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乙女ゲームのヒロインで最強サバイバル 【書籍化&コミカライズ&アニメ化企画進行中】  作者: 春の日びより
後日譚:【竜の巫女】

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304/304

304 もう迷わない

あけましておめでとうございます!

新年、初投稿です。

藤原丹後さまにレヴューをいただきました!ありがとうございます!



「黒い……煙?」

「燃えている……神殿がっ!?」

 ファンドーラ法国、聖都ファーンより離れた南部の港町は今、混乱の中にあった。

 その住民の大部分は聖教会の信徒である港町から遙か遠くに望む、聖山キュリオスの麓から煙がたなびいているのが見えたのだ。

 港町から聖山キュリオスへ向けて徐々に標高が高くなる法国は、天気が良ければ麓まで一望できる、聖教会神殿への巡礼だけでなく信徒の観光地としても有名な場所であったが、夕刻となり、茜色に染まる聖山の麓が、遠く離れた港町からも分かるほどに黒煙に包まれていた。


「何事だっ!」

「ナイトハルト様っ! 神殿が燃えておりますっ!」

 港に停泊していた、エルド大陸聖教会所有の大型船舶内から甲板に出たナイトハルトは、神殿騎士の指し示す方角に向けた目を大きく見開いた。

「何が起きているっ」

 ここからでも黒煙が見えるということは、かなり大規模な火災になっている可能性がある。火の不始末や小火程度ではこんなことにはならない。

 もしそれが、外的要因によるものだとしたら――。

「アレは……」


 鍛えられたナイトハルトの目に、黒煙から飛び立つ小さな鳥のような影が映る。だが、この距離でその大きさに見えるものが小さいはずがない。

「……竜かっ!」

 巨大で空を飛び、炎に関係するものなど、竜しかない。あの岩山で討ちもらした火竜が報復に来たのだとナイトハルトは察する。

 そして、火竜が来たというのなら、〝アレ〟も来ているはずだと、ナイトハルトは柳眉を吊り上げ、黒煙を睨みつけた。

「おのれ、〝魔女〟めっ!」


 勇者クラインを殺した存在、〝黒の魔女〟……。

 勇者の死亡はすでに船にある遠話の魔導具によって、エルド大陸にある本国の聖教会〝聖域〟に伝えられている。

〝聖域〟からは、即座に勇者の聖骸を持ち帰るように要請を受けたが、聖教会の信徒ではあっても配下ではないナイトハルトは、その要請を無視して、〝黒の魔女〟の討伐を優先した。


 しかし〝聖域〟はナイトハルトが報告した〝黒の魔女〟を重く見はしなかった。

 彼がどれほど魔女が勇者の討伐するべき〝邪悪〟であると訴えても、〝聖域〟は、不死身の勇者を人間が殺害できるはずがなく、事故であるとして、勇者の聖骸を速やかに持ち帰ることを要請した。

 だがナイトハルトは納得していなかった。

 確かに勇者は人間だ。火竜と魔女という難敵と戦い、油断による事故で死ぬこともあるだろう。しかしナイトハルトは、勇者の不死身を知っており、それを倒した魔女が人間ではなく、勇者が倒すべき〝邪悪〟であると信じていた。


 ナイトハルトは聖教会の精霊信仰ではなく、勇者の信奉者だ。

 信じるがあまり、その死がナイトハルトの視野を狭め、頑ななものとしていた。


「馬を用意しろっ! 神殿に向かうぞ!」

 あの場所に〝魔女〟がいる。ただそれだけで飛び出そうとするナイトハルトを神殿騎士が止める。

「お待ちくださいっ。今から出立しても、着くのは数日後となります! 今は御身の傷を癒し、あの方々(・・)と向かわれるのがよろしいかと思います!」

「……分かった」


 その訴えにナイトハルトは、意外なまでに早く冷静さを取り戻した。

〝黒の魔女〟との戦闘での傷は癒えているが、魔女の強大な魔力のせいか、彼の体力値も魔力値も完調とは言えない。

 大抵の相手なら今のままで充分だが、相手は勇者を殺した相手だ。万全の状態にしておくべきであり、神殿騎士の言うとおり、更に万全を期すなら、あの連中を連れて行く必要があった。

