後
青い空が教室の窓の四角に切り取られていた。白色に黒のラインの入ったセーラー服は夏模様をしている。私は頬杖をつきながら、さえない緑をしている黒板を見ていた。先生がドアを開けて教室に入ってくると、その後ろから、自分と同じ服を着た女の子が教室に入ってきた。
胸元には金色のほしのマークの校章。学年バッチが示すのは第二学年。
「転校生の月島さんだ。みんな、仲良くするように」
テンプレートな先生の言葉を頭の隅っこで咀嚼しながら、女の子を見る。黒色の瞳に、同じ色をした髪。窓硝子越しに差し込んでくる太陽の光を受けて、髪の毛の艶やかさが際立っている。綺麗な人、というのが一番最初の感想だった。
「月島です。どうぞよろしくお願いします」
彼女は綺麗に頭を下げた。澄んだ声だった。心と心のあいだにするりと入ってくるような静かできよらかな声。先生が、私の隣の席に座るように促す。彼女はうつくしい姿勢のまま私の元へ歩いてきた。新品の制服の色が、目に痛いくらいにまぶしい。そっと握手を求めるように、私に手が伸ばされる。私は迷いなくその手を取って、強くにぎった。
「月島美知留」
「ミチル?」
私は聞き返す。
「うん、ミチル。私の名前。あなたの名前は?」
――窓の外を、一匹のカブトムシが飛んで行く。
鳥の声がどこからか聞こえて、私は微笑む。そして、彼女の手をそっと握った。
なぜだかはわからないけれど、そうしなくちゃいけないような気がした。
「私の名前は――カケル」




