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その人は後ろに何人かの部下を連れてこっちへ向かってきた。飛んでいる、空を。空中を歩いてこっちへ向かってくる。
この光景に私は最初この人を人とは思えなかった。
この世の人とは思えないほどの美しさがその考えをさらに強くさせた。
金髪の髪がさらさらとゆれる。瞳は新緑の色をしていた。背は私よりもはるかに大きかった。180はゆうに超えているだろう。…私はその人を見たことがある気がした。どこだろうか。まであってきた人は殺したはずだから王女だった時だろうか。
「久しぶりだな……覚えてないか?婚約者だったんだがなぁ」
私は驚きで言葉を発せなかった。
その時、
「ゼロ、何をしている!!」
この組織の中での私の名前はゼロになっていた。
今怒鳴った人はいわゆる私のご主人様というやつだ。怒鳴られても私が動かずにいると(正確に言うと動けずにいるのだが)、
「命令だ!!そいつらを殺せ!!」
私の首輪が赤く光る。そう、この首輪には魔法がかけられている。暗殺者として強くなっても、獣人もどきとなっても、この組織から抜け出す事ができなかったのはこれが原因だ。こうなると私は逆らえない。
傷だらけの体が悲鳴をあげながらも、私の意思と反して勝手に動いていく。
あぁ、痛い、つらい、苦しい。
私の瞳からは涙ではなく、血が流れていった。
彼はは私を見て、苦しそうな顔をした。なぜそんな顔をするのだろう?苦しいのはあなたではないだろうに。
私は立ち上がると、彼に向かって走り出した。一瞬で目の前に行き、爪で八つ裂きにしようとしたが、彼はいつのまにか抜いていた剣でこの攻撃を防ぐ。
「ゔゔゔゔっっ!!うにゃぁぁあああ"あ"あ!」
「…くっ……」
私は彼を振り払い、標的を部下に変えて襲いかかる。
1人目が剣をこちらにむけ、槍のように突いてこようとしたがそれをひらりとかわし、みぞおちを思い切り蹴る。次は2人がかりで斬りかかってきたが、素早く地面にふせ、足をひっかけ転ばせた。そして踏み潰そうとすると彼がこっちに向かってくるのが分かった。
私が地面をけって大きく飛び、彼の方に向かうと、彼はその場に立ちどまり、私を待ち構えていた。
スピードを上げて、彼の懐に入ろうとするがその前に彼の剣で吹き飛ばされる。
ズザザザザッと地面をすべり、また彼の元へ向かう。
短剣を何本か投げ、それを簡単にはじかれた時、隙ができた。そこを狙って攻撃しようとしたが、わざと隙を作ったのだろう素早く剣を私の方に向け突き刺そうとする前に私は飛んでからだを捻り、蹴りをいれた。が、その足を捕まれ投げ飛ばされる。
戦うのが楽しくなってきた。
暴走しかけてるなぁ、と、心のすみで冷静に考えていたが私にそれを止めるすべはないと思い、暗闇にからだを委ねていく。どうせ誰も私をとめられない。
パチンッ、と指がなった音がしたあと私は丸い水の中にいた。魔法が使えたんだなぁ、と呑気に考える。
私は魔法に関しては使えないが、水以外の魔法なら対処できる。水以外の魔法というのは私が猫の獣人だからだ。猫は水を嫌う、もちろん泳げない。息が出来ない。
「☆$#=*○:€$!!!!」
ご主人様が何やら怒鳴っているが、なにせ水の中にいるため何を言ってるかわからない。
ごぽっ、と空気の泡が口から出ていく。
彼がこちらを見つめていた。私はこんな醜く、黒く穢れた姿を、よりによって彼に、初恋の人に見られたくなかった。
目の前が霞んでいく。
殺してくれるのかな。さっき叶えてやれない、なんて言ってたくせに。嘘つきだね、でもありがとう。1番素敵な死に方だよ。初恋の人の手で死ねるなんてこれ以上ない幸せだとおもう。
私は彼に微笑んだ。
「ありがとう」
きっとこの言葉は届きやしないけど。
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