13 ベアマークの情報屋にて
アレスタとサツキが雑貨屋に入ると、やけに奥まったところにあるカウンターにふてぶてしく座っていた店主のオーガンは一瞬立ち上がろうとして、いつもの二人だと気づいたのか座り直した。
「なんだよ、金払いのいい素晴らしい客が来たのかと思ったらお前らか。ちゃんとあの子の依頼は解決してあげたのか?」
「はい、ばっちりです」
心配した様子でオーガンが言ったあの子とは、街に住む少女チークのことだ。
あの雨の日の依頼のとき、アレスタは逃げた猫ケイトの情報を求めて彼のもとを尋ねていたのである。
なんでも猫は苦手ならしく、そのときは役に立たなかったが……。
「そいつはよかったぜ。けなげで小さな女の子が悲しむ顔は見ているだけでも胸が痛むからな」
「ですね」
その意見にはアレスタも同感だ。
チークのような幼い女の子は、どんな時でも笑顔でいてもらうに限る。
すると彼、正体は腕利きの情報屋でもあるオーガンは二人を見てにっこり笑う。
「それで今日は何をしに来たんだ? 二人して深刻な顔をしているってことは、ひょっとして新しい雑貨の情報が欲しいのか?」
「わざわざ深刻な表情をして雑貨を探しには来ないだろうが、そう言うってことは何か珍しい掘り出し物でも手に入ったのか?」
「ああ、ちょうどいいのが入ったぜ。汚れが全然取れないハンカチだ」
「よく取れるの間違いじゃなくて? おいおい、それが一押しの商品か? どっちかっていうとゴミのように思えるが……」
「そう考えるのが素人さ。一見無駄なものにこそ美は宿る。本当の意味で生活を豊かにしたいなら、いっそ役に立たないものばかりに囲まれてみることだな」
などと、楽しそうに会話を始める二人。それはそれで面白そうな話だが、黙って聞いていればいつまでも雑談が続くだろう。
せっかく裏では情報屋をやっている雑貨屋に来たのだ。気分転換もかねて、単刀直入に尋ねてみることにするアレスタである。
「そんなことより、この街一番の情報通であるオーガンさんに尋ねたいことがあるんです。デビルスネークという怪物の話をどこかで聞いたことありませんか?」
すると、穏やかな表情だったオーガンはわかりやすく顔色を変えた。
「なんだと? まったく、改まって何を聞いてくるかと思えば、よりにもよってデビルスネークの情報か……」
「よりにもよって? その反応からすると何か知っているみたいですね」
知っていることがあるのならば、ぜひ教えてほしい。
ところが彼は素直に教えることを渋っているのか、わざとらしいくらいに難しい顔をする。
「知っていることには知っているが、残念ながらそいつは一級品の情報だな。お前らの頼みなら教えてやれないこともないが、かなり高くつくぜ? 必要な情報料をちゃんと払えるのか?」
「情報の対価ですよね。おいくらです?」
「よし、誰に聞かれているかわからんから耳打ちで教えてやろう。……ごにょごにょ」
「ふむふむ、なるほど。……え? そ、そんなにっ?」
驚いたアレスタはその場で腰を抜かしかけた。
なにしろ情報屋としてのオーガンがアレスタに提示してきたのは、現在のギルド運営の調子では三年かかったって支払えないほど高額な情報料だったのだ。
間違いなく今のアレスタには用意できない金額である。
「もちろん全額前払いだ。きちんと一括で頼むぞ。昔、相手を信頼して後払いにしたやつが情報料を払う前に死んじまってひどい目にあったんだ」
「そんな……」
今すぐ大金を用意しなければ情報は与えない、という厳しい条件を聞かされてアレスタは言葉を失う。
値切り交渉さえできずに口を閉ざしてしまったアレスタを見て同情でもしたのか、文句や不満の一つも言い返せない彼の代わりにサツキが指摘する。
「やっぱりえげつないよな、お前の商売ってさ。たかが情報を一つ得るために大金をはたいて、身を滅ぼしてられるかっての」
