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治癒魔法使いアレスタ  作者: 一天草莽
第二章 君のために

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18 デビルスネーク

 そこにいたのはブラハム。

 今はもう姿の見えなくなった愛弟子に向かって、気持ちばかりの謝罪を告げる。


「すまないな、エイク。単なる魔獣としての領域を超えるデビルスネークともなると精神果樹園や周囲に存在する環境的な魔力だけでは足りず、うまく召喚することができないのだよ。一応は私の魔力を分け与えてやったが、それでも足りない分は術者の命と引き換えられるそうだ」


 そう言って、ブラハムは“それ”を見上げる。

 召喚直後に急速に周囲へと満ちた霧によって巨大な全体像を鮮明に拝むことは出来ないが、ただ目の前に存在するだけだというのに尋常ならざる畏怖を覚えてならないブラハムは全身の震えが止まらなかった。

 召喚された際の衝撃で地面を円形状にえぐり、その余波で平原を囲む木々をすべてなぎ倒して、あまりに圧倒的な存在感を放っている。

 それは一体の恐るべき怪物。

 視界を奪っていた濃い霧が風に流されて消えると、その姿がはっきりと見えた。

 それぞれが独立して動く大きな蛇の頭が八つあり、それらはつながった腹部で一つの束になって、そのまま背後へと長く太い尾を形成している。

 すなわち、八つ首の巨大な蛇。

 たまらずゴクリとつばを飲み込んで、抑えきれない感嘆を漏らすブラハム。

 そこにはいないエイクへと語りかけるようにして、説明の続きを述べる。


「……つまり召喚者は、デビルスネークの誕生とともに死んでしまう。だが悲しむことはないぞ、エイク。そうやって君の祖父も最後の召喚に命を捧げたのだから」


 エイクの祖父が手記に書き残した秘密の文章によれば、十年前、デビルスネークの召喚が成功するとともに自分は命を失うであろうことを彼は覚悟していた。

 悪魔の怪物を召喚するには自己犠牲が必要であると理解した上で、彼は人生最後の召喚魔法に挑んだのだ。

 本来、古代から伝わる本格派の召喚魔法とは、強力な魔獣を召喚する代償として人間の生きた心臓を捧げるものだったという。

 それも、ただの心臓ではない。一流の召喚師として熟成された人間の心臓を必要とするのだ。

 当然ながら、歴史に名を残すほどの一流召喚師は希少な存在である。

 貴重な上級召喚師の生きた心臓を代償にするのは簡単でなく、自分の命を生贄にして召喚魔法を使いたがる術者もなかなか存在しないため、最高ランクの召喚獣は人前に姿を見せることが少なかったのだろう。

 だからこそ伝説にのみ名を残し、時代を経て神格化されていったのだ。

 しかし「可能」と「不可能」を隔てる境界は絶対的なものではなく、魔法の影響でゆがめられてしまうことがある。


 ――偶然、奇跡、あるいは宿命。


 それをどう表現してもいいが、彼の祖父が自身の命と引き換えに契約を結んでいたとはいえ、決して一流とは呼べない未熟な召喚師だったエイクの命を代償としてデビルスネークが召喚されたのだ。

 ひょっとするとエイクに眠っていた召喚師としての才能は彼の祖父以上のものだったのかもしれない。あんなにも従順だったエイクを失うには早すぎたのではないか――と、今後のことを考えるブラハムは少しだけ後悔した。

 厳しい修行を積めばエイクは着実に成長して、それこそ本当に歴史に名を残すほどの召喚師となったかもしれない。

 そんな身勝手な未練を覚えたのだ。


「いや、どうだろうな。何事も期待通りにはうまくいかぬものだ。特に、自分が目をかけている子供や弟子の成長に関してはな」


 だがそれも一瞬のことだった。

 あっさりと気持ちを切り替えたブラハムはコートの懐に手を入れ、内側のポケットに仕舞っていた小さなビンを取り出した。

 数回ほど軽く上下に振った後で蓋を開けて、召喚されたばかりでじっとしているデビルスネークへ向かってビンごと投げつける。すると中に詰め込まれていた粉末状の薬品は若草色に輝きながら放物線を描き、魔法に操られるような軌道でデビルスネークの体内に溶け込んでいった。


