第拾伍幕の拾参
一般人が勇気を振り絞るのっていいよね。
京田の手から離れた瓢箪の中では、未だ怪物の手に自分たちの命が掌握されている恐怖が過ぎ去っていなかった。しかしその中でも希望を捨てていない者たちは存在していた。
「みんな、全員生きて戻って体育祭をやろう!」
そう声を挙げたのは生徒会長の目黒秋彦であった。
「わ、私もこんなところで死にたくない!」
「うちの店はあたしが日本一の酒屋にするから、ここでくたばってらんない!」
陸上部のマネージャーである高田愛香や、酒屋の看板娘岩淵清美も叫ぶ。愛香は晴れて恋人となった馬場祥秀と手をつないでいた。
「俺にはまだやらなきゃなんねえことがあるからな! 絶対ラグビー部再建すっぞー!!」
「僕はまたテニスがやりたい!」
元ラグビー部部長で現在は同好会会長として部の再建を目指している戎利一や、片桐に無実の罪を着せられテニス部を追われた稲田隼人もそれに続く。
「彼女ができないままで死ぬなんてごめんだー!!」
「ここにはくるみの王子さまはいない! 絶対出てってやるー!!」
くるみや誠治も自分の思いをぶちまける。
ふと見るとアイリスが応援に使っていたメガホンも一緒に吸い込まれ、転がっているのをかんなが発見する。それを見てあることをひらめいたかんなは、蓮に小声で声をかける。
「(蓮くん、確認だけど振袖のカケラって未成年の女の子ならみんな使えるんだよね?)」
蓮は首を縦に振る。
「(あたし、これ持ってるから使えばなんかいけそうな気がする!)」
突拍子もない発想ではあるが、今はこれに賭けるしかないと判断し、かんなは旗が刺さっている方向を向いてから左掌に振袖のカケラを握り締め、大きく息を吸ってから右手に持ったメガホンを口に当てて出せる限りの大声で叫ぶ。
「みんなをここから出せー!!!!」
叫んだ途端、高田、目黒、戎、くるみ、誠治、清美、稲田の体がうっすらと光を帯びる。その直後、空間の360度四方にひびが入る。体が光を帯びた本人たちはもちろん、まわりの生徒や教師はわけがわからずうろたえるが、割れた瓢箪の外から見えた景色と、そこから吹きつけてきた新鮮な風が自由を取り戻せることを確信させていった。
瓢箪は粉々に砕け散り、強風がグラウンドを吹き荒れる。直後、全校生徒、教員、来場者がそれぞれもといた席に戻されていく。自由を取り戻した一同は喜びをかみしめあい、事件に一枚噛んでいたユダともいえる京田は、しれっとその中に紛れ込み自分も被害に遭っていたかのように振る舞う。
しかし、安堵している場合ではなかった。ネガボットにされてトイレと廊下でそれぞれ倒れていた淡路と八角は百合ら担任を持たない教員が捜索して発見されるも、息を吹き返さず百合と男性体育教師の手によって心臓マッサージが行われた。その間に手の空いている教員、そして蓮とかんなは生徒や来場者の退避誘導を始めた。
今回体が光ってない人も含め、小町部に助けられた人は結構な数いますね。校長があんなですが理解者は増えてきてると思っていいでしょう。




