19 その後のこと
その後、平静を装ったナツミはそそくさとファンズの待つアジトへと戻った。予定よりもずっと早い彼女の帰還は不自然なものであり、もちろんファンズは怪訝な顔をする。
しかしそれは不慮のアクシデントを心配してのものだ。
間違っても彼女を責めているのではない。何かを疑ってもいないだろう。
そんな彼の期待と信頼を裏切ったことに対する若干の気まずさはあるものの、今さら隠しても仕方がないことを悟ったナツミは開口一番に頭を下げた。
「カズハのことだけど……ごめんなさい。私の独断で役に立たないと判断したから、そのまま追い返してきたわ」
「それはそれは……ずいぶんと急な話だね」
さすがに驚きを隠しきれないファンズは困ったように腕を組む。どう返答すべきか迷ったあまり、うんともすんとも言葉が続かない。
対照的にそわそわと落ち着きがないナツミは部屋の中を行ったり来たりした。自分の独断で決めたこととはいえ、あの場に放置してきたカズハたちのことで頭がいっぱいで、実のところ気が気でないらしい。
「さすがにちょっと強引な手段に訴えてしまったかもしれない……でもこれでよかったのよ。向こうの世界にいるほうが、絶対にカズハにとっては幸せに違いないもの」
昔の癖で、自分の親指の爪を噛もうとしたナツミ。
だが、腕を組んだままのファンズに見られていることを思い出したらしく、その寸前で指を引っ込める。
子供っぽい部分を表に出したくないのが彼女なりのプライドだ。
「どうやら気に病んでいるみたいだね?」
「そういうんじゃないわ。ただ……腹立たしいだけ」
それもきっと、カズハに対してではなく自分に対して腹を立てているのだろう。
もどかしく思っているのが彼女の表情や態度からありありと伝わってくる。
「ナツミ、君はもっと素直なやり方を学ぶべきだと思うよ」
「……あなたが言えること?」
「心外だね。まさか私が素直じゃないとでも?」
「そうだと思うわ。少なくとも恋愛面に関してはね」
「…………」
押し黙って何も答えられないファンズである。
これについては素直じゃないというよりも、単純に照れ臭いだけなのだが。なんにせよ、ブラッドヴァンに立ち向かうマギルマのボスとしては妙に頼りない部分だ。
それを自覚しているからであろう。いつまでたっても慣れない気恥ずかしさに顔を赤らめつつあったファンズはわざとらしい咳払いをして話題の転換を図った。
「そうそう、先ほど部下の一人から報告が入ったよ。早ければ今日の夜にも市民革命団の蜂起があるようだ。我々が極秘裏に横流しした魔道具を武器にしてね。ふふん、どうやらブラッドヴァンに立ち向かおうとする勇敢な市民もゼロではないらしい」
「小躍りしたくなるほど嬉しい報告ね。……それが今日でさえなかったら」
「おや、置き去りにしてきたカズハのことが心配かい? 大丈夫、すぐにでも監視役となる人間を何人か向かわせるよ。彼女たちが街を出るまでの安全は、陰ながら保障できるはずさ」
「寄り道せずにゲートを通って、ちゃんと外の世界に出ていってほしいものだわ」
「心配なら君が様子を見に行くかい?」
「……時と場合によっては、ね」
「ふふん」
鼻で笑ってはみたものの、あまりからかうと、しっぺ返しが怖い。
ほどほどにしておくファンズである。
「とりあえずマギルマとしては、今夜にも勃発するであろう市民の蜂起に便乗しておきたいところだよ。正式に手を取り合うべきかどうかは別としても、オドレイヤの敵が増えることは喜ばしいムーブメントだ。この流れを見逃す手はない」
「使えるものは何でも使うってわけ?」
「マイナスでなければね」
たとえ一人ひとりは無力な市民であっても、団結すればそれ相応の力になる。それが数と連携を軸とする組織の力である。
無論、正しく統制されて初めて発揮されるものではあるので、現時点では烏合の衆に過ぎない市民革命団など、現実的にはあまり意味のある戦力には数えられないだろう。