「ちゃんと効いてくれるといいが……。これはエイクの祖母に調合してもらった特級品だからな。召喚の核として彼を取り込んだ怪物なら効果覿面かもしれない」


 ブラハムがデビルスネークに投げつけたのは「ひな鳥の目覚め」と呼ばれる、第一級の禁止薬物である。

 一定量を振りかけた相手に対して、使用した人間のことを「親」だと思い込ませる暗示効果を持つ魔道具だ。つまり強制的に主従関係を結ぶことが出来るのである。

 直接の召喚者ではないブラハムはこの薬物を使用することにより、自分の思い通りに怪物を操ろうと考えていた。もちろんブラハムにしても、耐魔能力の強いデビルスネークが簡単に制御できるなどとは思っていない。

 あわよくば、と期待しているだけである。

 悪魔の怪物に世界が蹂躙される様子を見届けたかったからこそ、それまでは自分が殺されたくなかったという、それだけの理由だ。


「あとは命じるまでもない。魔力が尽きるまで存在し続けるだろう」


 ブラハムは思った。

 生物としての――その範疇にあるのかは怪しいが――生存本能に従えば、エネルギー源としての魔力を必要とする魔獣は誰に命令されるまでもなく、魔力を求めて世界中で大いに暴れてくれるはずである。

 人類が自然豊かで魔力の豊富な地域に都市を形成したとする地政学上の学説が正しければ、この世界で活動するために大量の魔力と、あるいは魔力の代わりになる食料としての人肉を必要とするデビルスネークは、そのどちらもが簡単に手に入る大都市を中心に世界を渡り歩き、結果として破壊の限りを尽くすのだ。

 そしてやがては破壊をもたらす神となり、理不尽で不平等な魔法に縛られた世界を滅ぼしてくれることだろう。


「しかし、これは……どうなのだ?」


 と、そんなことを考えているブラハムの心を急激な懸念が支配した。

 それもそのはず、薬の入ったビンを投げつけた直後からデビルスネークがおとなしすぎるのだ。

 人間や魔獣に対して強力な催眠効果を発揮する危険薬物がデビルスネークに対しても効果的だったとすれば、それを期待したブラハムにしても意外な事実だ。数百年前に出現したデビルスネークを酒に酔わせて退治したという昔話も、あながち嘘や冗談ではないのかもしれない。

 しかしそれでは困るのだ。

 たかが人間ごときに容易く退治されるようでは、わざわざ苦労して召喚した甲斐がない。

 悪魔の怪物には、悪魔らしく強くあってもらわなければならない。


「ふむ……」


 だが、どういうわけか飼い犬のように従順な態度でブラハムの前に佇むデビルスネークには少々の頼りなさが感じられた。

 もちろん低級な魔獣などとは比べ物にならない戦闘力を秘めているのだろうが、悪魔の怪物と呼ばれるデビルスネークが持っているであろう本来の強さを完全には発揮していないように見受けられた。


「どうやら本格的に魔力が足りないらしいな」


 召喚するために大量の魔力を消費してしまうのは当然だが、無事に召喚された後も、この世界で活動するための実体を維持するだけで大量の魔力を必要とするデビルスネーク。さすがに上位存在であるだけに、魔力の効率が悪い。

 どうやらブラハムが予想していた以上に魔力消費が激しいらしく、すでに魔力が枯渇しかかっているのかもしれない。何もしていない状況でも不安定なのだから、いざ全力を出して暴れようと思えば、さらに大量の魔力を必要とするだろう。

