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華のお江戸の振袖小町  作者: 水虎
第拾伍幕「混沌」
229/247

第拾伍幕の参

クラスに一人はいる厄介な奴、本領発揮。

「あら、土屋さんの応援気合い入ってるわね! うちも負けないわよ! みんな、頑張りましょうね!」

 熱い応援をアイリスの姿を見た桃香も、お隣さんに対抗すべく生徒たちをあおる。

「もちろんですよ!」

 真っ先に立ち上がったのは、クラスでも元気がある女子生徒の淡路陽子(あわじようこ)であった。彼女はどこのクラスにも必ずといっていいほど一人はいる「行事に必要以上に張り切るタイプの女子」で、この体育祭でも準備開始から今日に至るまで、クラスの応援の考案などは彼女が主導になっていた。

 しかし、彼女が立ち上がった途端に男子を中心にクラスメイトのおよそ半分が顔を引きつらせている。蓮が隣にいた男子生徒である小豆畑洋夫(あずはたひろお)に何があったのか聞く。彼の話によると、彼女は毎日のように部活や塾などで予定があるクラスメイトを部室やリレーの練習場所まで追いまわした挙句強制連行、それらがない生徒は問答無用で応援の練習に付き合わされたと語り、被害を受けていたのは自分だけではなかったことに戦慄していた。

 小町部の3人はクラスでの朝練で彼女が必要以上に熱くなっている姿が目に余ると感じていたことはあったが、放課後は事件の解決に東奔西走していたため足取りがつかめず運よく逃げられていたため、この事態を知らなかったさくらも彼女の性格からしてやりかねないと呆れていた。クラスのマジョリティの気持ちなど微塵も察することなく、彼女は周りを無理やり付き合わせてアイリスの応援に対抗していた。

「(なんだか騒がしいなぁ……そういえばこの前猫がスタジアムに出てきて野球の試合が中断したってニュースをさくらが見てたな……なら僕も。グラウンドに降りずに探索するくらいならいいよね)」

 さくらたちのクラスの応援がどうにもシンクロしていないことに不協和音を感じ取ったイナリは、こっそりとカバンの中から抜け出した。

 アイリスが熱く応援する姿は少し離れたF組の席からも確認できた。その裏には賞品がかかっていて燃えているという真実を知っていることに加え、場合によっては自分が同じ立場になりかねないと考えていたため共感の意を込めて心の中で首を縦に振りつつ自分のクラスの応援に力を注いだ。クラスの全員が納得できていない不可解な理由で学級委員が不在になっている中なんとか一致団結して応援をしていく中、彼女のクラスから一人の男子が立ち上がり離席する。彼の背中を見たかりんはどこか既視感を覚える。

「(あの背中、どこかで見たことあるような……)」

 A組の……というよりもその一部の応援の熱さはそれなりに離れたE組の席にまで伝播していく。そこでは、怪我がまだ治らず競技に出られない小菅は応援に全力のアイリスに対して虫酸が走ると言わんばかりの表情をひとり浮かべていた。

 小菅だけでなく、この光景を歓迎しない者は他にも存在していた。灯台下暗し、その姿はA組のスタンド席にあった。彼はクラスで考えた応援の歌と振り付けをやってはいたものの、内心別のことを考えておりお世辞にも心がこもっているとは言えない嫌々やっているような動きになっていた。

「(なーにが体育祭だよ……。こんなことする時間あるなら受験勉強させろっつーの。練習させられた時間でどれだけ英単語や公式が覚えられたと思ってんだよ)」

 一人イライラを募らせる彼は京田征紀(きょうだまさき)。主要な文系理系両方の教科全てで学年2位の成績を収めている学年屈指の秀才である。彼は「学生は勉強が本分、それ以外は不要」というポリシーのもと国内最高クラスの学府を目指し受験勉強に日々全力を出している。それだけに、体育祭というものは彼にとっては邪魔者でしかないのだ。彼は内申のため一応体育祭には出席してはいるが心の中では今すぐにでも雨が降ってくれと思いながら雨乞いのつもりで応援の振り付け通りに体を動かしていた。

行事に熱くなるのは他人に迷惑が掛からない程度のほどほどに。

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