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『お姉ちゃん!?』
シャーリーがいる。シャーリーが、いる。
『シャーリー!!!!…!?』
シャーリーに抱きつこうとしたが、足が何か、植物のツタのようなものにからまって動けない。
なにこれ?邪魔しないで欲しいのに、シャーリーに今すぐ抱きつきたいのに、そう思えばそう思うほどこのツタは私の足にからまってくる。
『…おねぇちゃん…どうして……まだこっちにきちゃだめだよ…』
なんで??やだよ…!私は望んで、やっとこれたんだよ…??シャーリーが死んだら私の価値はなんにもないんだよ、あなたがいてくれたら他に何もいらなかった、あなたがいてくれたからあの世界だって生きられた。
あなたがいない世界なんて、シャーリーのいない世界なんてなんの価値もない。
でも、あなたは私のいない世界を望むの?
そっちの方がいいの?ならせめて見守らせて、それだけは許してあなたの目には映らないようにするから。
『違う!!違うよっっ!そうじゃない!』
なら、なんで…
『あっ…まっっ…まだ…話す…こ…とがっ』
私が立っている地面が崩れだす。どんどん下に落ちていく。シャーリーが何か叫んでいたけど落ちるにつれ何も聞こえなくなっていた。
もしもシャーリーが私を要らないというのなら、
私はどこに行けばいいのだろう?
私は──。
……ここはどこだろう。辺りをみまわそうとしたが体に激痛が走り、ベットに倒れ込む。すごくふかふかだ。いかにも高級そうなものだ、とどうでもいい事を考える。また私は死ねなかったのか。
自分でもしぶといとつくづく思う。いや、さすがにしぶとすぎないだろうか。
そろそろ死んでもいいと思う。
視線を感じてドアの方を見ると彼が立っていた。
「どうして....殺してくれなかったの」
「…はぁ、起きてすぐの言葉がそれか」
それはそうだろう。感謝の言葉を送った私が馬鹿みたいじゃないか。彼にとっても私は死んだ方が都合のいいだろうに物好きなことだ。ぼーっとしているといつの間にか彼に腕をぎゅっと、掴まれていた。結構強く握っているのだろう、腕にゆびがくい込んでいる。痛そうだな、と他人事のように思った。
「痛覚が麻痺してるのか?」
「…」
「…まぁ、麻痺してない方が苦しいか」
私もそう思う。でなきゃあんな所で生きてられない。痛覚だけじゃない、表情だって今の私には存在しないようなものだ。反応すればするほど喜び、暴力を余計振る人もいたのだ。反応しなければつまらなさそうにやめていく。そうなれば必然的に表情も無くなるものだ。
彼がじっ、とこちらを見る。何となく目をそらすことができずにこちらも見返す。一瞬のようにも感じたし、長い時間のようにも感じた。何とも不思議な時間だった。居心地が悪い訳では無いが、そわそわする、そんな感じ。
「いつ…?」
「なんだ?」
「いつ…殺してくれるの?」
「口を開けばそればっかだなぁ、久しぶりに会う婚約者にもっと違う言葉をかけてくれよ」
はにかむように笑う彼は昔と変わらないな。昔から彼は優しくて、困ったように笑うのだ。
「……じゃあ……私をどうするの?処刑するの?兵器として使うの?実験台にするの?それとも性欲をはっさ……」
最後まで言えなかった。凄い形相ですごんできたため、何も言えなくなってしまった。そんなに変なこと言っただろうか?
「何をそんなに怒ってるの?」
「…これが怒らずにいられるか」
知らないよ、そんな事。そんな感情とっくに抜け落ちたんだから。怒ったって何も状況はかわらなかったし、もちろん泣き叫んだって泣くだけ無駄だと知らされただけだったんだから。しかもあなたからしたら元婚約者のことでしょう。関係ないだろう。何をそんなに怒ることがあるのだろう?
多分、彼は優しいからなんだろうな。
「ねぇ、」
「………なんだ?…」
「私をどうするの?」
「俺の名前を呼んでくれたら教えないことも無い」
何とも子供っぽいな。逆に言えばそれだけで教えてくれるのだろうか?殴ったりしないよね。
言おうと口を開いて私はそこで止まってしまった。
「……………………」
「……………………まさか名前を忘れたなんて言わないよな?」
残念ながらそのまさかである。
「…申し訳ありません。ゼロが悪いです。ごめんなさい。」
「まさか………お前自分の名前は!?」
「ゼロです。」
「違う!本当の名前だッ!」
ホントウノナマエ?名前?なまえ?そういえばでてこない。おかしいな、ででこない。あれ?なんで?
シャーリーの名前はでてくるのに?
「妹の名「シャーリー」…即答かよ。」
私の世界そのものだからね。私の宝物。忘れるわけが無い。
複雑そうな顔をする彼をほっといて思い出そうとするが一向にでてこない。困ったな。ほんとうにでてこない。
「おまえの名前はカロリーナ」
「かろりーな」
「そう、カロンとよく呼んだ。俺は…俺の名前は…思い出せ。時間がかかっても構わない。」
「はい、了解しました。」
「その言葉遣いやめてくれ、頼むから。敬語じゃなくていい。」
「承知しました」
「…」
そう言うと同時にドアのをノックされる。
「お邪魔して申し訳ありません、会議のお時間です」
「ん、すぐ行く」
彼は何も言わずに私の頭をポンポンとしてから部屋を出ていった。