第拾陸幕の肆
曲者教師、絶対いるよね。
土曜日の彩羽高校は、練習のためにいくつかの運動部が来ている以外は補習のために出席させられた生徒ばかりだった。
さくらにとってはおなじみの2年B組の教室。ここが数学の補習の場で、隣のC組の教室でアイリスは唐木田による英語の補習を受けていた。
数学の補習に来ていたのは柔道部の大黒柱麦倉、さくらと同じ中学出身で同人作家をしている中野渉、小町部の部活対抗リレーの助っ人だった天宮智彦と、その幼なじみで周りからは彼女だと思われている篠崎瑞江といった小町部にとっては顔見知りばかりだった。……ただ一人を除いては。
彼が補習に参加していることは小町部とかかわった面々から見ても異例であり、なぜ彼がいるのかという目で見られていた。
かりんがB組の教室の扉をくぐる。来ていたのが顔見知りばかりなことにも驚いたが、せっかくさくらたちが普段を過ごしている教室に初めて入るのだからもっといい理由で行きたかったとがっかりしつつし、教室の中ほどの席に座る。
「始めるぞー」
入ってきたのは数学教師の池山正一。中年の男性教師だ。彼の到着とともに補習がスタートする……はずが、まだ1人不在であった。そんなことはお構いなしに、彼は出席を取り始める。名前を呼ぶ声に参加者は返事をしていく。
「京田ー、京田征紀ー。いないなら欠席かー?」
「……はい」
京田はふてくされた小さな声で返事する。今回の中間試験もいつものように学年2位の成績を取ったのだが、授業での態度が良くないという理由で池山から補習に出席するよう言い渡されて嫌々来ていたからだ。
「いるならちゃんと返事しろよ」
池山は呆れた声で彼に注意し、出席を取るのを再開する。かりんはいるべき人物がいないことに不安を覚える。
「火宮ー。火宮さくらー。……欠席か」
出席簿の欠席の欄に丸を付けようとした直前、教室の後ろの扉が開く。かりんはその音に目を開き、次の瞬間には安堵する。
「ギリギリセーフですよね?」
想定外のトラブルと戦ってきた後のさくらの到着である。
「ちょっとさくらちゃん何やってんの~? まったく……開始3分前には入るようにしとけよ?」
「それなら始まったらカップ麺が食べられますね! あと待ってる間に大きなヒーローも戦えます!」
「そういう問題じゃないの。しょうがないから今回は滑り込みセーフってことにしておいてあげる。寛大な処遇に感謝してね」
「はーい」
どこか間の抜けたやり取りがなされ、教室が笑いに包まれる。かりんも笑っていたが、同時に大きなヒーローは2分40秒や4分と必ずしも制限時間が3分ではないこともあれば、厳密に決まってないこともあると脳内で補足していた。だが京田だけはさっさと始めろとでも言いたいかのように冷めた目線を送っていた。それに気づいたさくらは、なぜ彼がこの場にいるのか理解できず疑問が渦巻き始めた。
池山先生は中学にいた曲者社会教師をモデルにしました。さくらとのやり取りは実際にクラスの女子とのやり取りをほぼそのまま出しました。




