くんはまだまだ仕事が遅いですからね。時間に余裕がある荷物を任せたんでしょう。人が足りてない状況で、足手まといの人間をどう使うか考えた上で仕事を割り振っているんです」

「なるほど!失礼致しました!配達の事、分かってなくて、ごめんなさい!」


おう、テメェが口出しすんじゃねぇ!

仕事が始まったんだから、もう遊ぶのを止めろ。


「困った時こそ、基本に立ち返りましょう。安全運転、居住確認、荷物の取り扱い、お客様対応……」

「!!見てください、一部の人達がもう出発……とんでもないスピードで会社から現場へ向かっていきます!!」

「基本を身につけていると自負するからこそ、基本動作の無視。急ぎつつも体が勝手に注意点に反応できる社畜は、危険を搔い潜りながら作業できるんです。各班、人がいないですからね」

「そうですね!大変ですね」


だから、さっさと補充しろって!!



◇         ◇


【昼はマック頼んだ】

【俺、ジョナサン】


時刻は12:40。

各社、お昼休憩となり、実況・解説、ならびにネットで見ている方々もお食事を摂りながら


「えーっ、昼休憩の鐘は10分前に鳴りました。……全班、誰も帰って来ません。仕事が遅いんですかね?さほど、過去のデータから見ると、物量は多くなかったかと思うのですが……」

「休憩時間を削ってまで作業をする。我が社の基本動作です」


ズルズル……っと、蕎麦という、両手を確実に使わなきゃいけない昼食を食べている実況は、


「末端社員って大変だな。両手で昼飯も食べられないなんて……」

「食いながら業務も時にはこなします。社畜はそーいうスキルなきゃ、いけないんですよ」


一方で解説は、ランチパックを昼飯にしている。そこそこ我が社では人気の昼食の一つであり、食いながら作業ができたり、通勤しながら食べれるという点を評価されている。それより上に来るのが、我が社の食堂。美味しい昼飯を提供し、営業時間を延長してまで社員の皆様に昼飯を作ってくれる神対応!



キンコンカンコーン



「さぁー!午後の仕事の始まりだぁーー!!この15分前に、多くの社畜達が社内に帰って来ました!」

「戻って来てからの配達証の確認、ご不在の荷物の戻しなど業務ありますが。5分7分で昼飯は食べるでしょう」

「そうなると、15分前の帰社。10分ほどの休息で」

「社畜にそれだけの時間があれば十分でしょう」


本来、1時間・45分の休息なんてありませんよって、認めているようなもの。社畜達の多くはそんなに長い時間も休息はいらねぇと作業作業。


「あーーー!!さね配達員が戻ってきたが、様子がオカシイぞ!笑顔を見せているぞ!」

「もう自分の配達地域を終わらせたのでしょうね。彼くらいの社畜になれば、14時前に仕事を終わらせられます。あの班は我が社内でも優勝候補ですよ。質が他とは違う」

「続けて!山口!木下も帰ってきたぁーーーー!!速い速い!!3人共、14時まで粘りの配達を見せ、全て終わらせて戻ってきたーーー!!」


本来、午前に半分行けばいい方と言える配達業務を全て終わらせているのだから、成し遂げられる社畜は時間前着手の業務を込みにしても相当優秀である。しかし、


「ですけど、あの班。3人だけで今日1日を回してますからね。先週からずーっと」

「そうでしたーー!!1人はうつ病で倒れて、現場で働けるのは毎日3人!午後は3人の欠員分を、この3人分の人数で配達するんですうううぅっっ!!」


【すげー!配達となれば、こいつ等に任せる他ねぇー!】

【やり切ってくれーーー!!】

【社畜自慢させてくれぇーー!!】


いや、補充しろよ!!言葉だけの応援なんか意味ねぇんだよ、馬鹿野郎!!


