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乙女ゲームのヒロインで最強サバイバル 【書籍化&コミカライズ&アニメ化企画進行中】  作者: 春の日びより
第一部放浪編【殺戮の灰かぶり姫】第三章・灰かぶりの暗殺者
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41 魔法使いの無愛想弟子

第三章『灰かぶりの暗殺者』編の始まりです。




(……(ゆう)(うつ)だわ)


 広い窓から光が注ぎ、装飾がされた高い天井の通路を侍女に案内されながら、少女は一人心中で溜息を吐く。

 王女エレーナの静養が終わって数ヶ月が経ち、今度はダンドール辺境伯令嬢クララが王都にある王城へと登城していた。

 エレーナの静養は多少の不手際があり、あわやダンドールの責任問題となりかけたが、王家も婚姻前の王女が誘拐されかけた事実を公にしたくなかったのだろう。未然に防いだことと王家側との調整により不問とされた。

 それでも、この件と関係ないとも言えないが、クララとエレーナの間には目に見えない亀裂が生まれていた。


 以前は本当の姉妹のように仲の良かった二人だったが、クララは前世の記憶と共に、この世界が乙女ゲーム『銀の翼に恋をする』の基となった世界であることを知った。

 そして自分が『悪役令嬢』であり、同じ悪役令嬢であるエレーナを警戒したことで、聡いエレーナのほうから距離を置かれる結果となった。


 それでも一番の原因は、ヒロインと同じ桃色の髪色をしたメイドのことだろう。

 本人ではあり得ない。でもあまりにも似ていたせいでクララが拒否反応を起こし、それが影響しているのか分からないが、彼女はダンドールからさらに辺境にあるセイレス男爵領へ送られ、その地を騒がしていた“怪人”の手にかかり行方不明になってしまったそうだ。

 可哀想だとは思ったが、クララは彼女が消えてくれて内心安堵していた。

 それ故に気が緩んでいたのだろう。後日エレーナと会う機会があり、お気に入りのメイドが亡くなったお悔やみを話の流れで口にしてしまうと、突然エレーナが烈火の如く怒りだした。


『アリアが、わたくしとの約束を破ることなんてあり得ませんわっ!』


 それ以来エレーナからは無視されるようになり、クララは母からキツく叱責され、関係修復をするようにと言いつけられた。

 だが、今回クララが王都へ赴いたのはそのためではない。

 王太子の婚約者候補が三名にまで絞られ、その中に正式に含まれていたクララは、婚約者候補同士の顔合わせをするために王都までやってきたのだ。

 その顔合わせが、なぜ“憂鬱”なのか?


「辺境伯ご息女、クララ・ダンドール様、ご入室なされます」


 執事の声で扉が開かれ、王城にある迎賓室の一つに足を踏み入れると、どうやらここに着いたのはクララが最後のようで、他の二人の婚約者候補はすでに入室し各々でくつろいでいた。


 一番近くのテーブルでお茶を飲んでいた淡い銀髪の少女が、おっとりとした笑みでクララに会釈する。

 彼女はフーデール公爵の第二夫人の娘でクララも知っていた。

 歳はクララや王太子より二つ上だが、第一夫人の子で年回りのよい娘がいなかった公爵家が最後に彼女をねじ込んできたらしい。

 婚約者候補の三名は、王太子が魔術学園を卒業するときまで、三名態勢のまま維持される。だが正妃となる筆頭婚約者になれなくても、残りの二人も第二王妃、第三王妃の地位が約束されていた。

 そのためにも婚約者候補同士で懇意にする必要があるのだが、現国王の場合、候補者ではない子爵令嬢を正妃にしたせいで妃同士の連携が取れず、しかも第二王妃以外は、王妃ではなく側妃となる可能性があったことで、二人とも妃を辞退してしまった経緯があった。