 勇者への信奉で暴走しかけたナイトハルトは、その信奉故に勇者を倒した敵への警戒心で落ち着くことができたのだ。


 ナイトハルトが神殿から近い聖都ファーンを離れ、この港町にいるのは、聖都で待機するはずだった二人が、食事が合わないという理由だけで、港町まで移動してしまったからだ。

「あいつらめ……」

 その二人さえ聖都から離れなければ、ナイトハルトが港町まで来る必要もなく、神殿への襲撃に対応できてきたはずだ。

 勇者パーティーの仲間である二人のエルフ。戦力であるその二人を待機させ、街に置いてきたのは、その性質に問題があった。


 ナイトハルトは早足で船内に戻ると、彼自身も数ヶ月過ごした居住区へと向かい、その一番奥にある神殿騎士が監視(・・)する扉を挨拶もなしに押し開けた。

「お前ら、出番だ」

 船室とは思えないほど広く豪華であるが、薄暗いその部屋で、赤銅色の肌に南国の露出度の高い民族衣装を着た、声帯を潰された男と両目の瞼を縫い合わされた女が、声を掛けてきたナイトハルトに顔を向け、ニタリとした笑みを浮かべる。

 ()エルフの双子の兄妹。

 呪術師である彼らは、数千もの無辜の民を実験という名目で殺したという、史上最悪の犯罪者であった。


   ***


 ――Side Alia.


「アリアっ、脱出するぞ!」

 背後からドルトンの声が聞こえた。

 私は崩壊した壁から見えていた、〝あの子〟が消えた茜色の混じった群青色の空から振り返ると、すでに揃っていた〝虹色の剣〟の仲間たちの姿を確認する。

「アリアっ!」

 フェルドが放ってきた二つの武器。黒いナイフとダガーが、私の手に戻ってきたことで戦いに駆り立てるように震えていた。


「行くぞ!」

 ドルトンの号令と共に仲間たちが返事することもなく後に続く。ここまでくれば全員がやるべきことを分かっている。言葉にして確認する必要はない。

 火竜は去ったが、火災が発生して混乱している聖教会の人たちは、私たちにまだ構う余裕はない。

 それでも半刻もすれば、私たちが自分の武器を持って脱出しようとしていることに、気づく余裕のある者も出てくるはずだ。

 それまでに私たちは神殿を脱出して街へ向かう。

 馬車を管理している執事さんと合流して、ファンドーラ法国から脱出する。

 そして……。

「スノー……」

 彼女を……私たちの仲間を取り戻す。


「ミラ」

「ほい」

 外に出たドルトンの声にミラが精霊魔術を空に放つと、微かな笛のような音色が夜空に流れる。あれは執事さんへの合図だ。執事さんなら聞き逃すことなくこちらの意図を察してくれるはずだ。

 私のいた施設の外は、街に逃げようとする人、荷物を持ち出そうと争う人、火を消そうとする人が入り乱れて、まだ混乱は収まりそうもない。

 更にミラが水と風の精霊にお願いして、私たちの姿を見つかりにくくしてくれた。それが幸いしてか、私たちは神殿のある地区から、誰かに見咎められることなく出ることができた。


「あれを見ろ、迎えが来てるぜ」

 周囲を警戒していたジェーシャが指し示す方角から、避難する人を避けるようにこちらへ向かってくる大きな馬車が見えた。

 執事さんがこんなにも早く来てくれた。たぶん、私たちが合図をする前に神殿の様子を見て、事前に動いてくれたのだろう。


「皆様、お乗りくださいっ!」

「馬車を止めるな! 乗り込め!」

 ドルトンの言葉に馬車が反転し、先行したミランダが飛びついて扉を開ける。その次に馬車に飛びついたフェルドが、ドルトンとジェーシャの腕を掴み、その腕力で馬車へと引き上げた。