プルルルルルル


「おっとぉっ!電話が鳴ったぁ~~!!山口が出る!なんだぁっ!?これはなんだぁ!?」

「これはお客様対応ですね。あるんですよ、こーいう事」

「電話の内容は……分かりました!これは早く荷物を持ってこい!!お客様からの催促だーーー!!そうです!その通りです!!だって、人がいないんですから、午前に届けて欲しい会社や個人からお願いされる事もあるんですううぅっ!!申し訳ないいぃっっ!!」


マジでホントすまん。時間に余裕あったら、この上司共をぶっ飛ばしておくわ。by山口。


「山口、電話をすぐに切った!!お客様の要求に応えるぅっ!ちょっと待った、休憩とってないぞ!配達に出る気か!?いいのかぁっ!?」

「そもそも休憩をとる概念が彼等にないんでしょう。見てください」

「はい!?」

「先ほど帰ってきたさねも、木下も、トイレと昼飯を食べるのにわずか5分です。お二人共、山口もですが。昼飯は事前に用意しているんです。木下と山口に至っては、妻の愛妻弁当、さねは確か、会社近くのコンビニでもう買ってたかな?」

「働く者には有り難い、いつも24時間ありがとー、コンビニィィ!!そしてぇっ!!家庭を守っていただく、奥様の方々ホントにありがとーーーー!!!(LOVE)って、素晴らしいぃっ!!」


お前等二人は、”GO TO HELL”!

朝早く起きて弁当作るのも楽じゃねぇし、愛でも何でもなく義務的なものなんだよ!!



「山口続行!!休憩をとらないで、業務に入るっ!!とても危険な状態だぞ!」

「このままでは壊れてしまいますね。管理者としての責務は、彼等を休ませる事でしょう」

「それもできないんでしょうかね!?……あ、それ私達でしたね。ま、私には関係ないんで」

「私は山口達がどこまで働けるのか、見てみたいのが本音です。社畜の限界を超えた先があるかもしれません」


【俺の会社にいる社員も、社畜になってから急激な働きを見せた】

【社畜になった者達が辿り着く、限界の先ってのがあれば】

【どんな仕事も成し遂げられますよ!】


山口、速攻で出発。お客様の要求に現状の最速で応える社畜の鑑。



「行ってこい、山口ぃぃぃっ!!お客様の、みんなの要求に応えるんだぁぁぁっ!!」

「その要求には私共の気持ちも入っております」



◇        ◇



17:10


「えー、長かったバトルオブワーク!これにて閉幕です!解説の山川さん、ありがとうございました」

「いやいや、高梨さんの実況も良かったですよ。スパチャとれました」


皆、今日も無事故で業務が終わって一段落つく。

優勝発表は後日するのであるが、間違いなく、山口達だろう。

17:00に3人揃ってもう会社に戻ってくるという、もう社畜の限界まで戦っているような奮闘。実況も解説も、周りに挨拶をしてから


「じゃあ、また明日」


会社から家に帰っていく……。

ほとんど、ここで働く人達は帰っていく……。



「おっし。夜間再配に行くぞ!準備いいな!?」

「はい!あとの残りはマンション区の配達だけです!」

「しゃーねぇな!稼ぎ時だ!」


しかし、山口、さね、木下の3人。また他班の一部の人間は、夜間再配などの業務まで続くため、まだまだ業務は終わっていない。その最後まで見る事なく、実況も解説も、彼等は帰ってしまうのだった。


4月から人手不足に陥るんですが。

アホの極みかって思っている話なんですけど、定年退職する方々の分の補充を忘れてた、間に合わなかったとかって、どーいう事ですかね?上の人事部さん達、何してくれてんの?



その補充に他のところから、仕事ができる状態じゃない、鬱病や病気になった方々を配属させて、人”だけ”はいる事になっているのはどーいう事ですかね?

人は在籍させたじゃん!とか、なにそれ?

カウントするなよ。余計にそうなる人が増えるわ。現場で働く奴等がそーなったら、どーするんだよ!



どこと戦ってるんだろ?

働き方改革で労働時間に余裕作ったら、残業増えて、経営が苦しくなって、サービス低下させて、客減らして、働く人数減らして、一人当たりに求める業務が増えて、残業増えて、サービス低下させて、客減らして、働く人数減らして……。


最終的に1人でやるんか!?

未来になったらアンドロイドやロボットがやるんか!?ハッキリ言って、この仕事、そこらへんの人間の方が人件費も維持費も安いぞ!



1年間は我慢してくれで、現場はもうなんとかしますが。マジで知らんぞって。

このまま、仕事無くなるんじゃないか?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