 今の状態では予定よりも早い段階で魔力が尽きることとなり、世界を蹂躙する前に跡形もなく消滅してしまいかねない。騎士団によって退治される以前に、デビルスネークが自然消滅してしまう危険性があるのだ。

 その問題を一時的にも解消するには、有効的な手段はたった一つであるように思われた。

 エネルギー源となる魔力の補給。

 あるいは、それに代わるとされる人間の摂取である。


「これほど弱々しい寝起きの状態では、今すぐベアマークに突撃させるのは危険だな。よし、ならばデビルスネークよ。手始めにリンドルを更地になるまで蹂躙しろ。私はしばし立ち寄る場所がある。それまで退治されるなよ?」


 声に出して返事をする代わりに村の中央広場へ向かって進み始めたデビルスネークを尻目に、とある目論見のあったブラハムは森を走り抜けて目的地へ急いだ。

 向かった先はエイクの家。村で唯一の薬屋である。


「すみません、ちょっとよろしいですかな?」


「おやおや、誰かと思えばブラハムさんじゃありませんか。どうされました?」


 エイクの祖母であるアイーシャは部屋の隅にある椅子に座り、うとうとしていたが、慌しく駆け込んできたブラハムの気配に気が付くと顔を上げて微笑んだ。愛する孫のため尽力してくれている指導者として彼を信頼しているのである。

 現時点ではデビルスネークが召喚されたことが知れ渡っておらず、召喚の代償としてエイクが犠牲になったことも露見していない。

 しかしながら、それとて時間の問題である。そろそろデビルスネークが深い森を抜け出して、視界に入った村の人間を手当たり次第に襲い始める頃合だ。

 雲行きが怪しくなる前に話をつけてしまおうと、ブラハムは単刀直入に切り出した。


「アイーシャさん、もしよければ店にある強力な魔力増強剤をすべて私に譲っていただきたいのです」


「……おや、まあ。なにやら事情があるようですが、あれは業務用で副作用が強くてねえ。こちらに並べてある一般向けほうは安全ですからね、使うならこちらがお勧めですよ」


「いえ、それでは足りないのです。ありったけ、とにかく強烈なものを頼みます」


「ですがねぇ……」


 眉を曇らせたアイーシャは言いよどむ。

 唐突で不可解なブラハムの要求に困惑せざるを得なかった。

 魔力増強剤とは、体調が悪いと感じたときに魔法使いが服用する風邪薬のようなものであり、弱った魔力を薬の力で増幅して魔法の調子を整えるための医薬品だ。本来、そのために必要としているのなら少量でも十分である。

 しかしブラハムは店にある強力な魔力増強剤をありったけ譲ってほしいなどと言っているのだ。

 普通ではない。普通でなければ、簡単には頷けない。

 魔法薬調合師の資格と責任を正しく備えているアイーシャにとって、彼女の販売する薬品が悪用されうる危険性について過剰なくらい敏感となるのは職業病の一つであり、たとえそれが信頼する相手であろうと仕方のない反応だった。

 もちろんアイーシャとて心から疑っているわけではない。大切な孫であるエイクのよき師であるブラハムに対して彼女は全幅の信頼を寄せており、人並みならず感謝も覚えている。いつも孫が世話になっているのだから、何か恩返しをしなければならないとさえ……。

 それゆえ、きっぱりと断ることも出来なかった。

 どちらとも即答できない迷いを見せた彼女の表情に、ブラハムは無理を通せば要求が通ることを読み取った。恩義を受けた相手に頼まれれば強く断れない彼女の優しさは、狡猾な男にとって付け込むことのできる隙に他ならない。

 親しみを感じさせる控えめな笑顔とともに、実に穏やかな声色を駆使して畳み掛ける。


「安心してください、悪いことには使いません。もちろんお金は支払います。これもすべてはエイクのためなのです」


「エイクの……」


 これにはアイーシャも説得されるしかなかった。

 年老いた彼女にとって、孫であるエイクの存在は何よりも優先されるべきものであった。彼のために必要であると言われれば、ひょっとすると彼女は自分の命でさえ差し出したことだろう。

