第拾肆幕の陸
進め小町部探偵団。
それから数日の月日が流れ、確証はないものの今回の事件の容疑者が固まりつつあった。しかし動かぬ証拠もないため解決にはまだ届かず、闇討ちと盗難の両方の被害者はまだ続発していた。
本日も軟式野球部の3年生、つまり誠治の先輩が襲われ負傷していた。他の部活ではあるが、今回の被害者の中には1年生もいたため入学早々こんな災難に遭ってしまったことを小町部はあまりにも気の毒だと感じていた。
しかし、事件が進んで収穫がないわけではなかった。リレーの練習後にアイリスと蓮を除く小町部が部室に集まり、あおいがこの事件について気付いたことがあると話を始める。彼女はリレーの選手一覧を取り出し広げると、襲われた生徒と盗難被害者の名前を次々と指していく。
「ここまで襲われているのはみんな部活対抗リレーの選手ばかり。しかも、ご丁寧に各部活から1人ずつ襲われてる」
「……ほんとだ!」
この一件で犯人は襲撃で男子には物理的に、盗難で女子には精神的に危害を加えて自分たちの部活が勝てるように画策しているとあおいは推測していた。
「でもうちの部活はまだ誰も襲われていないし、盗まれてもないよね」
「蓮とアイリスちゃんも大丈夫かな……」
さくらに不安がよぎる。特に、容疑者リストに載ってしまっていた智彦と、本来の居場所であり被害者が出てしまったばかりの軟式野球部に呼ばれている誠治がまだ部室に来ていないことが気がかりであった。
智彦は幼なじみで同じクラスの学級委員長である篠崎瑞江が所属している吹奏楽部がリレーの練習している近くに不審な影を見たと相談されていた。ちょうど吹奏楽部はリレーの練習が終わり、これから着替えるために更衣室に足を向けていた。
「お前の体操着や制服なんて盗もうだなんて、よっぽど悪趣味なんだな」
「なにそれ。私だって華のJKなんだから。あんたこそその不愛想なの直さないと犯人だって疑われるよ?」
口ではお互いに憎まれ口を叩いてはいるものの、互いに互いを心配しているのはまわりからはお見通しで、クラスでもこっそりバカップル扱いされているほどであった。
女子更衣室前に着く二人。さすがに智彦は中には入れないためここで彼も小町部の部室に向かおうとした、そのときだった。
「……智彦!」
瑞江が走って入り口に戻り、自分の制服が入っていたカバンの中を広げる。その中には、本来あるはずの制服のリボンが入っていなかった。しかも、ロッカーからカバンを出した途端に目の前で取っていかれ、外に逃げられたというのだ。
「……マジかよ……」
「うん……でも一瞬だけ犯人の姿が見えたの」
智彦が無人の女子更衣室に入り窓から外を見ると、小さな影が木から木へと飛び移っているのが見えた。
「見てはいけないものを見てしまいましたね」
智彦と瑞江は女子更衣室の入り口から聞こえた声の方に振り向くと、白い霧が立ち込め、その中に人影が……。
女子更衣室の窓から飛び降りた小さな影が校舎裏の日陰に着地すると、それは麻生に迎えられた。
「……思うんだけどさぁ、こんなの集めてどこが楽しいわけ? 自分で着るわけじゃないのに」
今しがた手にしたばかりの女子の制服のリボンを持ったチュイの疑問に、年上として麻生が答える。
「制服は男にとってロマンなんだよ。もう少ししたら君にもわかるよ」
そんなものなのかとチュイは一応うなずく。
「ギリギリで持ち主が入ってきたから焦ったよ。こんなの二度とごめんだね」
「それは悪いことをしたね」
既に練習を終えて制服に着替えていた片桐がゆっくりと歩きながら謝罪する。だが、チュイは本来小さい体がさらに小さくなっていた。
「……一瞬だったけど、取った相手に見られた」
「……なんだって?」
冷静沈着な片桐が珍しくうろたえ、肩をつかんで揺らしながら体操着の胸の部分に刺繍されている名前が何だったのかを尋ねる。
チュイは怯えながら彼女の体育着の胸の部分に書かれていた刺繍の名前を答えると、片桐は肩を離す。その直後に、チュイの手から戦利品を引き抜くように乱暴に受け取る。その直後、片桐のスマホに着信がある。
「準備ができたようだ。麻生君、行こうか。チュイ君、命拾いしたね。じゃあ彼と合流して、そこからは引き続きよろしく」
麻生は小さくうなずき、片桐についていく。片桐と麻生が指を鳴らすと、歩いていくにつれて人間とはかけ離れた姿に変わっていく。チュイは二人の背中を見て、またひとつ負の感情が生まれる予感を覚えながらついていった。
制服の良さがわかる、健全な男子の証拠だけど泥棒はいけません。




