第拾参幕の玖
蓮は何をしていたのか、そして死闘の決着は……!?
「やっぱり顔がいいと男女関係なく似合うものね!」
「これも似合いそうじゃないですか?」
「先輩! こっちもいけますよ!」
演劇部の部室では、駒場をはじめとする部員たちの手によって蓮が体育祭における演劇部の伝統である「過去の演目で使用した衣装で走る」際の着せ替え人形にされていた。しかも、彼が着せられていたのはすべてヒロインの衣装、つまり女物であった。
「(まさかこんな経験をさせられることになるとは……。しかし、これも部のためだ……!)」
しかし、演劇部には小町部を潰そうとしている生徒の情報を知る部員がおり情報の入手に成功し、その交換条件として衣装選びを試着も含めてされていたのだ。
またも対戦相手は開始直後にしゃがみ相手の出方を待って勝とうとしていた。もちろんブーイングはこのラウンドでも発生したが意に介さないのも同じであった。
「勝てばいいってもんじゃねーんだぞ!」
「またかよ! 正々堂々やれー!」
マルベックはしゃがんだまま足払いを出してきたが、当たりそうで当たらないという絶妙な位置にいたおかげで脚は空を切っていた。
「今だ!」
足払いが来ると読んでいた智彦は横、下、斜めとレバーを動かし、パンチのボタンを押す。赤嶺の代名詞ともいえる登龍拳を決め、マルベックに決まる。
「登龍拳だ!」
「これは会心の一撃ー! 木谷さん、流れは天宮選手にいきますかね?」
「見えそうで見えないのがいいのと同じように、当たるかもと思わせて当たりませんでしたと言うブラフが決まったね」
「……そういうものなの?」
あおいには理解できていなかったが、どさくさに紛れてあおいの隣に来ていた誠治は共感の深さを表現するかの如くゆっくりと首を縦に振っていた。
しゃがむ隙を狙う相手だったが智彦はそれを許さず、守りを捨てて多少のダメージは覚悟のうえでインファイトスタイルを決め込み次々と技を繰り出していく。
インファイトが功を奏し智彦が優勢のままラウンドは進み、体力が半分を切った証拠としてBGMのテンポが速くなる。多くの攻撃を食らい体力が残りわずかではあったがこのラウンドは智彦が勝利をつかんだ。
運命のラウンド3が始まる。もはやブーイングと野次、そして智彦への声援はBGMか何かと割り切っているかのような顔で対戦相手は性懲りもなく待ちの姿勢に入る。
体勢を崩すべく再び当たり判定があるか微妙な位置で構えるが今度は足払いが当たってしまう。そのまま試合は相手のペースに持ち込まれていき、体力がどんどん削られていく。それに合わせてBGMもテンポが上がり緊張感をあおっていた。
「ここから大逆転勝利があることを信じたいですがねー、木谷さん、どう思います? ……って、あれ? りんりんどこ行ったの?」
ゲームの仕様上は問題ないがゲームセンターとしてはNGとされる戦法で勝とうとしている相手にブーイングが目立つ中、それでも真っ向勝負で名勝負を繰り広げている当人である智彦への声援も出始めていた。その狼煙を上げたのは、さくらだった。
「天宮くん、頑張れー!」
「こんな卑怯な奴ぶっ飛ばせー!」
「絶対勝てるよー!」
いきなり本名を大声で呼ばれ一瞬たじろぐ智彦だったが、今は勝負の最中。引き続き冷静に待ち状態を崩すべく攻撃を開始する。
なおも智彦への声援は止まず、彼のことを知らないギャラリーたちも次々に彼に声援を送り始めた。
「ロン毛の兄ちゃん、いけー!」
「諦めんなよー!」
次第に声援がブーイングや野次を上回っていき、無意識に智彦にとっての力となっていく。視点がモニターのみに一点集中している彼が次にとった方法は、目には目を歯には歯をと言わんばかりにしゃがみ始めたのだ。
「待って、しゃがみってダメなんじゃないの?」
「ううん、違うキャラクターだから同じ戦法は取れない……はず」
あおいの言った通り、しゃがみを維持するのではなくまずしゃがんだ状態でキック、立ち上がってキック、もう一度キックと見せかけて横、斜め、下とレバーを動かし、パンチのボタンを押す。登龍拳に並ぶ赤嶺の代名詞である技「覇王拳」が炸裂し、またもしゃがみが崩れる。もうこの時にはブーイングなど消え失せて360度すべてが彼への声援となっていた。
再びしゃがもうとする相手だったがもうここからは智彦のターン、攻撃が矢継ぎ早に繰り出され反撃する隙すら与えずに勝利をもぎ取る。彼の勝利が確定した瞬間、ギャラリー全員から大歓声が上がる。そこにかりんがゲームセンターの店員を連れ相手側の筐体の横を通って歓声の共鳴に驚きながら戻ってくる。
強敵からの勝利はどんな媒体においても爽快さが大事。




