第拾陸幕の伍
脱法が時に正解となることもある、しかしそれは最終手段。
一仕事終えたプチッツァは、その足でティーガーの部屋へと向かう。
「なんだお前か」
彼女の顔を見てすぐ扉を閉めようとするティーガーだが、扉と枠の間に足を入れられしぶしぶ相手をする。
「これ見て」
それだけ言うとプチッツァは自慢げに4枚の翼を出してみせる。無数の3色の羽根が抜け、ティーガーの目の前を舞う。彼女が新たな力を得たことに目を丸くしながらも自分も負けていられないとライバル心が芽生え、着実に力をつけていく彼女の姿を前に焦りとともに沸き立っていた。ただ増えた翼を見せびらかしに来たわけではない彼女はすぐに翼をしまい、話を持ち掛ける。
「あたしさぁ、あいつらの仲良しごっこをバラバラにするのにいい作戦を思いついたんだよね」
「言ってみろ」
熱弁を始めるプチッツァ。一通り話を聞くと、ティーガーは満足げな顔をする。
「その顔、やる気みたいじゃん。じゃあ今から行くよ」
「ああ。こっちとしては失敗されても問題ないからな」
失敗する前提で話されて若干苛立つプチッツァだったが、今の自分の力を信じてそれは起こらないと自分に言い聞かせてから二人の若人は颯爽と廃研究所を後にする。だがその姿を1台のドローンが監視していることなど彼らは知る由もなかった。
退屈で永遠に続くように感じてならない数学の補習が始まり、さくらやかりん、その他の参加者にとってはよくわからない式、具体的に言えば√の入ったものやXとYが入っているもの、1年生で習ったものなどが次々と黒板に書かれていく。この場にいるだけに悪戦苦闘する参加者たちだが、そんな問題でもすらすらと解いていく者が一人だけいた。
「さすがはK2、簡単に解いていくな……」
お茶の子さいさいと言わんばかりに、京田は問題を次々と解き、正解していく。彼が自席に戻る際に小声で感心する麦倉だったが、方程式を解いた当人にとってのNGワードをうっかり口にしてしまい怒りのこもった眼差しを送られてしまう。それに気づいた麦倉は慌てて口をふさぐ。
「K2?」
聞き慣れない言葉にかりんが首をかしげる。そこにさくらが小声で京田がそう呼ばれる理由を話す。有名大学への進学を目指している彼は彩羽高校に入学してからというもの、どの教科でも中間と期末で毎回あおいに勝てず学年2位に甘んじていた。そんなシルバーコレクターである彼のことを2位という順位から世界で2番目に標高が高い山であるK2と名字のイニシャルのKにかけたダブルミーニングで何者かによってつけられた彼の通称だという。もっとも、彼はあおいに負け続けていることを何よりも気にしているため校内中で暗黙の了解的にNGワードとされていることも伝えた。
それだけでなく、過去に彼がいることに気づかずすぐ近くで「K2」と言ってしまったがために目をつけられて幾度となく嫌がらせをされた、うっかり口走ったことを根に持たれて嫌がらせをされる憂き目にあった生徒が数人いたことは彼女が前のようにならないようにすべくさくらは飲み込んでおいた。しかし、麦倉のような屈強な男子生徒が相手でも報復をするようであれば相当な度胸の持ち主だとある意味感心するとすら感じていた。
その頃隣の教室では英語の補習として小テストが行われていた。参加者はアイリスをはじめ10人ほど。アイリスは補習という名の束縛から解放されて一刻も早くシルビコットの試合を見に行くべく、問題を見て必死で記憶の扉を開こうとしていた。彼女の両隣の席に座っている男子生徒は、試験監督であり補習を担当している唐木田の目を盗んでは彼女の答えをカンニングしようとしていた。
提出の時間となった。合格者は……7名。やはりアイリスはシルビコットのことがどうしても頭から離れず、問題を解くことに集中できなかった。それを盗み見た男子生徒には、それ相応の点数が返ってきた。肩を落とすアイリスだったが、テスト中の彼らの挙動不審な動き、そして回答の酷似さを見抜かれて男子生徒たちに唐木田からの説教が始まったのを見て決意を固める。
「先生! どうしても外せない用事があるのでこれで失礼します!!」
嵐のように去っていったアイリスの背中に、唐木田は言葉を失う。それに続こうと唐木田に説教されている二人の男子生徒も逃走を図ろうとするも、そうは問屋が卸さず失敗に終わってしまう。
「石神、北沢、まったく、お前らと言う奴は……!!」
自業自得とはいえ、逃げきれなかった二人は説教されながら既に背中も見えなくなった彼女に苛立ちのオーラを飛ばしていた。
どこぞのハーフタレントは高校生の頃英語の追試だか補習だかで周りにカンニングされて結果的に道連れにしたというエピソードがありますがこういったところに見た目が外国人の人がいてもカンニングは無意味だと賢ければ気づくよね。




