第拾参幕の肆
実力をつけるのに近道はない。
廃研究所では、それぞれが自由時間を思い思いに過ごしていた。
プチッツァは、自室で先日の戦いにおいてタピオカネガボットが受けた振袖小町の大詰め「百華繚乱」の力を吸収した羽根を自らの体に取り込んでいた。だが、羽根を吸収した途端に体が激しく熱を帯び、全身が内側から焼けるような熱さに襲われる。特に翼が生える場所である背中は刃物で貫かれたような痛みが走り、立っていることすらも困難になるほど力が入らなくなる。プチッツァはやむなく体内から羽根を出す。すると羽根は蒸発し、光となって消える。
「……一つずつ手にしていくしかないか……」
やることが見つからないロンは廃研究所内を歩いて回っていたが、いつもであれば聞こえてくる数字を数えている声が聞こえないことに疑問を抱く。そこにスキロスが通りかかった。
「スキロス、ちょっといいか?」
「は、はい、なんでしょう」
ただ呼びかけただけなのに必要以上に狼狽えるスキロスに、ロンは違和感を抱く。
「ハンジールを見なかったか? それと……」
そう言いかけた途端、スキロスの視線が泳ぐ。
「チュイはどこに行ったか分かるか?」
続いた言葉に安堵したスキロスは知らないと言葉少なに答えて去っていく。彼の後ろ姿を見ながら、ロンはその背中に後ろめたさを感じていた。
「(きっとあいつは何か知っているはずだ、キマとゴーダがここ数日姿を見せないのも関係しているんじゃ……)」
ロンは姿を消した仲間を探すべく廃研究所内の探索を開始する。まず手始めにティーガーとセルペンテに聞いてみたが、有力な情報は得られなかった。
尋ね人が囚われているカルネロの研究室では、野生のタヌキが彼らと同様に机の上に囚われ実験材料にされていた。ここまでに多くの生体実験をされていたタヌキは既に弱り切っており、逃げる力すらもないほどに虫の息であった。
「さて、必要なデータは揃ったことだ。そろそろ楽にしてやるか」
カルネロはライドアーマーのアームを展開し、タヌキをつかんで電撃を放つ。タヌキはそのまま息絶え、数秒前まで命だったそれは黒焦げの全く別の物体と化してしまった。
「残りはあと二つか……。片方はすぐ手に入るが、もう片方をどうすべきか……」
思案するカルネロの視線には、囚われたゴーダ、キマ、そしてハンジールがそれぞれ入っている巨大培養槽の隣にある空のそれが主を待っていた。
野生のタヌキや仲間すら研究材料、この男、冷徹という言葉では片づけられない。