「そうか? 俺からしてみれば当然の対価だと思うが。……まあ、しかしお前が言いたいこともわかるぜ。情報ってものは目に見える形がないからな。その価値を正しく理解できる俺のような人間は少ないのかもしれない。だが俺は言わせてもらうぞ。世間の人間は情報の価値を軽視しすぎているってな」
「けっ、ぼったくりな情報屋の詭弁だな」
ぼったくりであるかどうかは情報の相場がわからないので結論を保留しておくとして、どうやらサツキは相当に彼のことを嫌っているらしい。
あるいは、仲がいいからこそ喧嘩腰なのかもしれないが。
「なんだよサツキ、そう言うなって。もしかして虫の居所が悪いのか? 今日はやたらに冷たいじゃないか。……アレスタは俺の言い分を理解してくれるよな? なあ?」
「ええ、まあ、確かに価値のある情報は、使いようによっては単純な武力や魔法よりも強い意味を持ちますからね。ですけど、それにしたって情報料が高すぎませんか? もしかして俺の足元を見てます?」
だとしたらひどい話だ。
そもそも正規の取引市場がない情報の価値なんて言ったもの勝ちなのだから、それを欲している人間に対して、一般的に考えられる相場より高く売りつける悪徳商売もやりやすいはずだ。
詐欺ではないにしても、道徳的に怪しい部分は大なり小なり絶対にある。
「待て待て、アレスタ。勘違いしてもらっちゃ困るが、情報料の高さは俺の欲が深いからってわけじゃないぞ? なにしろ俺が売っているのは情報だけじゃないんだからな。その情報を手に入れるまでのあらゆるリスクを含めているんだ。つまり、ある意味では自分の命も売っているのさ」
「リスク?」
いろいろなことを知っているから頼りになる情報屋だとは思っていたが、そういえばどうやって表に出回らないような秘密の情報を仕入れているのかアレスタは一度も考えたことがなく、あまり想像がつかないのも事実だ。
情報を手に入れる際のリスク。
そしてその情報を客に売る危険性。
なるほど確かに一筋縄ではいかなそうである。
「よーく聞いてくれよな、アレスタ。様々な情報を収集するために俺が使っている他者への精神干渉魔法だが、こいつは帝国内では違法な手段なのさ」
「なっ! それって大問題じゃないですか」
この国の法律をアレスタはよく知らなかった。そして彼の使える魔法も知らなかった。
精神干渉魔法。
つまり、相手の頭の中を覗くとか、カーターほどではないにしても心を操って強制的に自白させるとか、そういう魔法だろうか。
「それだけじゃない。危険な情報を得るためには危険な人物とのやり取りが必要になるし、さらには手に入れた情報の提供や、そこから派生するデマの流布などによる様々な影響によって、思いもよらぬ人間からの恨みを買う可能性だって否定できないのさ」
「そんなの自業自得だろ。なんだかんだ言いつつも好きでやってるくせに、自分で勝手に背負ったリスクを客の金から回収しようとするな」
というサツキの小言はなかったものとして無視された。
「だから情報料が高額なのはリスクに対する保険みたいなもの、つまり高い金を払ってくれるような信頼できる人間にしか情報を売らないという意味もある。安い金で売った情報は、客によって安い扱いを受けてしまうからな。仮にも秘密裏の情報屋である俺の尻尾をつかまれてしまいかねないのさ」
そこまで聞かされると納得せざるを得ない。どうしても知りたいことがあるからといって、高額な情報料に対する不満を言うことができなくなる。
うまく言いくるめられてしまっただけかもしれないが。
けれど仕方ない。
いざというときは魔法学者であるブラハムを直接ここに連れてくればいいかもしれない。村に長期滞在している彼ならアレスタたちよりも資金力がありそうだ。
「わかりました。さすがに今すぐは支払えないので、デビルスネークの情報は諦めます。そもそも今日の目的はそれを聞くことじゃなかったので……」
「目的?」
「ええ、まあ……」
サツキと二人でギルドを出てきた理由なんて、さすがに気まずくて言えるわけがない。