全員に強力な魔道具を配ったとしても、あのブラッドヴァンが相手では到底勝ち目がない。
「一部の市民がオドレイヤに反旗を翻したところで、アヴェルレスにさらなる混乱をもたらすことになるだけかもしれないが……ん?」
どちらかといえば穏やかな雰囲気に包まれた会話の途中だったが、このときファンズは無視できないレベルの違和感に気付いた。
固く閉ざされたアジトの一室に、不穏な“流れ”が発生したのである。
慌てて周囲を取り囲んでいる壁に目を凝らすと、微弱な魔力によって燃焼を続けていた魔術的なろうそくの火が消えた。ただの灯りではない。これは一種の警報装置の代わりであり、この隠れ家に近づく不審者を察知すると、自動的に火が消えるよう作られているのだ。
侵入者のやってくる方向が大まかにわかるように部屋の四方に設置されているが、それらはわずかな間を置いて順繰りに、やがてすべてが消えてしまった。
音らしい音もなく、小さな照明だけを残した部屋は薄い暗闇に包まれる。
「残念ながら、どうやら囲まれているみたいだね」
「……ごめんなさい。私がつけられていたのかも」
肩を落としたナツミが自分への失意とともに嘆息する。
突き放して別れてしまったカズハのことを気に病むあまり、周囲への注意が散漫になっていたことは否めない。隠れ家を突き止めようとする敵対組織の尾行者があったとしても、それに気がつけたかどうか。
「責任は自分でとるわ。私が追い払ってくる」
喉元からせりあがってくる強烈な自己嫌悪と彼に対する申し訳なさから、勢いあまって反射的に部屋を飛び出そうとしたナツミだったが、彼女が背を向けるより前にファンズが呼び止めた。
いかにも冷静沈着な彼らしい口ぶりで、すっかり敵に囲まれているというのに慌てた様子はない。
「待ってくれ。さすがに敵も馬鹿じゃないからね。こうやって奇襲を企てているからには、きっと風魔法の対策くらい考えているよ。ここで君が出るのは危険だ」
「だけど……」
扉の前で一応は足を止めておいて、しかし完全に思いとどまったわけではなかったナツミはためらう。
確かにこのまま無策で迎撃に出るのは危険に違いない。なにしろ敵は複数人でこちらを取り囲んでいる。迂闊に姿を見せれば格好の標的となりかねないだろう。
衝動に突き動かされていたとはいえ、本来の彼女は向こう見ずな直情型の人間でもなかったので、もっともらしいファンズの忠告を振り切ってまで飛び出していく踏ん切りがつかなかった。
「というわけで、ここは私に任せてくれるかい?」
いかにも気取った風に言って、普段の調子が出てきたファンズがこれ見よがしに懐から取り出したのは、一冊の古びた書物だ。
かび臭いうえに表紙は色あせており、格安で売り買いされるような古書にしか見えないが、しかしこれは至高にして最強クラスの魔道具だ。
多大な魔力を一枚一枚のページに秘めた「魔道書」の一つである。
かつてファンズが若手幹部としてブラッドヴァンに所属していたころ、オドレイヤには内密で、とある外世界の魔法師から仕入れた一級品だ。
本来ならば閉鎖的な異次元世界でお目にかかれるような代物ではないが、これは強力な魔道書の呪いを恐れた以前の所有者が、安全に処分したくて異次元世界に捨てたがっていたところを安値で引き取ったものである。したがってファンズが入手できたことは偶然であったし、現在に至るまで足もついていない。
いわゆる一つの隠し玉だ。
「どこまで効力を発揮するか、お試しの読み切りといこう!」
悲しいかな、この魔道書は贅沢なことに一ページごとの使い捨てである。
そもそもが年代ものであるがゆえに残っているページ数は少なく、すっかり薄くなっていて持ち運びには便利だが、使用できる魔法の数は限られていた。その少ないページの中から状況に応じた魔法を選ばなければならないので、あまり融通が利いた魔道具ではないのが欠点であろう。