 すぐに魔力増強剤を用意すると言い残したアイーシャは店の奥へと姿を消した。盗まれることを警戒してか、強力な薬品は用心のため店頭に並べていないらしい。薬屋としての管理責任が問われてしまうからだろう。

 ゆったりとした動きの彼女を見るに、すべてを用意して戻ってくるまでしばらくかかるに違いない。


「まあ、ここでゆっくりと待たせてもらうか……」


 こじんまりとした店内には、騒がしい人里を離れた大自然の中に溶け込んだような静けさが漂っていた。すでにデビルスネークが召喚されたとは思えないほどの静寂さだ。

 おそらく彼女が孫であるエイクに対して抱いている愛や優しさが、この空間を特別な雰囲気に浸しているのだろう。


「居心地のいい場所、か……」


 もしもこの世界のすべてが真実の愛や平和に包まれていたなら、ブラハムはそれを受け入れて幸せに人生を全うしたことだろう。

 だが現実は理想を裏切る。

 かけがえのない夢を軽々しく吹き飛ばし、願いには罰を与えて地獄を見せる。

 この世界は正しい道理を捻じ曲げる“魔法”によって蹂躙されており、その悪しき魔法に魅せられた人間によって不幸が蔓延している。

 不安定でいびつな構造をした魔法世界では、おそらく誰一人として真実の幸福を手に入れることが出来ない。すべての人間が過不足なき幸せを享受することも、人類の共存や永遠の繁栄を願うことも不可能だ。

 魔法が存在する世界では本当の意味での安息は決して得られず、それを不安視する人間は例外なく心に病理を持った状態で生きねばならないのだ。

 相手を簡単に傷つけることの出来る魔法さえなければ、人は人を大量に殺すような戦争をしない。

 人々の魔法能力に優劣さえなければ、人は人を見下すような差別をしない。

 知恵なき愚か者が魔法の力に魅了されることさえなければ、飽くなき人間の欲望にも歯止めがかかっていただろう。

 魔法の存在しない平和で幸せな世界を作ることこそ、反魔法連盟の一員となったブラハムが夢見る理想の物語だ。

 否、もはや夢ではない。

 すでに彼は魔法のない世界を創造する段階に取り掛かっているのだ。

 悪魔の怪物デビルスネークが世界中の魔力を枯渇させれば、魔力を必要とする魔法も事実上は消え去ってしまう。あらゆる人間が等しく魔法の力を失った世界を夢見ていたブラハムは、それが実現する日を待ち望んでいた。

 魔法なき新世界のためならば、現生人類が滅ぼされてしまっても構わない。

 まっさらな大地から、魔法を知らない新しい生命の誕生をやり直す。

 真なる平穏のため、我々はその選択を受け入れるべきなのだ。

 ブラハムはそういう考えに染められた人間である。


「お待たせしましたねえ」


「いえいえ。ありがたくいただきます」


 考え事をしていたブラハムは自分の両頬を叩くと、現実に意識を戻した。

 いくら理想が高くとも、夢見心地では足元をすくわれてしまう。

 安心して気を抜くのは、すべてを終えた後だ。

 己の死後で構わない。


「はい、どうぞ。危険ですからね、これは慎重に取り扱ってくださいよ」


「もちろんですとも」


 彼女から受け取った魔力増強剤のすべてを懐に仕舞いこんだブラハムが薬屋を出ようと扉に向き直ったときだ。

 どたばたと足音を響かせて、すっかり動揺して汗だくになった一人の村人が駆け込んできた。


「おや、ブラハムさんではありませんか! リンドル自警団団長のエイクがどこにいるのか、ご存知ありませんかっ? とんでもない緊急事態なのですが探しても見当たらないのです!」


