第拾参幕の陸
敵はすぐ近くにいる、それを知らない彼女たちが行ったのは……?
文化部の生徒たち、体育祭実行委員会、ギャラリーが去った体育館に、一人の生徒が戻ってくる。それは、選考会で稲田の名が呼ばれた際に人知れず憎しみの表情をあらわにしていた男子生徒だった。
「おい、いるんだろ?」
体育館の2階のカーテンからチュイが姿を現し、床に飛び降りてくる。体操選手のような華麗な着地に、男子生徒は息を呑む。
「今のところは君の考えているシナリオ通りだね」
「ありがとう。あの部活もどきがなくなれば君たちにとっても好都合なんだろ?」
「まーね」
「じゃ、例のやつやってくれよ」
柔和な笑みを崩さない男子生徒に、チュイは不敵に笑いながら新型のネガボットの素体を投げつけた。その途端、体育館の床にできた男子生徒の影は巨大な人ならざる形になっていった。不気味な二人が体育祭と振袖小町に恐ろしい手を伸ばそうとしていた。
蓮とアイリスを除く小町部は、助っ人に指名した誠治と智彦を部室に呼んで顔合わせをしていた。顔見知りである誠治は指名されて光栄と言わんばかりの表情だったが、男子にしては長い襟足が目立つ智彦はそれとは逆に自分が助っ人に選ばれた理由が全くわからないと言わんばかりの表情だった。
「改めまして、小町部部長の火宮さくらです! 渋谷くん、天宮くん、部活対抗リレーよろしくお願いします!」
「よろしく!」
「……よろしく」
以前と変わらぬフランクな姿勢の誠治と、それとは逆に握手は交わしてくれたがぶっきらぼうで心を開こうとしていない智彦。正反対な助っ人たちを見て、さくらとあおいは不安を抱えていた。
「木谷、ちょっといいか?」
智彦はかりんに声をかけ、部室の隅で小町部の第一印象を話す。男っ気のないかりんに声をかける彼の姿に、かんなは興味津々だった。
「お前こんなわけわかんない部活にいていいのか? 噂じゃお前らの部活潰そうとしてる奴らが俺らの学年にいるらしいぞ?」
さらっと出された青天の霹靂にかりんの瞳から輝きが消える。ふらふらと部室の扉に手をかけようとしている様子に、それに似た明らかに普通じゃない姿をつい最近見たばかりのさくらは、ここでお開きにして交流を深める名目で帰りにゲーセンに行くことを提案、全員でゲーセンへと向かった。
同じ頃、蓮とアイリスも智彦が語っていた「小町部を潰そうとしている人間が校内にいる」という噂を助っ人としてリレーに参加する部活の部員から耳にし、オリエント・ゾディアックとは別のベクトルの敵が存在していた事実を突きつけられ戦慄していた。
校門を出ようとしたとき、さくらはどこかから視線を感じたが気のせいだろうと思いそのまま学校を後にした。
思わぬ形で再びあおいとお近づきになれるチャンスが到来したと、誠治の心中は熱く燃え滾っていた。道中の店のガラスで歩きながら髪を整え、早速アクションを起こそうとするが……。
「水崎さ……」
「ねえ、あおい……」
不安そうな声でかりんが声をかけ、あおいは誠治が声をかけていることなど気づかずに話を聞く。
「さっき天宮くんが言ってたんだけど……」
物々しい雰囲気を察したかんなはさくらをあおいとかりん、そして智彦から遠ざける。かりんから一部始終を聞いたあおいは、智彦に本当なのか尋ね、肯定する。話が耳に入った誠治も噂は聞いており、校内が小町部に対し賛否両論なのが浮き彫りになっていると感じていた。
「……これ、さくらには内緒で」
かりんは神妙な表情で小さくうなずく。さくらが何の話なのかあおいに尋ねるが、のらりくらりとかわされてしまい、なおも諦めないさくらに手間取っているあおいに、かりんと事態の重篤さを肌で感じ取ったかんなが助け舟を出す。
「みんな聞いてー。ゲーセンで何やるー?」
「あたしはみんなでプリ撮りたいかなー」
流れを変える一言とあおいの焦り方、そして何より学校でかりんが一瞬見せた思いつめた表情に、男子は事態を察して返答していく。
「俺はダンスジェネレーション」
「……ストレートファイター」
ダンスジェネレーションとは、画面の指示に従ってパッドに乗った足を矢印の方向に向けて踊るリズムゲームのことで、ストレートファイターとは、世界各地の格闘家が最強を決めるために戦う格闘ゲームのことである。
目的がはっきりした彼らの足は、気が付くと目的地のゲームセンター「Hyacinth」の前に着いていた。
クラスが違うだけで交友ができないのはもったいないこと、卒業アルバムではじめましては悲しいよね。