さてどうするかとアレスタが何も答えられずにいると、あっけらかんとした様子でサツキが答える。
「目的があったってほどじゃない。ここに寄ったのは単なる気晴らしさ」
「ふーん、気晴らしねぇ。そう言われると今日は元気がないように見えるな。なあ、アレスタ、お前に何があったのかなんて知らないし、巻き込まれると面倒だからあえて聞かないことにするが、この前の依頼ではあまり力になれなかった代わりだ。女の子の情報なら安くしとくぜ?」
見せつけるように小指を立てて、いたずらっぽく笑うオーガン。
落ち込んでいるのなら素敵な異性でも見つけて元気を出せ、ということなのかもしれないが、それで今の悩みが吹き飛んで元気が出るのはオーガンみたいな性格の人間だけだろう。
すべての男性が女性との出会いを求めているわけではない。
逆もまたしかり。
ただ、気を遣ってくれているのは理解できるので嫌な気持ちはしない。
「あはは、それはお断り――」
しようと思ったアレスタは、ふと思い出した。
どういう心境かはわからないが、わざわざ向こうから安くしてくれると言っているのだ。
この際だから、本当に気になる女の子の情報でも聞いておこう。
「……いえ、だったら教えてほしいことがあります。とある女の子のことを知りたいんですけれど」
「へえ? 半分は冗談だったのに本当に知りたがるとは思わなかったぜ。しっかしそうか、女の子の情報か。ふっふっふ、お前が知りたいのは誰の情報だ?」
「はい、それはですね……」
やや前のめりになったアレスタがオーガンに名前を答えようとしたところ、いきなりサツキに遮られた。
「おいおいアレスタ、まさかイリシアのことをこいつに聞いて調べるつもりか? お前が彼女のことで悩んでいるのはわかるけどな、解決手段を求めて情報屋に頼るのはちょっと卑怯だぜ」
「ち、違いますよ、サツキさん!」
「じゃあ誰だよ? 他の女性ならいいってわけじゃないだろ」
何を勘違いしたのか、むっと唇を尖らせたサツキが批判的な目をアレスタに向けている。
情報屋という卑怯な手段を使って女の子の情報を知りたがっていると誤解されたままでは今後に関わるので、すみません、違うんですと言いながらアレスタは隠さずに答える。
「厳密に言えば女の子とは違うのかもしれません。俺が知りたいのはテレシィ、つまりベアマークやリンドルで噂になっている肩代わり妖精のことです」
「え、妖精? それって女の子なのか……? いや、俺は実物を見たことがないから知らないけどさ」
人間とは根本的に異なる存在である妖精のテレシィが女の子ということに納得がいかないのか、それきりサツキは口を閉ざしてしまった。
「ほほう? アレスタが知りたいのは肩代わり妖精テレシィのことか?」
「はい。情報屋としては何か知っていますか?」
「まあな。自慢じゃないが、この街で暮らす人々の間で噂になっていることは大体知っている。苦手な猫について以外はな。あいつらは気分屋だから俺の精神干渉魔法が通じないんだ」
「ははぁ……」
大体のことを知っているなんてセリフは本来ならば虚勢や大言壮語にしか聞こえないが、彼が情報収集のために使っているという精神干渉魔法が本当にあるとすれば、この言葉もあながち嘘ではないだろう。
それに、たとえ真偽の怪しい噂レベルの情報であったとしても無視は出来ない。
ここは彼が知っているすべてを聞かせてもらうべきだ。
「じゃあ、まずはこちらから質問させてもらおうか。肩代わり妖精は苦しんでいる人のもとへ現れるわけだが、それは何故か、お前は理由を知っているか?」
どうして肩代わり妖精は苦しむ人の前に現れるのか。
アレスタが風邪を引いて寝込んでいたときはテレシィの存在など知らなかったのだから、助けがほしくてアレスタが呼んだというわけでもないのだろう。
つまり、肩代わり妖精である彼女のほうから自発的にやってきてくれたわけだ。
「……たぶん、何か、彼女にとって大切な理由があるとは思いますが」