 現在の継承権を持つ子が少ないのもそれが原因とも言える。

 今回も王太子がヒロインを見初めれば同じ結果になり得る。その時はクララは断罪されているだろうからあまり関係はないが、そこまで考えていたら何もできない。


 フーデール公爵家のご令嬢は問題ない。ゲームにも出てこなかった人物で、そもそも第二夫人の娘である彼女は正妃になろうとは考えていないはずだ。

 だが、もう一人……代々筆頭宮廷魔術師を輩出しているレスター伯爵家のご令嬢で、クララの一つ下でヒロインと同学年となる少女は、ゲームでは六つ全ての魔術属性と膨大な魔力を持ち、最後には必ずヒロインの前に立ち塞がった。


(あれが……最悪、最狂の悪役令嬢、カルラ・レスター……ッ)


 陽の光を吸い込むような、緩やかにうねる黒い髪。

 病的なまでに白い肌に目元が窪んだような隈に覆われた少女――乙女ゲームで魔王に並ぶ“ラスボス”が、窪みの奥に異様に輝く紫の瞳でジッとクララを見つめ返していた。


   ***


『シギャアアアアアアアアアアアッ!!』


 深い森の奥。小雨の降る天気の中、雨の当たらない岩場に巣を作っていたジャイアントスパイダーは、現れた“敵”の存在に威嚇音を立てる。

 ジャイアントスパイダーは、胴体の大きさだけでも1メートル。脚の長さを含めれば全長5メートル近くにもなる巨大蜘蛛だ。

 生態は普通の蜘蛛とあまり変わらないが、その巨体を支えるために非常に発達した筋力と外皮を持っており、強力な粘糸と麻痺毒で、時にはゴブリンやコボルトさえも捕食した。


 ガシャンッ!

 生活魔法の【硬化(ハード)】で薄く作られた素焼きの瓶が投げられ、岩場に当たって中の水を蜘蛛の巣にぶちまける。

『シャアアアアアアッ!!』

 それに怒ったジャイアントスパイダーが粘糸を飛ばすが、その敵は糸を躱せる微妙な距離で駆け回り、用意していた複数の瓶を投げてさらに蜘蛛の巣を水で濡らした。


 ジャイアントスパイダーの脚が、巣に使っていた糸から滑る。

 その“敵”は、その“知識”により知っていた。本来蜘蛛や昆虫のような生物はここまでの大きさにはならない。魔物であり魔力で糸や身体を強化しているからこそ、地上でその巨体を支えられるのだ。

 だが、その巨体を細い糸で支えるのは、どう見ても不自然だった。

 それでもジャイアントスパイダーは空中に巣を張りその中を移動する。その“敵”は古い巣を調べてみて気がついた。

 通常の蜘蛛の巣は獲物を捕らえる粘糸と、蜘蛛が歩く粘性のない糸の部分がある。

 だが、ジャイアントスパイダーの場合はその巨体を支えるために、巣の全てが粘糸で作られていたのだ。

 しかもジャイアントスパイダーを数日観察した結果、雨の日に巣の外で狩りをしないと分かった。水に濡れれば粘糸の粘着力は激減する。そして粘着力が減った糸では、ジャイアントスパイダーはその重量を支えられない。


『シギャアアアッ!!!』

 ビシャッ!と、ついに耐えられなくなったジャイアントスパイダーが、小雨に濡れた地面に落ちた。

 その瞬間を逃さず、“敵”から放たれた数本の奇妙な投擲ナイフが、ジャイアントスパイダーの身体に突き刺さる。

 4センチほどのリングの先に8センチほどの菱形の刃が付いた、投擲にも使える暗器の一種だ。

 攻撃されたと分かって、ジャイアントスパイダーが威嚇するように脚を振り回す。だが、小さな蜘蛛と違ってジャイアントスパイダーほどの重量があれば、落下ダメージも確実にあり、実際に脚の数本が奇妙な方向に折れていた。


 それを見て“敵”が接近戦を仕掛けてきた。

 それに気づいたジャイアントスパイダーが粘糸を放つが、地面に半分潰れた形の体勢から放たれた粘糸はあらぬ方角へ飛び、それでも一本だけ飛んできた粘糸を“敵”は濡れた外套で受け止め、素早くそれを脱ぎ捨てる。