「ル・ルーグエ・コンティシパニ!」
各ページに記された呪文や記号などによって、優秀な魔法使いであった執筆者とイメージを共有することによって魔法が発動する。一度きりの使い捨てとなる即席魔法が多く記されているとはいえ、この本さえあれば困難な修行を必要とせず、様々な種類の魔法を使うことができる。
そのため、多くある魔道具の中でも魔道書の人気は高い。
ページの欠損や記述の間違い、あるいは悪意あるトラップによって、望みどおりの魔法が発動しないという危険性もなくはないが、それでも余りある魅力がある。
なにしろ執筆者が魔法使いとして優れていればいるほど、その魔道書の所有者は強力な魔法を呪文一つで使うことができるのだ。これを利用しない手はない。
つつがない調子でファンズが呪文を唱え終えると、片手で開いていた魔道書から黒い影に覆われた大蛇が出現した。その総数はざっと十匹はくだらない。すべて魔力で形作られた獰猛なる大蛇たちだ。
音もなく、ふわりと浮いた姿で空中を這い回って隠れ家を出て行く大蛇。
一匹ずつ散らばって向かった先は、ぐるりと隠れ家を取り囲んでいる襲撃者たちである。
異次元世界ユーゲニアの赤茶けた闇にまぎれ、ファンズの襲撃に訪れたマフィアの構成員たちが、無残にも逆に襲われて容赦なく殺されていく。そのほとんどは突風のように飛び掛ってきた大蛇の存在に度肝を抜かれ、断末魔となる叫び声さえもあげられなかった。
強靭なあごの力で食らいつき、人間の頭ほどはあろうかという巨大な口で飲み込んで、獲物の命を奪うと同時に黒い炎を上げて燃え尽きる。
まるで自動暗殺装置と化した使い魔の一種、その名もル・ルーグエ。
その正体は魔道書による魔法なので、痕跡は何一つ残さない。
ややあって、周囲は静けさを取り戻した。四方に置かれた室内のろうそくに再び火がともり、襲撃者の気配は消えている。
どうやら魔道書に記されていた迎撃魔法が完遂したらしいことを確認して、満足げなファンズは胸をなでおろした。余裕綽々かつ自信満々にも見えたが、少しは緊張していたようだ。
「大丈夫?」
「こいつのおかげで私たちは大丈夫だったが、こそこそと攻撃のチャンスをうかがっていた雑魚を相手に強力な魔法を使ってしまったかな? 大事なページが一枚減ってしまったよ」
実を言えば、これは魔法の使用者にも呪いが降りかかる危険な魔道書であったが、ファンズはある程度の魔法の効果を打ち消すアンチマジック体質を備えており、そのおかげで事なきを得ていた。
「……しかし困ったな。ここもブラッドヴァンの連中にばれてしまったね。襲撃者が返り討ちされたことに気付いたら、すぐに敵の増援が来るだろう。急いで別の場所にある隠れ家へ移動したほうがいい」
「わかってる。でも――」
カズハたちが無事にゲートを通り抜けて、向こうの世界に帰る姿を見届けておきたかったナツミ。手ひどく突き放したのは自分でも、大事な妹分であるカズハが自分以外にひどいことをされるのは我慢ならない彼女である。
とはいえ、襲撃を受けたばかりの今はそんな余裕がないのも事実だ。
マギルマのボスであるファンズの居場所が相手に知られてしまった以上、一刻も早く場所を移さねばなるまい。
最悪、オドレイヤが徒党を組んで直接乗り込んでくる可能性さえあるのだから。
「……いいえ、行きましょう。今度こそ誰にも尾行されないよう気をつけるわ」
ならば急いだほうがいいと、荷造りもそこそこに隠れ家を後にしたファンズ。もちろんナツミも彼に遅れることなく続いたが、わずかながら後ろ髪を引かれる思いがあったのも否めない。
とにもかくにも現実は動く。
こうして二人はカズハとは距離を置くこととなった。
いたいけなお姫様を抱えるようにして、気合を入れて踏ん張ったアレスタは一人では立ち上がれない様子のカズハを両腕の中に抱えあげた。
