第拾伍幕の弐
事態に明るい兆し……?
「すみません、事件のことで私のわかる限りのことを話したいんですが……」
自分が出る競技を終えたばかりの代田舞衣子がその足で貴賓室前に来ていた。ある人物と懇意にしていた彼女の口から語られた事実に、真摯に耳を傾ける。こういったことは初めてではなく、高砂の代理人として会場の各地に散らばって持ち場にいる黒服が証言を受け付けていたのだ。その数は全体で20を超えるもので学年や性別、クラスに所属部活もバラバラで口裏を合わせているとも考えにくかった。
「ありがとうございます。引き続き、体育祭頑張ってください」
自分のクラスの席に戻ろうと舞衣子は駆け足で向かおうとするが、彼女は通路には普通ないものを発見する。
「あら? なんでこんなところにこんなものが……?」
舞衣子はそれを持ち上げた途端、中へと吸い込まれていった。
「失礼します」
黒服がドアをくぐり、高砂に耳打ちする。
「なるほど……」
黒服からの言葉に、開会式でのさくらの悲痛な訴えで校内の全員が公に知ることとなった事件の解決に光明を見出す。
「今すぐ校長と関係者の教員を呼びなさい。彼らの言葉が事実なら、この学校は大変なことをしてしまっている」
「はい」
黒服は高砂に一礼してから貴賓室を出て、関係している教師を探しに行こうとする。
ぽつぽつと空席がスタンドに目立つのがグラウンドからははっきりと見えていた。事実、あおいは証言に行くと言っていた同じクラスの男子生徒が戻ってこないことを不審に思っていた。
一方アイリスはクラスのスタンドの最前列に立ち、大声でクラスに向けて声援を送り、全力で応援していた。
「お、土屋、気合い入ってるな! 先生はそういうの好きだぞ!」
声をかけたのは2年A組担任で国語教師の青山肇だった。彼はサッカー部の顧問でもあり、教師としても顧問としても熱い男として校内では有名な存在である。
「はい! シルビ……クラスのためですから! みんな、絶対優勝しようね!!」
「おー!!」
勝利のためという名目を掲げられたため勝鬨は上がったが、校内においてはおしとやかな高嶺の花というイメージが定着している普段の彼女からは想像もつかないアグレッシブな姿に、誠治をはじめとするクラスメイトたちは驚きを隠せていなかった。だが、青山はクラスのためにアイリスが本気になっていると勘違いし、感激していた。
彼女の普段は見せない一面にA組のボルテージは上がり、男子を中心に彼女が激しく動くたびに視線が上下する者が続出していた。また、怪我の影響で立って応援することができない誠治はメガホンを使って座った状態で応援をしていた。
「あはは……アイリスったら……」
彼女の胸の内を知ったらクラスはどんな反応をするかと、あおいは他人事ながら心配していた。さくらのカバンの中で息を潜めながらも少しだけ開いたチャックから見えた光景と応援の声を浴びたイナリも、ここまで感情をむき出しにしているアイリスは初めて見たため今応援をしている彼女は本当にいつも一緒にいて振袖小町として活躍している彼女と同一人物なのかと疑ってしまうほどだった。
打算的とはいえ美少女が応援団長、なんて羨ましいクラスなんだ。これでチア服なら完璧かも。