その答えを期待していたのか、嬉しそうに声を弾ませた彼はニヤリと笑う。
「そう、大切な理由がある。ただ助けたい、それだけの思いで姿を見せるのさ」
そして、前のめりになってアレスタに顔を近づけてくる。
「すごいだろ? 感動するだろ? お前らも人助けのためには目先の損得勘定を抜きにして、粉骨砕身して事に当たれよ」
全く同感だ。同じ言葉をそっくりそのまま彼に言い返してあげたいくらいだが、変に機嫌を損ねても面倒なのでアレスタもサツキも思うだけにしてとどめた。
せっかくの機会だからと、その後もテレシィに関する話で盛り上がったのだが、そのほとんどはすでにアレスタたちのほうでも調べがついている内容だった。
「今、どの辺りにいるのかってわかりませんか? 探してはいるのですが」
「それはわからん」
「そうですか、さすがにわかりませんよね。残念です」
違法な魔法を使ってまで情報収集をしているらしいが、さすがになんでも知っているわけではないらしい。まだ人々の間で具体的な噂になっていないからだろうか。
しかし、彼がどこまで知っているのかわからない状態であるにもかかわらず、情報料は前払いしか認めていないのだから、今後何かあって頼る場合は気をつけたほうがよさそうだ。
裏社会に通じた情報屋だからといって、彼が持っている情報は必ずしも完璧ではない。そのことを留意しておかねば、くだらない情報に大金をむしりとられてしまいかねない。
「なにしろ当の召喚者が死んでしまったって話だからな。それでも魔力が途絶えず、実体を保ったまま存在し続けるテレシィは孤独な妖精なのさ。誰かが飼い主にでもなってサポートしてあげられればいいんだが……」
「そうですね、どうにかしてあげられるといいんですけど」
まともに喋ったこともないのだから、アレスタにはテレシィの気持ちはわからない。
けれど、彼女を召喚したはずの術者がいなくなった今も一人でこの世界をさまよい、苦しむ人々の身代わりになり続けている妖精のことを考えると、彼女の世話になったアレスタは力になってあげたいと考えてしまうのだ。
いったい何をすれば肩代わり妖精のテレシィが喜ぶのか、幸せになれるのか。唯一使える治癒魔法ですら自分自身にしか効果を発揮しないアレスタでは役に立てないのかもしれないが、だからといって無視できるものでもない。
……などと考えているときだった。
「へへへ、いい話を聞かせてもらったぜ」
会話していたアレスタたちの背後から、突然一人の男性が現れた。
店主であるオーガンは不審者を目にして露骨な警戒心を見せる。
「ああん? 誰だよ、お前? ここは俺の店だぞ、勝手に入ってくるな」
「はっはっは、一見さんお断りなんて入り口には書いてなかったぜ?」
どこかで見たような顔……というか、アレスタとはちょっとした知り合いだ。
「ドガスさんじゃないですか」
酒場でアギトと飲み比べしていた酔っ払いである。
こんなところまで何をしにきたのかは知らないが、また厄介ごとに巻き込まれてしまいかねない予感がした。
「おやおや、誰かと思えば酒場で会った二人もいるじゃないか。あのときは歩くのも大変なくらい酔っ払っていたが、なんとなく覚えているぜ」
「そりゃどうも」
興味なさげにサツキは肩をすくめた。
ひどく酒に酔っていたドガスは普通に相手をするだけでも疲れたので、あまり関わりたくないのだろう。
「そういえばもう一人はどうした? オレ様を介抱してくれた男だ」
「もしかしてニックのことですか?」
「そうだ、そいつだ。ニックって奴には、あれから一晩中オレ様の愚痴に付き合ってもらったからな。いやぁ、ストレス発散のためにずいぶん世話になったぜ。また酒の相手を頼みたいものだ。今度あいつに会ったらよろしく言っといてくれ」
「わかりました。伝えておきます」
意外にもニックもたまには人の役に立つらしい。
ずっとギルドにいられても迷惑だから、たまにはドガスに貸し出してみようと考えるアレスタだ。おそらくニックのことだろうから嫌がるだろうが、何度も会っているうちに意気投合して仲良くなるかもしれない。