全身に広がる痛みをこらえているのか少女は両目とも固く閉じていて、半開きの小さな口からは呼吸も弱々しく感じられる。
ざっと見る限り致命傷はない。
しかし万が一ということもある。
外見上は緊急性がないからといって、あまりのんびりしないほうがいいだろう。
「もうこらえなくていいんだ。ほら、体の力を抜いて」
「う、うん……」
頷いたカズハではあるが、さすがに余裕はないらしく声はかすれている。
「頼む、テレシィ!」
「マカセテ!」
くるくる旋回して二人の周囲を飛んでいた肩代わり妖精のテレシィが彼女の胸元に寄り添うように抱きついた。しばらくすると姿が消え、不可視の扉を開いて彼女の精神果樹園に入ったことがうかがえた。
それを確認してアレスタは治癒魔法を発動する。
魔法さえ使えれば気を揉んで見守るまでもなく、傷だらけだったカズハの体は見る見るうちに回復していった。
順調な兆し。問題はなさそうだ。
「やっぱり不思議だぜ、治癒魔法だなんて……」
すっかり元通りとなったカズハは、アレスタの腕の中で穏やかな夢に包まれたような心地でいた。治癒魔法のおかげで体はすっかり元気いっぱいだったが、すぐに心もそうなるとはいかない。
抱えられたまま、積み重なった疲労のせいか今にも眠ってしまいそうだ。
ひょっとすると、しばらく甘えていたいだけなのかもしれない。
なんだか本物の妹をもったような気持ちになったアレスタは心穏やかで、このまま彼女を大切に扱いたい思いに駆られた。
つい頬がほころぶのも仕方がないといったところだ。
「ちょっと、何をニヤニヤしてるの?」
ただしイリシアが冷たかった。
けれど確かに、ほうけている時間はない。
もう大丈夫であることを改めて確認した後、なるべく慎重な手つきでアレスタはカズハを地面に立たせた。
「ありがとう、テレシィ。またよろしくね」
「モッチロン!」
そう答えて踊るように羽ばたき、くるりと空中で身を翻したテレシィは姿を消した。すっかり自分の居場所になっているアレスタの精神果樹園に入り込んだのだ。きっとまた治癒魔法が必要となったときにはアレスタの呼びかけにこたえてくれるだろう。
アレスタとテレシィの間には、傷ついた人を助けたいという共通の思いから、すでに人と妖精の壁を越えた信頼関係が出来上がっていたのである。
そんな二人を不思議そうに眺めていたのはカズハだ。
人間と妖精、種族を超えた絆や友情に感銘を受けたのかもしれない。
平和や友情といった言葉とは無縁のアヴェルレスに生まれ育った彼女には、信頼や愛情といった強い絆のつながりが自分とは縁遠い光景に映ったのだろう。
そんな憧れをはらんだ少女の気持ちには気付かない様子で、真面目な顔を見せたアレスタはもうすでに次のことを考え始めていた。
そもそもカズハにしたって、いつまでも考え込むようなタイプではない。いじらしく首にさげた地獄鳥のネックレスを無意識にいじったくらいで、気持ちを切り替えた彼女はアレスタの言葉に耳を傾ける。
「こうなった以上、素直にベアマークへ戻るという選択肢も考えてみるべきかも知れないね。どうやらナツミさんは俺たちのことを追い返したい様子だったし、彼女の言うように俺たちは邪魔で、マフィアとの戦争には役立たずなのかもしれない……」
「ちょっと待ってくれよ、兄貴。この状況を放っておけるっていうのか?」
「この状況?」
「アタシの故郷アヴェルレスが野蛮なマフィアにやられちまっている状況さ!」
そう叫んだカズハの両目が決意の炎に燃えている。つい先ほどナツミにこてんぱんにされたことはなかったことにしたいのか、どうやら彼女に宿る負けず嫌いの気持ちに火がついてしまったようだ。
もちろんアレスタもマフィアに蹂躙されているらしいアヴェルレスを簡単に見捨てられるほど薄情な人間ではない。
