第拾陸幕の弐
ジェネレーションギャップの一言で片づけられない理不尽が襲いかかる。
だが、小町部としては苦い思い出だけではなかった。体育祭の優勝そのものは3年生のクラスが獲得したが高砂が副賞として賞品にしたシルビコット東京VSサザンカズール横浜の試合のチケットは小町部が獲得した。
今日はそのシルビコットとサザンカズールの試合当日。花ヶ咲駅の前にかんなが待ち合わせ時間通り到着するが、まだ誰も来ていなかった。
本来ならば午前中だけバスケ部の練習の助っ人に行くことになった蓮以外の全員で行き、蓮とは現地で合流……するはずだったが、体育祭が終わることは中間テストという名の試練のゴングでもあった。学年一の頭脳を誇るあおいとともに勉強して備えたものの振袖小町との二足の草鞋は大きく影響し、さくらとかりんは数学、アイリスは英語で赤点を取ってしまい、補習授業を受ける羽目になってしまった。しかも運悪く実施日がどちらも今日だった。もっとも、アイリスの場合はシルビコットの試合に行くことしか頭になかったのが最大の原因であるが……。
そこに、イナリが息を切らせて駆け寄ってくる。
「イナリきゅん? そんなに慌ててどしたの?」
「あおいが大変なんだ!」
さくらが帰ってくるまで退屈だったイナリは、暇つぶしに家の周りを散歩していた。すると、自分が来た道に向かっていくしかめっ面の老婆とすれ違う。いつも通り補習とは無縁のあおいは補習を受ける羽目になった3人に悪い気がして後ろ髪を引かれながらも駅に出発しようと部屋を出て階段を降りた。その時だった。
玄関のドアが小さな音を立ててそっと開く。その向こう側から見えた顔に、あおいは戦慄する。
「(隠れなきゃ!)」
そう思って体が動くも時すでに遅し、彼女の姿はもう捉えられていた。
「どこに行こうって言うの?」
顔面蒼白。この四字熟語がこれ以上に似合うシチュエーションを、あおいは知らなかった。
招かれざる訪問者の名は織部登美。あおいと蓮にとっては母方の祖母の姉、つまり大伯母に当たる人物で、花ヶ咲からは少し離れた町で一人暮らしをしながらタバコ屋を営んでいる。だが、二人が生まれる遥か昔の幼い頃から今回のようにマウンティング行為や自分が正しいと思い信じて疑わない考えの押し付けを良かれと思ってという大きなお世話の名のもとに周りを取り巻くありとあらゆる人物に行う質の悪い常習犯で、そのためだけにわざわざアポなしで水崎家をはじめとするありとあらゆる親族の家に襲撃してくるという売り物にしているたばこのように百害あって一利なしの迷惑行為を繰り返す言わば「自分が悪だと気づいていない最もドス黒い悪」とも呼べる存在である。もっとも、インターホンを押さずに家に入ることはたとえ親族間であったとしても正当な行為ではなく、しかも承諾を得ていないのであれば立派な住居侵入罪に該当するのだが。
法律の知識などあるはずもない一介の老婆である彼女がそんなこと知るわけもなく、仮に知っていたとしても天上天下唯我独尊、俺がルールブックだと言わんばかりにお客様用のスリッパを無断で履くや否や、止める隙すら見せずに家に上がり込む。
「あんたは茶の間で待ってなさい!!」
止めようとするも威圧するような大声であおいを制し、彼女と蓮の部屋への侵入を許してしまう。あおいの本棚を無許可で物色し、参考書を見つけてそれを取り出して強く掴み取ると、鼻息を荒くさせながらあおいのもとに戻ってきて講釈をたれ始める。
「あおい! あんたまだ大学に行くつもりなんだね!? 女の子が勉強したらお嫁に行けなくなるって何度言わせたらわかるんだい!?」
この言葉が表す通り、彼女の考え方は昭和であっても時代錯誤だと言わざるを得ないレベルで旧態依然、有り体に言ってしまえば「老害」という二字熟語が服を着て歩いているようなものだった。
「ところで蓮はいないのかい? さっき外にいた若いのみたいに毎日遊んでばっかりいたら、お嫁さんのなり手がいなくなるよ!!」
自分に対しての発言は小さいころから耳に胼胝ができるほどに聞かされた言葉だったためまたこれかとスルーできても、事情も知らずに蓮が遊んでばかりいると決めつけられたことに腹を立てたあおいは怒りを抑えきれず自分が言い負かすと決意する。
「腹を決めたようだね、あおい。隣のお転婆娘もいないようだし、あたしを言い任せられなかったらあんたには高校を今すぐやめて花嫁修業をしてもらうよ」
今度はこの件とは一切無関係のはずのさくらのことまでも馬鹿にしてきた。どこまでピンポイントに地雷を踏みぬいていけば気が済むのかと怒髪天のあおいに、ある意味オリエント・ゾディアック以上に絶対負けられない戦いが立ちはだかった。あおいは手が放せないと判断したイナリは、それを伝えにきていた。
「……なにそれ、激おこぷんぷん丸通り越してムカ着火ファイヤーなんですけど」
イナリが事情を話すとかんなは激怒する。織部の考えの時代錯誤さに怒りと呆れを覚えていた。かんなは加勢に向かうと言い出す。老婆の表情と罵声にあおいの危機を感じたイナリは、共に助太刀する決心がつく。
時代錯誤、それは罪。




