第壱幕の拾陸
さあ、いよいよ話が大きく動きます。
「血祭り……!?」
非常識極まりない取引を持ち掛けられ、凍りつくさくら。彼女の言葉に、おぼろげながらも過去に彼女が目の当たりにした光景が脳裏に浮かぶ。突如降りかかった災難に何もできず、ただ泣いているだけの自分の姿だった。
思い出したくない記憶が頭をかすめ目を閉じたさくらだったが、それを振り切って目を開け、黙ってプチッツァの方へと歩いていく。地上へ降りてきたプチッツァに振袖のカケラをまず渡そうとして右手を差し出し……。
「そうそう、最初っからそうすればいいのに。乱暴なのは嫌いなんだよね……」
差し出されそうになった右手は引っ込められ、左手でプチッツァの顔をひっぱたき、目に涙を浮かべて叫ぶ。彼女の顔のひんやりとした感覚が手にこびりついたが、そんなことは今は気にしている場合ではなかった。
「友達を見捨てて自分だけ逃げるなんて……そんなこと、私にはできない! 決めた、私が、絶対にこの町と、親友と、振袖のカケラと、そしてイナリを守る!!」
とてつもない力の怪物が目の前にいることの脅威、ここから逃げ出してしまいたい恐怖など消え失せるほどの啖呵を切った。それは自分の生まれ育った町と、親友であるあおいと蓮、そして今日初めて出会ったイナリと、被害者であるトラックの運転手を自分が守り抜いてみせるという決意と覚悟の表れでもあった。
「……つまんないの。友情、だなんてくっだらない感情なんかで動いちゃって! あんたから先に血祭りにしてあげる!! あの世での感動の再会を楽しみにしてなさい!!」
怒り心頭のプチッツァとネガボットがさくらに襲いかかってこようとした瞬間、さくらが持っていた振袖のカケラが赤く輝きだす。その神々しくも力強い輝きに、あおいと蓮を遮っていたバリアは破壊され、その衝撃で二人は倒れこみ気絶する。
「!? なにこの光……く、苦しい! やめろぉ!!」
「ネガァァァ!!」
プチッツァやネガボットはその眩しさから腕で視界を遮り、苦しみだす。そこに、割れたバリアの破片が飛んでいき、ネガボットに突き刺さる。
それと同時に、中継映像が途切れ、モニターが砂嵐になる。映像を見ていた面々は何が起きたのかわからず呆然とする。
眩い光が治まると、そこにさくらの姿はなかった。
「……?」
気が付くと、さくらはさっきまでいたはずの荒れ果てた町ではなく一面に花々が咲き乱れ、心地よい風が吹いている青空が広がる場所にいた。そこには、夢で見たのと同じ白い着物を着た少女が一人で佇んでいた。だが、その場所にはどこか寂しげな雰囲気が漂っているとさくらは感じていた。
どうやら彼女も過去にいろいろあったようです。さて、どう物語に関わってくるか……。




