第2話 美少女お師匠さんがついて来た
「では、輝くん。語り合うとしよう」
「あ、いや、もうすぐ帰る時間かと」
俺の返事に、彼女はさすがに目を丸くさせた。
俺から会いたいとメッセージを送っておきながら、ちゃんと会えたから満足したとでも思われただろうか。
決してそんな酷いことではなく、俺も彼女も焦ることにならない為の返事だったのだが――。
「君は私が嫌いか?」
「え、そんな……そうじゃないです。えっと、窓の外が……」
「窓? 心配しなくとも、ここは二階だ。誰かが入って来ることもない」
「いえ、そうではなく」
せっかく出会えたしたくさん話をしたいのは山々だけど、外が結構暗くなり始めている。
何だかんだで、彼女が現れるまで時間がかなり経っていた。
そうなると運動部以外の生徒は、高確率で締め出しをくらってしまう。
惜しいけど、教室で語り合うのは難しくなってしまった――というのを伝えたかった。
しかし彼女は俺だけを見つめていて、そのことに気付いてもいない。
急に恥ずかしくなって思わずスマホに目をやった上、照れ隠しのつもりでゲームを起動させてしまった。
こんな美少女に見つめられるなんて人生で初なのに、幸運の無駄遣いなのでは。
「――ああ、君の言っていることをようやく理解出来た。コンビニに行きたいのだろう?」
「えっ……? あ、そうですそうです!」
そうじゃなかったけど、スマホを見たことが功を奏したのか。
これもガチャをしている者同士でしか通じ合えないものだとすれば、嬉しく感じる。
それに実を言うと、学校帰りにコンビニに寄るのは俺の日課だ。
マネーカードを買うついでと親に顔を見せる為でもあるが、いい方に取るようにしなければ。
「ではそうしよう。輝くん、コンビニへは歩いて?」
「あ、です。歩いて行ける距離なので」
「それなら君について行く」
そう言うと彼女は、何とも凛々しい立ち振る舞いで、俺が歩き出すのを黙って見守っている。何から何まで美しすぎる人が俺の後ろに立っているなんて、夢を見ているのではと錯覚しそう。
身長は同じくらいなのに、違う次元にいる感じだ。
彼女は歩幅を合わせるようにして、俺の一歩後ろをついて来ている。
その所作が完璧すぎて、迂闊に振り向けない。
後ろをついて来ているとはいえ、ずっと無言のままだ。
かなり気まずいので、積極的に話しかけることにした。
姿を見ないまま話しかけることになるが、今はその方が話しやすい。
「師匠は、何年生なんですか?」
「輝くん。私のことは静稀と呼びたまえ」
「え、し、しかし……初めて出会ったばかりでそれは――」
「一年以上の付き合いのはずだが?」
それは本当にそのとおりで、ガチャゲームの中では一年以上が経った。
こうして違和感なく話しかけることが出来ているのも、そのおかげではある。
自分としては親しみを込めて師匠と呼んでいるつもりなのに、彼女にとってはそうじゃないのだろうか。
「じゃあ、静稀さんということでいいですか?」
「それでいいよ、輝くん。それと、君は同い年の女子とは敬語で話すんだな」
なるほど。同学年の女子だったようだ。
それにしては大人びているし、年齢とか関係無しに眩しいくらいの美少女すぎる。
こうやって会話で透き通りの声を聞いているだけで、癒し効果が得られそう。
歩道を照らす街路樹よりも、彼女の方がずっと輝いて見える。
「これはその、静稀さんが師匠なのでクセになっているだけで……」
「それでは今日という日を境に、話しやすいようにしよう」
「つまり、ため口……」
「私に遠慮することはない。輝くんが決めたまえ」
すでに彼女のペースに乗せられている気がする。
師匠と呼ぶのは自分だけにして、彼女と話す時だけは努力するしかなさそうだ。
「よ、よろしく、静稀さん」
「輝くん、よろしく」
独特な口調なのに何の不思議さも感じないし、とにかく聞きやすいとさえ感じられる。彼女には言えないが、遊馬と違って他の女子とほとんど話したことが無いからだろう。
「もうすぐ着きます……じゃなくて、着くので」
話しながら歩いていたせいか、いつもより早く着きそうだ。
視界にコンビニというか、実家が見えて来る。
そう思っていたら、後ろの彼女から息が漏れ出しているのが聞こえて来た。
「……はぁっ。輝くん、君は嘘つきだ!」
「えぇっ? ど、どういう――」
「コンビニまですぐと言ったじゃないか。それなのに、一体どこまで歩かせるつもりがあるんだ?」
俺としては歩き慣れた距離だし、徒歩で大体20分くらいなら近いと思っていた。
それってもしかして、俺だけの感覚だったりするのだろうか。
どうりで、少しずつおれの後ろをついて来るのが遅れているなと感じていたけど、そういうことだった。
運動部では無いとはいえ、実は鍛えられていたのか。
もしかしなくても師匠は、いいとこのお嬢様とかだったりして。
そんな俺に呆れたのか、彼女は深く息を吐きながら予想外の行動に出た。
「――ふぅっ。ふふ、これでいい」
「し、静稀さん?」
「いいから、君はそのまま歩きたまえ! 私は君に引っ張られているだけなんだ」
彼女が指先で掴んでいることで、俺の制服が後ろに引っ張られている。
その姿を見ることが出来ないのは残念だが、その仕草を想像しただけでもにやにやが止まらない。
何とも言えない高揚感を味わっていたら、目の前にコンビニが見えていた。
やはり感覚的にいつもより早く感じる。
立ち止まったところで後ろを振り向くと、そこには誰もいなく店の方に目をやると、彼女の姿はすでに店内にあった。コンビニに来るまでが大変だったはずなのに、外から見える彼女の表情はとても無邪気なものに見える。
他に客がいたとしたら、誰もが彼女に一目惚れしてしまうだろう。
そういう俺も、実家でありながら店に入る最初の一歩が踏み出せない。
そう思っていたら、彼女が店内から顔だけ覗かせて来た。
「こら、輝くん。君から誘っておいて、私だけを楽しませるつもりか?」
「い、いま行きます! 今すぐ!」
コンビニに入るだけなのに、こんなにも心が弾むなんて彼女が魅力的すぎる。
買うものはいつもと変わらないというのに。
でもまずは、師匠である静稀を楽しませることに集中しよう。