結成したばかりとはいえ、世のため人のため精力的に活動すると決意したギルドの体裁もある。
「無謀でも無茶でも、決して不可能なことを言っているんじゃない。……ね、兄貴?」
そして何より、熱い視線を送ってくるカズハの願いを、危険だからという理由だけで無下に断ることはできなかった。
性格の問題なのか、甘えてくる少女を甘やかしがちなアレスタである。
「ねえ、アレスタ。私も確かに考える必要があると思う。このまま逃げるのが、本当に正解なのかどうかを」
そう言ったイリシアは難しい顔をして考え込んでいる。
表向きはいたって冷静だが、腹のうちでは、だまし討ちに近い行為を働いたナツミへの怒りや疑念が渦巻いていることだろう。
意外にも彼女は根に持つタイプなのである。
「それはそうかもしれないけど……」
などと、とりあえずアレスタが二人をなだめすかそうとしたところ。
「ふむふむ、なるほど。僕も見逃せないね」
ここぞとばかりにカズハやイリシアへ賛同したのはニックだ。
すっかり助けるのを忘れていたアレスタだが、案外しぶとい彼は勝手に起き上がっていた。どうやら彼には治癒魔法など必要なかったらしい。運が良かったのか怪我をしている様子もない。
ひょっとすると先ほどは戦闘に巻き込まれぬように気絶した振りをして、こっそりと様子をうかがっていただけなのかもしれない。
「考えてみれば、すでにアヴェルレスとベアマークはゲートでつながってしまっているんだからね。現時点ではユーゲニアの出来事なんて対岸の火事に過ぎないけれど、悪い人間の野心はとどまることを知らないんだ。いずれ僕らも異次元世界の抗争に巻き込まれるに違いないよ。……ほら、敵は熱いうちに討てって言うでしょ?」
「それは鉄ね」
とイリシアが釘を刺せば、
「でも言わんとすることは伝わってきたよ」
とアレスタがフォローする。
「そうそう、つまりやれるときにやるべきことはやっておけってこと」
きざったらしく髪をかきあげたニックだが、当然のように決まっていない。
くしゃみをして顔をしかめた。土ぼこりのせいだろう。
「そういえば、アタシらが使っていたアジトはまだ残っているはずだぜ。とりあえずみんなで移動してから今後のことは考えることにしようじゃないか、兄貴」
「うーん、そうだね。ここにこのまま突っ立っているよりは、ずっとましだろうしね……」
「そして考えるんだ。打倒オドレイヤのための作戦を、ね!」
元気いっぱいな声でそう言って、カズハはいつものようにアレスタの背に飛び乗った。がっちりしがみついてしまったので、こうなるとアレスタはもう彼女の言いなりになるしかない。手綱を握られた馬のようである。
イリシアにしろニックにしろ、もともと騎士であるからか、理不尽に民衆を苦しめるマフィアが敵となれば、正々堂々と真正面から戦おうとする勇敢な気概に満ち溢れていた。
よそ者だからといって、無視を決め込むつもりなど微塵もないようだ。
実を言えば慎重派でマフィアと戦うことに消極的だったアレスタは内心、これは結果次第によっては評価が分かれる決断になりかねないだろうな――と不安半分に思った。
いくら依頼を解決するのが仕事のギルドとはいえ、たかが四人で相手にするには敵があまりにも巨大すぎやしないか。
少なくとも、このままカズハを危険なアヴェルレスの抗争に関わらせ続けてしまうのは、保護責任者としては浅はかな考えにも思えた。
それと同じくらい「オドレイヤをやっつけたい」という彼女の願いを聞き届けてあげたい気持ちもあったので、結局こうしてアヴェルレスの抗争に身を置くことにしたのではあるが……。
もちろん、これからのアレスタたちの活躍によってアヴェルレスに平和がもたらされるのなら、代償として多少の危険くらいは覚悟のものだ。
それこそ、自分の治癒魔法が打倒マフィアのために役立つことを期待せずにはいられなかったのである。