 灰にまみれた桃色の髪が汗と雨で煌めき、まるで銀の翼のように輝いた。

 脱ぎ捨てると同時に素早く飛び込んだ“敵”は、ジャイアントスパイダーの頭部に深々と黒いナイフを突き立てる。


『シャアアアアアアアアアアアアアアッ!!!』

 頭部を貫かれたジャイアントスパイダーがそれでも“敵”に毒のある牙を向けた。

 “敵”は慌てずナイフを抉るように抜き取りながら距離を取り、さらに数本の投擲ナイフを頭部に突き立てると、ついにジャイアントスパイダーは動きを止め――


「――【突撃(スラスト)】――」


 その瞬間を逃さず“敵”の放った【戦技】が蜘蛛の首を斬り飛ばし、その地域を縄張りとしていたジャイアントスパイダーはその命を散らした。


   *


「ふぅ……」

 戦いが終わり、私は小雨の降る中、火照った身体を冷ますように息を吐く。

 計算通りジャイアントスパイダーを倒すことができた。やはり初見魔物の戦闘は緊張するし、準備にかなり時間もかかったが、ほぼノーダメージでランク3の魔物を倒せたのなら上出来だ。

「【流水(ウォータ)】」

 外套に付いた粘糸を水で洗いながら引き剥がし、粘糸は木の枝でまとめて絡め取り、用意しておいた専用の袋に入れる。

 この粘糸は普通は使えないが、錬金術で加工すれば本を作るときの上質な接着剤になる。だけど“私”に必要なのは、ジャイアントスパイダーの胴体とその頭部だ。

 ジャイアントスパイダーの牙には麻痺毒があり、わずかでも受ければ数分で行動不能となる危険な物だ。だけどその毒は、わずかな加工でそのまま武器に塗るだけでも使える毒になる。

 ジャイアントスパイダーの頭部を別の袋に詰め、蜘蛛の胴体を荒縄で縛ると、濡れた外套で包んで担ぎ上げた。


 蜘蛛の胴体は20kg近くあるが、レベル2になった身体強化を使えば運べない重さじゃない。

 通い慣れた森の起伏を一歩ずつ進み、小一時間も歩くと森の中にある、小さな畑のある土壁の家が見えてきた。

 ジャイアントスパイダーの胴体を玄関の外に置き、外套を【流水(ウォータ)】で洗ってから外に干し、二つの袋を持って扉を開けると微かな薬品臭と共に若い女性の声が響いた。


無愛想弟子(アリア)、泥だらけの足で家に入るんじゃないよっ」


「ただいま。師匠(セレジユラ)




【アリア(アーリシア)】【種族:人族♀】【ランク2】

【魔力値:155/160】25Up【体力値:92/105】25Up

【筋力:5(6)】【耐久:6(7.2)】【敏捷:7(8.4)】【器用:7】

【短剣術Lv.1】【体術Lv.2】【投擲Lv.2】1Up【操糸Lv.1】

【光魔法Lv.2】1Up New【闇魔法Lv.2】【無属性魔法Lv.2】

【生活魔法×6】【魔力制御Lv.2】【威圧Lv.2】

【隠密Lv.2】1Up【暗視Lv.2】1Up【探知Lv.2】1Up【毒耐性Lv.1】

【簡易鑑定】

【総合戦闘力:128(身体強化中:144)】30Up




師匠は、例のあの人です。

ほぼ初期からずっと存在は示されていたのに、ようやく出せました。


そして最後の悪役令嬢が出てきました。たぶん、物語中で一番怖い人です。


次回は少し戻って河から上がったところからの説明になります。

たぶん、次は水曜予定です。週四話ペースは結構キツいので少し減らすかもしれません。

それでは新しい章もよろしくお願いいたします。


捕捉

乙女ゲーム『銀の翼に恋をする』の意味は、ヒロインが天使のように見えると言う比喩です。

ですが、本編の場合は灰まみれの髪が、そう見えたみたいですね。


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― 新着の感想 ―
暗視がちゃっかり人類の限界を超えてLv.2になってる…
いつの間にか光魔術が光魔法になってる。
悪役とは言え令嬢なのに、最悪とか最凶とか、何をやらかしてそんな事を言われてるんだ………。
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