第拾肆幕の参
校内に巣食っている見えざる敵は想定以上の大きさだった。
小町部の部室も、さくらとかりんがバトンの回し方を書いた紙を張るなどして体育祭モードに模様替えされていた。そこに、稲田とともに目を腫らしたジャージに制服のスカートといういでたちの女子生徒が依頼のためにやってきた。彼女の顔に見覚えがあるのは、アイリスだけであった。
「私も被害に遭って、これで5人目なんです」
そう真剣な表情で語るのは軽音楽部の副部長で、キーボーディストの2年G組の代田舞衣子。先日彼女は体育祭の練習が終わり制服に着替えようとしたところ、制服のワイシャツが何者かによって盗まれる被害に遭っていた。
彼女の前にも既に4人の女子生徒が被害に遭っており、どの生徒も担任をはじめ教師陣にはもう相談していたそうだが、彼女たちが事なかれ主義の上層部によって事件を揉み消してなかったことにしようとしている節を感じていたことから思い切って小町部に相談したのだという。稲田が犯人である噂は彼女も耳にしたが、彼が犯人であるとは到底思えず彼とともにやってきたのだ。
「俺も濡れ衣を着せられているし、被害者の代田さんが他人に思えないんだ。だから俺からも頼む」
稲田が頭を下げる。普段の貴公子と呼ばれる彼からは想像もつかない姿に、小町部は真剣さを感じ取っていた。
「わかりました。私たちにできる範囲で協力します」
さくらは依頼を受けることを決意、女性の敵を許してはおけなかったのだ。
「この件について、他に何かわかっていることってありますか?」
あおいの質問に、稲田は回答する。
「実は、事件の犯人だと疑われた生徒がみんな投げ飛ばされて怪我をしているんだ。実は僕も……」
稲田はそう言ってあざができた自分の背中の写真を見せる。写真を見ただけであおいは椅子から落ちて倒れそうになるが、そこを蓮が支える。あおいが稲田の背中を生で目の前で見ていたらどうなっていたか想像するだけで背筋がぞっとした。稲田は話を続け、投げてきた相手は顔を隠していたため誰にやられたのかはわからないという。ただ、投げてきた相手のほかにもう一人いたことは目撃できたと語った。
「ここまでできるのって、柔道部のエースの麦倉くんくらいだよね……」
麦倉とは2年D組の麦倉一之のことで、柔道の大会にも出場して結果を残しているほどの実力者である。
「でも、麦倉は曲がったことが大嫌いだし、すごくいい奴だからこんな悪いことに加担するような奴じゃないぜ」
助っ人として柔道部にも顔を出したことがある蓮と、彼と同じクラスの舞衣子は、彼がこの事件にかかわっているとは思えず、謎が謎を呼んでいた。
稲田によれば闇討ちの件は単独犯ではなかったそうで、「こっちには柔道部のエースがいるからてめえなんて簡単に殺せるんだよ」と宣言してから投げ技を食らったことから主犯格がいると稲田は推測していた。
「自分の力じゃなくて人にやらせるなんて、マジありえない……最低」
「虎の威を借りる狐ってやつだよね」
小町部の女子たちは自分たちもいつ被害に遭うかわからず不安と恐怖に苛まれ、犯人の卑劣な手口に怒りを隠せなかった。
「虎の威を借りる狐……それだ!」
あおいが何かを思いつき、部室を出ていく。その背中を見送ったかりんも、すっくと立ち上がる。
「酉年の平和を守る正義の味方いわく、思い立ったが吉日。とりあえずさ、彼の周りの人に聞いてみようよ」
「私もそう思う。こういうことははっきりさせないといけないと思うんだ」
女の敵の正体をつかみ、なんとしても成敗しなければならない。さくらの目はいつになく真剣だった。
「じゃああたしとさくらで聞いてくるよ」
さくらとかりんが探偵役を買って出て部室を出発しようとした瞬間、舞衣子もついて行くと言って立ち上がる。それを承諾した二人が彼女とともにそのまま出発する際、持っていたカバンが目に入ったアイリスは、一つの違和感を抱いた。
「(あれ……代田さんのカバンって確かMの形のキーホルダーがついてたような……)」
彼女たちが去った後の部室に、またも一人の女子生徒がやってくる。数刻経って彼女はうんざりした表情を浮かべる蓮を強制連行した。目の当たりにしていたアイリス、かんな、そして稲田はあまりの強引さに苦笑していた。
「ああいう子……クラスに必ず一人はいるよね……」
「メンディーだよね……」
「こっちには柔道部のエースがいるからてめえなんて簡単に殺せるんだよ」、これはマジで言われたセリフです。後日復讐してやりましたがw