「緊急事態?」


「そうです、村の外れに怪物が!」


 これにブラハムが答えるより早く、血相を変えたアイーシャが立ち上がった。


「か、怪物!」


 精一杯に喉を震わせた悲鳴は年相応にかすれており、その目には恐怖心が色濃く反映されていた。

 六十年以上の長い年月を生きてきた彼女が、その人生において最も恐れるものを見つめる視線……。

 あらゆるものに対して魔法が優勢となっている世界において、すべての人間が魔法に対して清濁を含めた様々な思いを併せ呑む。その多くが魔法使いに対する不信感と脅威、あるいは嫉妬と憎悪であり、究極的には身内に対してさえ素直になれず、何をしですかわからない魔法使いを心の底から信頼できる人間は存在しない。

 なぜならばそれは、たった一人の魔法使いであってさえ、いとも簡単に平穏な日常を破壊しうる危険な存在であることを誰もが理解しているからである。

 ただし、そんな魔法使いよりも畏怖すべきものが存在した。

 魔法使いを含めた全人類が、同じ立場で共通して畏怖する大いなる存在。

 それは人ならざる上位の魔物、神獣である。

 彼女が持っている怪物に対する異常なまでの恐怖心を知ってか知らずか、不自然なまでに落ち着き払っているブラハムは穏やかな表情だ。


「アイーシャさん、いきなり怪物が出たなどと聞いて不安でしょうが、とにかく落ち着いてください。まずは詳しく彼の話を聞いてみましょう」


 そう言って、真剣な目を村人に向けたブラハムは彼からの説明を求めた。

 当然ながらブラハムには怪物の見当が付いているのだが、そこは何も知らない演技である。


「最初に森の動物が騒がしいと気が付いた人がいて、何人かで森の様子を確認しに行ったらしいんです。そしたら森のほうから、なにやら八つもの巨大なヘビの頭が見えたようで……。あまり確かなことは言えませんが、そいつは十年前に村を襲ったデビルスネークじゃないかって」


「ひ、ひぇぇ……」


 顔面蒼白となったアイーシャが壁に寄りかかるようにして震えている。十年前の恐ろしい記憶が蘇りつつあるのだろう。

 大げさに反応した彼女が特別臆病なのではない。

 デビルスネークという怪物はそれほど驚異的な存在なのだ。

 おびえ切った彼女の様子を横目で見ながら、しかし対照的に冷静沈着なブラハムは男に尋ねた。


「……それで、怪物による具体的な被害は出たのかね?」


「あ、はい。今は手の空いている男連中を集めて一時的な自警団を結成し、村への侵入を防ごうと怪物を相手に戦っています。……ですが、すでに数名の負傷者が出たようで。本格的に自警団を立て直すためにと、こうして団長のエイクを探しているのです」


 ――エイクは探しても見つからないさ。


 などと嘲笑するように思いながら、ようやく怪物として本格的な活動を始めたらしいデビルスネークの姿を想像せずにはいられないブラハム。

 村人の報告を聞いて思わず嬉しさで笑いそうになったが、人前だということを思い出して笑いを噛み殺す。


「そうか、なるほど。ちゃんと人間を食い漁ってくれているのか」


「……え? 人間を、なんですって?」


 さすがに怪訝そうな顔をする村人に対して、少しだけ愉快な気持ちになったブラハムは両手を広げて宣言した。


「これからの時代に期待するといい。さすが自警団の団長だ。彼ならば理想郷の礎となった」


「ブラハムさん……?」


 いまいち理解できず何かを言いたそうに口を開いた男を遮るようにして、ブラハムは顔を扉の外へと向けた。

 のんきに話し込んでいる場合ではないと言いたげだ。


「姿が見えないエイクの代わりに私が行こう。案内してくれるね?」


「もちろんです。そう頼みたかったところでしたから」


 快く返事をした村人に先導され、ブラハムは薬屋を後にした。

 そんな二人を半ば呆然と見送りながら、薬屋には恐怖で言葉を奪われたアイーシャだけが残された。

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