表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/16

第1話 S級の美少女師匠さん




 両親が経営するコンビニで、今日もいつものようにマネーカードを購入した。

 もちろん、アルバイト代を使ってその日の売り上げに還元するのだから、親も文句なんか言わない。


「また何とかカードを買うのか? (てる)

「マネーカードだよ、親父。……じゃなくて、店長」

「ほどほどにな……」


 家がコンビニ兼実家ということもあり、いつでもマネーカードが買える。

 俺にとって最高すぎた環境のせいで、ガチャに相当つぎ込んでしまった。


 そんなことがあったせいか、数か月くらい経った辺りに「お前の為にならない」とか言われて、今はアパートに一人で暮らしている。


 従業員向けのアパートということもあり、家賃その他は一切かからないし学校がほぼ目の前なので、遅刻する心配が無い。ご飯については自炊を求められたけど、その辺も問題無く過ごせている。


 コンビニからアパート、学校までは、徒歩で片道2㎞くらいの距離だ。

 遠い所に、そこまでムキになって買いに来ないだろう――という狙いがあったらしい。


 親の思惑通り、今ではアルバイトに行ったついでにしか購入しなくなった。

 そんなガチャゲームとは、始めてからかれこれ一年以上の付き合いになる。

 

 始めた当初は無料ガチャしかして来なかったが、今ではポイントをつぎ込んだ分だけのプレイヤーとなれた。


 もちろん、それだけで続けて来れたわけじゃない。


 俺が同じガチャゲームを一年以上にも渡って続けて来られたのも、"師匠"のおかげにほかならない。

 何も分からずに弱い俺を強くしてくれたのは、シズキという上級プレイヤーがいたからだ。


 シズキとは今では友達登録をしていて、メッセージのやり取りをするようにまでなった。俺が勝手に師匠と呼んでいるシズキは、俺が通う同じ高校に通っているらしい。


 しかしそれ以外の情報が無く性別も不明で、あくまでもガチャゲームの中でしか会えない状態だ。


 一年以上も面倒を見てくれているというだけなのに、シズキに会いたいという気持ちが溢れ出した結果、俺は思い切ってメッセージを送ってみた。


「師匠! 俺は師匠に直接会って、語り合いたいです。ルール違反なのは分かっています。でも会いたいんです!」


 基本的にどんなゲームでも、ルールが存在する。

 ゲーム上では友達でも、現実までは踏み入れてはいけない。


 それを知りながら、駄目もとでメッセージを送った。

 すると、まるで定型文のような返事が返って来た。


「放課後、教室にて」


 こ、これは、まさか本当に師匠に会えるのか。


 興奮した俺だったが、師匠からのメッセージ以降は何事もなかったかのようにガチャを楽しんだ。


 こうなるともう、明日が待ち遠しくてたまらない。

 明日はアルバイトも入れていないし、師匠にお礼を言いまくろう。


 翌日になり教室に入ると、すでに引退を決め込んだ元ガチャ友であり級友でもある、木下遊馬(きのしたゆうま)が目の前に立ちふさがって来た。


「なに浮かれてんだ、輝」

「そ、そうか? そんなことないけどな」


 もしかして顔に出ていたのか。

 遊馬とは一年の頃からの付き合いで、そもそも俺をガチャゲームに引き込んだ張本人でもある。


 飽きっぽい性格らしく、俺だけが長く続け遊馬はすぐにやめていた。

 もっともそのおかげで師匠と呼べるシズキに出会えたし、放課後に出会えるわけだ。


「――で?」

「あ、いや……何というか。ガチャ友に会えるっていうか」

「おいおい、マジか。ガセじゃねーの? 引き込んだオレが言うのも何だけど、夢は見るなよマジで」


 こういう現実っぽいところも遊馬らしい。

 遊馬は俺と比べても女子受けがいいし、成績も優秀で先輩後輩分け隔てなく付き合える奴だ。


 対する俺は、可もなく不可もなく。


 これといった強い個性は無いし成績も中くらいで、それこそガチャゲームと同じ中級クラスのプレイヤーと言ってもいいくらい、平均的な男子だ。


 身長も平均で、運動神経もそこそこといった感じと言える。


 唯一優れているのは、実家がコンビニというくらい。

 マネーカードを買うには最適なので、そこだけは勝ち誇れる。


「分かってるよ。気を付ける」


 遊馬には細かいことまで教えずに、とにかく放課後になるまで時間を過ごした。

 同じクラスの連中は体育系が多くて、すぐに教室からいなくなる。


 こういう時は、ありがたいと思ってしまった。


 もうすぐ師匠に出会える――なんて期待していた俺だったが、放課後はともかく教室と書かれていただけで、それがどこの教室なのか分からないことに気付いた。


 しかも師匠が先輩なのか後輩なのかさえも不明だ。

 でも待てる教室というと自分のクラスしか無いし、他は知らないし行けるはずも無い。


 遊馬の言うようにガセで、しかもからかわれただけだとしたら。

 その瞬間、急に不安に思ってしまった。


 それに時間だけが過ぎていたことで、勢いよく自分の席を立った状態で呆然としていた。


 机の上に置いていたリュックを肩にかけ、席を離れようとしたその時――。

 ワイシャツの胸の辺りに伸びて来た手が、俺をトンッと押して来た。


 押す力はそれほど強くは無かったが、席に着くのを迷っていると、透き通るような声が届いた。


「落ち着いてそこに座りたまえ」


 ――この言い方は、まさか。


「も、もしかして、師匠……ですか?」


 俺の言葉にぴくっとした女子は、どうやら師匠で間違いないらしい。

 いやそれにしたって、おかしいくらいの美貌でまつ毛の先まで愛おしいレベルすぎる。


 国の宝と言っても過言じゃないくらいの顔面だし、骨格、体のパーツ、すらりとした細い腕に足――何から何まで、S級の美少女と言っていい。


 さらさらで長い黒髪も、まるで輝いているかのように綺麗だ。

 一見するとクール美少女のように見えるが、どこか無邪気な少年っぽさを感じるところもいい。


 しかも極めつきは、独特な言葉だ。

 師匠と呼んでも、違和感がまるで無い。


「テルくん、落ち着きたまえ」

「え、あれ? 名前はまだ教えてませんよね?」

「君は中級のテルだろう? そして私が誰なのか、君は知っているはずだ」


 ああ、そうだった。

 ガチャゲームでも名前で登録していたんだ。


 セオリーは大体当たらないことが多かったけど、師匠と呼ぶ彼女には当てはまるわけか。


「上級プレイヤーのシズキ……?」

「正解だ。褒美をやろう。何がいい?」

「な、名前を教えてください」

「……あぁ、すまない。私の名は、近野静稀(ちかのしずき)だ。君は?」

遠崎輝(とおさきてる)です」


 これは、第一歩と言っていいのだろうか。

 彼女がまさか師匠で、しかもこんな出会ったことが無いS級の美少女だなんて。


 高校二年目でもうすぐ夏になるけど、春が来た――かもしれない。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