そんなことを考えていると、三人のやり取りを聞いていたオーガンが警戒した表情のままドガスをにらみつけた。初対面の相手なので様子をうかがっているのだろう。
「無駄話はいい。客なら早く用事を言え。雑貨を買いに来たのか?」
「おっと、そうだったな。いや別に用事があるってわけじゃないんだが、ちょっと前を通りかかったら肩代わり妖精なんていう、とっても面白そうな話が聞こえてきたんでな」
「ふざけるな。ここでの会話が店の外まで聞こえるわけないだろ。うちの壁と窓は防音性に優れている特注品だ」
「残念ながら出入り口のドアが開いていたぞ? たぶん閉め忘れていたんじゃないか?」
「な、なんだと! 誰よりも用心深い俺としたことが、こいつらとの話が楽しくて気づかなかったとは!」
自分でも信じられないのか、扉が閉まっていないことに気が付かなかったという初歩的な失敗を聞かされたオーガンはその場でひっくり返りそうな勢いで驚いた。
あわあわと口を開閉させているので見ていて面白い。
だがしかし、いつまでも暇をつぶしているほど心に余裕があるわけでもない。
ショックを受けて放心状態となったオーガンに代わり、アレスタが彼との会話を続ける。
「肩代わり妖精の話が聞こえて興味を持ったって言いましたが、具体的にどうするつもりです? まさかドガスさんも探すんですか? 誤解しているのかもしれませんが、テレシィは酒の妖精じゃないですよ?」
すると、そんなことは理解していると言わんばかりにドガスは肩を揺らして豪快に笑った。
「どーするって、そいつを捕まえて売れば金になるだろ? いやぁ助かった、今月はもう酒代がピンチなんだ。げっへっへ、肩代わり妖精で一攫千金を狙ってやるぜ!」
「そんな……!」
これはとんでもないことを考える人間がいたものだ。
あの純真無垢なテレシィを売るなんて、にわかには信じがたい話である。
ふつふつと湧いてきた怒りがアレスタを奮い立たせようとしたが、この場で怒鳴り返して喧嘩にでもなって怪我をさせてしまったら、ドガスの前にテレシィが現れてしまうかもしれない。
ここは冷静になってネガティブな感情を抑えるアレスタだ。
「行きましょう、サツキさん。こんなところで長話をしていても得られるものはありません」
「もういいのか? まあ、俺は別にどうでもいいがな。ここに長居するような用事もないし」
むしゃくしゃする気持ちを押さえ込むため、熱くなりかかっている頭を冷やすためにもアレスタはこの場を離れたかった。
よりにもよってテレシィを捕まえて売り飛ばすなどと言ったドガスのことを許すことが出来ず、とてもじゃないが冷静な状態で彼の顔を見ていられなかったのだ。
「なんだぁ? お前らはもう行くのか? 大金持ちになれる千載一遇のチャンスだというのに、もったいないな。オレ様はもう少しこいつから話を聞かせてもらうぜ」
「そうしてください。たぶんドガスさんには捕まえられないと思いますけどね」
願望を込めて少しだけ挑発的に言い残してしまったアレスタは、ほらほらとサツキの背中を押して出口に向かう。
すると店を出ようとした二人に向かってオーガンが声を張り上げた。
「そうだ、帰るのなら城にでも寄って行ったらどうだ? 調べているというデビルスネークについてだって、お前らなら領主に会って直接話を聞いたほうが早いだろう。あと、ちゃんとドアは閉めていけよ! 絶対だぞ!」
「わかりました!」
「それから……。いや、何でもない。たぶん今日は大丈夫だと思うが、城に行くなら念のため気をつけておけよっ!」
「……ん?」
扉を出ようとした瞬間、よくわからないが意味深な忠告をされた二人。
だが抽象的過ぎる忠告だ。あまり気にしないほうがいいかもしれない。
思わせぶりなことを言って、不要な情報を売りつけようとする算段かもしれない。
その手には乗るか。そう考えるアレスタとサツキであった。




