第拾陸幕の参
見てはいけないものは意外と近くにあったりする。
廃研究所では、新たな力を手にして絶好調のプチッツァが我が物顔で歩いていた。自室のドアに貼られていたメモに書いてある場所に到着したが、呼び出してきた相手は不在。
「へぇ……ここってこんな風になってたんだ……」
住処としていながらも研究室には入ったことがなく、彼女にとっては物珍しいものであふれる場所を堪能する。
「あったあった」
スクリーンセーバーには熾天使が描かれた神々しい絵画が映っているPCの脇に置いてあったネガボットの素体を回収する。そのままスクリーンセーバーの絵の美しさに見とれていると、どこからか異様なうなり声が聞こえてくる。
慌てて声のする方へ顔を向け、足を進めると研究室の奥の方でハンジールが両手足を鎖で縛られながらもがいていた。それだけでなく、ロンが培養槽に浸けられていた。
ここ数日の彼らの不在の理由が分かったプチッツァは、このまま放っておくわけにはいかないと4枚の翼を広げる。
「試運転といきますか。ハンジール、じっとしてて」
彼女の言葉を理解できていないようでハンジールの動きは止まらなかったが、それを待っているほど悠長にしてはいられないと判断し、背中から左斜め下に向かって生えている緑色の翼がうっすらと光り、そこから木の葉を4枚出して飛ばす。それぞれがハンジールにつながれていた鎖を切る。ハンジールは鎖が切れるとそのまま前に倒れこむ。
「次はこっち」
ロンが浸けられた培養槽の前にプチッツァは立つと、今度は右斜め下に生えた黄色の翼がうっすらと光る。その直後、彼女の目が光り、見つめる先にあった培養槽が下から少しずつ石化していく。
培養槽の全体が石でコーティングされた後、目をつぶる。次の瞬間、覆っていた石ごと培養槽がバラバラに砕け散る。
破壊された培養槽からロンが力なく倒れこんでくる。力自慢のハンジールは疲れ果てて起きそうもなく、代わりにプチッツァが破片に当たるのを防ぐべくもとから生えている2枚の翼で受け止める。
「……お嬢様、申し訳ございません……」
譫言をつぶやくロン。自分はお嬢様なんて柄ではないうえにそういった世界とも無縁だが、彼の言う「お嬢様」が何者なのかプチッツァは若干気になりながら肩を貸し、そのまま彼の部屋へと向かっていった。
ロンが言ってるお嬢様も一体どこの誰なのやら。