 私はそれを確認するまで馬車と併走して、そのまま馬車の御者席に飛び乗る。

「アリア様、ご無事で」

「うん。ありがとう」


 そのまま避難する人波を避けて、街とは違う方角へ速度を上げた馬車だったが、御者席にある小窓が開いてジェーシャの声が聞こえた。

「アリア、バレたっ。追っ手だ!」

 それを聞いて立ち上がって背後を確認すると、十騎以上の騎馬が追ってきていた。

 私たちの馬車は自走行も可能な高速馬車だが、騎馬には劣る。そのうちの特に実力を感じる四騎が見る間に追いつき、神殿騎士と似た灰色の鎧を着たその騎士は、剣を引き抜いて威圧的な声をあげる。

「貴様ら勇者殺しの容疑者に、国外に出ることは許可されないっ! 大人しく戻らぬようなら、クロフォード様の命により、今この場で罪人として処断するっ!」


 クロフォード……サース大陸での勇者の後ろ盾となっていた枢機卿か。

 神殿騎士のようで神殿騎士じゃない。鎧の色だけじゃなく、彼らからは荒事を生業とする者特有の血の臭いが感じられた。

 おそらくはクロフォードの虎の子……お抱えの懲罰部隊か。

 先頭の四人がランク4。その後ろに続く者たちでさえ全員がランク3の上位の力はあるだろう。

 何度も尋問を行い、私の自白を強要していたが、癇癪を起こしたナイトハルトに阻まれたことで強硬手段に打って出たか。

 クラインが死んだのは、彼の仲間である戦士ダグラスを排除して、私たちさえも殺そうとしたからだが、それを示す証拠はない。

 枢機卿クロフォードはそれを認めることも、勇者が死んだ責任を取ることもできず、エルド大陸の聖教会への言い訳のために、私たちを生け贄に選んだ。


「返答は如何に!」

「答えは決まっている」

 大人しく捕まっても結果は同じだ。彼らもクロフォードの命令を聞いただけかもしれないが、結論ありきで剣を抜くお前たちに従う義理はない。


「――なっ!?」

 黒いナイフとダガーを構えた私が飛び立つように宙を舞う。

 一瞬で騎士の騎馬に飛び乗った私は、背後から左手を添えるように右手で騎士の首をへし折り、馬から蹴り落とすように次の騎馬へと飛ぶ。

「貴様っ!?」

 咄嗟に振るってきた神殿騎士の剣を黒いナイフで逸らし、空中のまま黒いダガーで鋼の兜ごとこめかみを貫く。

 背後の騎士二人が槍を構えて突っ込んでくるのを見て飛び上がり、突き出された槍の上を走って、そのまま兜の隙間からブーツの刃で眉間を貫き、もう一人の首にペンデュラムを巻き付け、引き寄せるように黒いナイフを振るって、首のガードごと頸動脈を斬り裂いた。

 そのまま走行する馬車の屋根に戻り、追ってくる残りの騎士たちに向けて、ナイフをダガーに沿わせて居合抜きのように構える。

 お前たちに恨みはない。

 だが、お前たちは私の〝敵〟となった。


「――【竜牙撃(ライツァーン)】――ッ!」


 居合いの如く高速で放たれたレベル6短剣技の剣閃が、背後から迫る七騎の騎士の首を一瞬で斬り飛ばした。


【アリア(アーリシア)】【種族:人族♀】【ランク6】

【魔力値:388/420】【体力値:287/320】

【総合戦闘力:3356(身体強化中:4536)】


 走行する馬車から小さくなっていく軍馬から、神殿騎士が落ちていく。

 私の敵となるなら枢機卿でも容赦はしない。

 私はもう迷わない。


「行こう。〝火竜の巣〟へ」




絵面的に早く出したかった勇者の仲間。

迷いを振り切ったアリア。

今年もよろしくお願いいたします。

皆様にとって良い年でありますように。


1月15日にコミカライズ8巻が発売になります。

オーク戦開始!


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― 新着の感想 ―
そう!それでこそ我らがアリア! 躊躇する必要なんかない、敵はやれ!
最初からこうしておけば良かったのではないかと思わないでもありません。やっと、スカッとする場面にありつけました。アリアを見くびるような愚かな神殿騎士たちには、塵殺してもお釣りがくるのではないかという程に…
これがほんとの新年出血大サービス。 なんかさーせん。
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