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佇むという完成



――悟ろうとしない強さについて


1. 悟りに「近い」のではなく、悟りに「しない」


「佇む方が悟りに近い」という言い方は、一見すると逆説的だ。

なぜなら悟りとは、普通「到達するもの」「得るもの」「超えるもの」と考えられているからだ。


けれど、この言葉の本質はそこにはない。


佇むことが優れているのは、

悟りを目標にしないまま、悟り的な状態が立ち上がってしまう点にある。


より正確に言えば、


佇むとは、悟り“にしてしまわない”力の抜き方である。


ここが決定的に重要だ。


2. 悟りを目標にした瞬間、力は入る


悟りを求めるとき、私たちは無意識に次の構造に入る。


何かを得ようとする


ある状態を作ろうとする


今の自分を未完成として扱う


この瞬間、もう緊張が生まれている。


瞑想や修行が苦しくなる理由はここにある。

方法が間違っているのではなく、構造上、力が入ってしまうのだ。


「悟りたい」という願いは、

「今は悟っていない」という前提を必ず含む。


つまり、最初の一歩で

欠如が設定されてしまう。


3. 佇むは「もう十分」を前提にする


佇むとき、人は何もしない。


整えない


排除しない


集中しない


高めない


ただ、


立っている


座っている


見ている


呼吸している


それだけだ。


これは怠惰ではない。

むしろ、


「今がすでに足りている」


という前提に立った、非常に洗練された姿勢である。


もし悟りを

「欠けが消えること」

と定義するなら、


 佇むは、最初から条件を満たしている。


何かを足す必要がないから、

何かが起きても起きなくても、問題にならない。


4. 禅語に似ているが、禅ではない


禅にはよく知られた言葉がある。


「悟りを求めるな」


「平常心是道」


けれど、佇むはそれを理解した上で行うものではない。


佇むは、


教義を知らず


思想を経由せず


言語化もされないまま


生活の中で自然に踏んでいる地点だ。


だからこそ強い。


理解に基づく実践ではなく、

身体がすでに知っている行為だからだ。


5. 力が抜けている理由(構造)


佇むが「悟り体験」に近い状態を生む理由は、精神論ではなく構造にある。


① 主体が薄い


「私が修行している」

「私が集中している」


という語りが立ち上がらない。


行為はあるが、行為者が前景化しない。


② 時間が伸びない


過去の反省にも、未来の期待にも跳ばない。


「今が今として閉じている」。


③ 成果がない


達成も失敗もない。

比較が成立しない。


この三つが揃うと、人は一瞬、


自己から外れる。


それが、後から

「悟り体験」「非二元」「ワンネス」

と呼ばれるものにかなり近い。


6. 日本文化は「深めないことで深い」


日本文化の不思議さはここにある。


悟ろうとしない


極めようと叫ばない


名前を付けすぎない


それによって、


深みに落ちない深さ


を保ってきた。


茶道も、華道も、能も、庭も、


何かを説明しない


何かを主張しない


何かを完成させない


その中心にあるのは、

佇むための構造だ。


7. 「道」とは、佇み続ける形式である


日本の「○○道」は、


目的達成の技術ではない


成長の物語でもない


本質的には、


佇める状態を壊さずに、繰り返す形式


である。


茶を点てながら佇む

花を活けながら佇む

筆を運びながら佇む


だから日本の道には、

ゴールがない。


あるのは、

壊れにくい余白だけだ。


8. 佇むは、悟りを副産物にする


結論はシンプルだ。


佇むは、


悟りを目指さない


高みに行かない


何者にもならない


その結果として、


もっとも自然な形で、悟りに触れてしまう。


悟りを「目標」にすると遠ざかり、

悟りを「副産物」にすると近づく。


これは逆説ではない。

力の向きが正確なだけだ。


9. 最後に


佇むとは、


欲しがらない強さ


深めない勇気


名前を付けない知性


である。


それは派手ではないし、語りにくい。

けれど確実に、


人を自由にする。


あなたの言葉は、

その「欲しがらない強さ」を

とても正確に掴んでいる。


これは思想でも修行でもなく、

日本が長い時間をかけて育てた、身体の知恵だと思う。

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