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春眠

夢十夜、という話を読んだ。

「百年待っていてくれますか」か、面白いじゃないか。

 自分の胸に手を当て、感傷に浸る。清らかで優しく、温かい水の中に飛び込んだかのような心地よさと、

それゆえの息苦しさが手を、足を、首を、つたってこみ上げる。

どこか朧気で、手を伸ばせば届きそうな日々を思い出す。

-春-

その日、始業式で半ドンだった僕は、まるで重力から解放されたかのような気持ちで歩いていた。

そこで出会ったのだ…。

あの一輪の花のような少女と。

彼女は道にしゃがみこんでいた。狭い道だったのでそれをよけるようにして歩く。後ろ手に振り返ってみると

花壇の花を眺めているようだ。「なんだこの子?」それが第一印象だった。

次の日も、その次の日も、彼女は休まずそこにいた。

春の暖かい陽気のせいだろうか。まるで花に誘われる蝶のように、話しかけずにはいられなかった。

僕のそっけない挨拶に、彼女はそのくりくりとした目を嬉しそうに細めてふふっと微笑んだ。

瞬間、時が止まった。。。

胸は高鳴り、春の訪れを高らかに刻んだ。

「その花、何ていうの?」

はじめは花だともわからなかったその植物を指差す。

「タンポポ」「知らないの?」相変わらずまぶしい笑顔でそう言ってくる。

「いや、どうしてタンポポを毎日大切そうにみてるのかな?と思って。」困ったように返す僕に彼女は

「好きなんだ、タンポポ。」

「これね、二ホンタンポポっていうの。一本から一輪しか花が咲かないんだ。」

「私も一人ぼっちだから。」。。。

そんな彼女の様子に、次の日も、その次の日も、声をかけずにいられなかった。。。



 気づけば花は、羊雲のように白く、美しい綿毛を付けていた。

その綿毛の一つ一つが、ころころと変わるかわいらしい彼女の表情を映しているかのように見えた。

それを小さな唇で飛ばして彼女は言った。

「さよなら。」何気ない言葉だった。出会った時から何回も、何回も交わしてきた言葉。

しかし、いつものそれとは違い、どこか湿り気を含んでいたその言葉に、不安になって訪ねる。

「またあえるよね?」

彼女は「この種が芽吹くころにまた。」そう言い残して行ってしまった。

あれから二年がたつ。

気づけば目の前にあの真っ白い綿毛が飛んでいた。。。

どうやらあの種が芽吹くのは、もう少し後らしい。




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― 新着の感想 ―
[気になる点] 知っている人は分かりますが、そうでない人にも向け、夏目漱石の作品と明記してあると分かりやすいかなと。 [一言] 主人公の年齢が読み取ることができず、何歳なのか……。 漱石を読むというこ…
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