第拾伍幕の壱
体育祭が始まった陰でひとつの事実が発覚。
彩羽高校の体育祭は、荒れる幕開けになるかと思いきや思わぬ人物が壇に立ち、生徒たちの心をつかんでスタートした。
高砂ホールディングス総帥、高砂総一郎による式辞は荒波をぴたりと沈めた。事実、スタンド席に戻っていく生徒たちは誰もが高砂のことを絶賛していた。彼の人柄ゆえのものなのか、話が魅力的だったのか、蓮は不思議に感じながらその流れに沿って席に戻った。
「蓮、さっきの高砂さんの話、どう思った?」
さくらが質問してきた。彼女も蓮と同じく、ただ話に感銘を受けていただけではなかった。
「うーん、なんて言うんだろう、うまく説明ができないんだけどただいい話でしたで終わるものじゃなかった気がする」
確たるものがなくふわっとはしていたが違和感を覚えていたさくらに、蓮も同じような感想を口に出す。
「俺たちにとっては雲の上の人だし、年もずっと上だから俺たちよりもたくさんの経験をしている。だからいろいろあったんだろうな。まあ、俺たちのクラスがいい結果を残せるよう頑張ろう」
まだ16年しか生きていない彼らにとっては高砂が今まで目の当たりにし、味わってきた経験など想像もつかなくて当然であった。
貴賓席。その入り口前では黒服が警備していた。本来であれば室内には高砂だけしかいないはずが、彼はある人物と会話をしていた。
「あなたの事情については把握していますよ。ただし……生徒たちに手は出さないことを、約束してくれますよね?」
会話の相手は怪訝な目をしながら返答する。
「ええ、そのつもりです。おっしゃる通り生徒たちには罪はありませんから。ですが……」
言葉の続きを耳にした高砂は答えを出さずに耳を傾け、ゆっくりと言葉を選びながら返答する。
「あなたもつらく悲しい思いをした。しかし、それを乗り越えたからこそ今ここにいるわけです。それを忘れないようにしてください」
高砂の言葉には耳を貸さず、彼は貴賓席から姿を消す。
「そこにいるのはわかっていますよ、ひかりさん」
消えた彼と入れ替わるように、別の人物が貴賓席の影から姿を現す。
「お会いするのはいつぶりでしょう、お元気でしたか?」
「……その名前で呼ばないでください」
高砂を敬いながらも、「ひかり」と呼ばれ不服な感情が見え隠れしながら対応していた。
「あなたやあの二人も、本来であればあのように青春を謳歌していたはずです。あのときは怖かったことでしょう」
席から見える生徒たちによる競技の光景を相手に見せながら憐れむ高砂だったが、それが彼女の逆鱗に触れた。
「じゃあなんであいつは今も何事もなかったかのようにのうのうと生きてるんですか!? 世の中には因果応報ってものがあるってことを教えてくれたのは先生、あなたですよね!?」
さすがに聞き流せず彼女は声を荒げ、それが外にも聞こえドアがノックされる。慌てて彼女は大きなシートの陰に隠れる。
「総帥、何かございましたか?」
「いや、なんでもない。引き続き持ち場を頼む」
「かしこまりました」
ドアは開かれず、黒服はそのまま持ち場に戻る。来ないことが分かり、シートから再び彼女は姿を現す。
「……さっきは冷静さを失いすみません。ですが……」
すっきりとしない表情の彼女に、高砂は青臭いという意味での若さを感じる。
「あなたの気持ちはわかります。ですが、そろそろ終わりにしましょう。あなたにも狙いがあってここに来ているのでは?」
目論見を見抜かれていた彼女は何も言わずに姿を消す。その直後、一人の女子生徒が息を切らしながら黒服に声をかける。
オリエント・ゾディアック、やっぱりあいつら本名じゃないんですね。




