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乙女ゲームのヒロインで最強サバイバル 【書籍化&コミカライズ&アニメ化企画進行中】  作者: 春の日びより
後日譚:【茨の白雪姫】

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298 覚悟の理由

対勇者戦、佳境!



 私に足りなかったもの……忘れていたものは〝死ぬ覚悟〟だった。

 でもそれは私の一面でしかない。幼い私がどうして死ぬ覚悟をしてまで戦っていたのか? そうしなければ勝てなかったからだ。

 どうして勝たなければいけなかったのか? それは運命に打ち勝つためだ。運命に支配された人形じゃない。私は〝私〟だ。私が〝私〟らしく生きるためには運命に勝たなくてはいけなかった。

 それでもし私が死んだとしても、私は〝私〟らしく死んでいける。

 それが私の覚悟だ。

 そして弱い私が勝つためには、わずかな躊躇いもなく敵を殺す必要があった。

 私が無くしていたもの……。

 それは、敵を必ず殺すという必殺の〝殺意〟だった。


 ごめん、スノー……。

 もう一人で戦わせたりしない。

 私は闇竜の牙で出来た黒いダガーを〝敵〟に向ける。


「勇者クライン……お前はここで死ね」


   ***


 戦っていた勇者クラインは不意に違和感を覚える。

(なんだ、こいつは……っ)

 目の前にいる桃色髪の少女から発せられる雰囲気が変わった。

 冒険者アリア……アーリシア・メルローズ。聖教会に調べさせた情報では、貴族令嬢でありながら王太女の懐刀と目される強者であり、上級悪魔でさえも討ち取ったいう。


 違和感はそこではない。聖教会から話を聞いたとき、ナイトハルトなどは仲間と共に倒したのだろうと小馬鹿にして、クラインは若い女ということ以外はほとんど興味を引かれなかった。

 だが、初めて会った瞬間から〝本物〟だと確信した。

 誇張でもなんでもない、アリアには本当に悪魔を倒す力があるのだと。

 だからこそその場で仲間に誘った。彼女こそ勇者の仲間である〝英雄級〟であり、その容姿を含め、自分に相応しいと確信したからだ。

 だが、クラインの言うことを聞かない女に意味はない。クラインが求めていたものは、勇者の仲間として、自分を彩る〝綺麗なお人形〟なのだ。


「ハァアアアッ!!」

 右手で魔剣に匹敵する黒いダガーを繰り出し、左手でペンデュラムを操り、クラインの目を狙う。

 ペンデュラムのような小さな武器では勇者の〝光の加護〟を貫けない。異様な力を放つあの黒いダガーでも、クラインを一撃で殺す威力はないだろう。

 だが、勇者とて人間であり、生物としての本能が目のような明確な急所を庇おうと、つい視線で追ってしまい、間近に迫られると瞼が閉じようとする。

 その瞬間に、アリアの肘や膝がクラインの顎や関節を打ち、視界を揺らす。


 アリアの戦闘力は驚異的だが、それはあくまで人間としてであり、英雄級なら誰しも〝奥の手〟の一つくらい持っている。

 それを使ってさえ、アリアの戦闘力はクラインの半分でしかなく、体術程度ではクラインに痛手を与えることはできないが、それで体勢を崩されたら、その瞬間にダガーが襲ってくるはずだ。

 クラインを傷つけられるのはアリアの黒い武器だけ。

 だからこそクラインは無意識にそれを意識してしまい、脅威度の低い攻撃を受けざるを得ない状況に陥っていた。

 そして――。


「――【氷の鞭(アイスウィップ)】――」

「チッ!」

 足下からしがみつく亡者の群のように、辺り一面から絡みついてくる無数の茨に、クラインは魔剣で薙ぎ払いながら跳び下がる。


 もう一人の〝英雄級〟で雪のような白い女……スノー。

 最初に見たのがこの女だ。勇者パーティーにはまだいない英雄級の魔術師で、アリアと共にものにしたいと考えた。

 だがこの女は最初からクラインを敵視していた。それこそ何度もクラインに殺意を向けて、ナイトハルトが苛ついていたのはそのせいだ。


 スノーの〝奥の手〟は、おそらく命を戦闘力に換える類いのものだ。そのせいか、白かった髪は艶を失って黒く染まり、目の下に隈が浮きだしている。

 しかし、スノーが厄介なのはその戦闘力ではなく、力の使い方だ。

 膨大な魔力でただ大魔術を連打するのではなく、時折、範囲を大きくした小さな魔術で、逃げ場を無くしていくような戦い方をする。

 しかも威力が上がっているからか、魔剣で払っても飛び散った冷気が地味に指先を痺れさせる。

〝光の加護〟で治るとはいえ、雷と凍気に少しずつクラインの魔力と精神を削られていくようで、クラインを苛つかせる。


 それが、クラインの人格の根本となった部分……クラインとして生まれる前の常に不満を抱いていた〝自分〟を浮かび上がらせる。

 クラインにとって過去の記憶どころか記録でしかないものが、クラインの苛つきと同調するように、自分に逆らう少女たちに〝不満〟を覚えた。


「……クソ女どもがっ」


   ***


 アリアが本気になった。……いいえ、少し違うわね。

 私と同じ、何もなかったアリアが無くしかけていたもの。彼女はそれを必ず殺さなければいけない〝敵〟という存在によって、取り戻した。

 揺るぎない覚悟も、それを創りあげるための〝核〟が必要だった。

 幼かったあの日、私とアリアが共感したもの……。

 それは世界に対する〝怒り〟だった。


 その世界が調和のためだけに生み出した〝勇者〟という存在。

 護るのは人の世ではなく、世界そのものであり、逆に言えば〝人のために死ねる〟ような奴は勇者に選ばれない。


 世界は正しい。だけど、間違っている。

 少なくとも私にとっては……ね。


 アリアの動きが変わり始めた。これまでの無力化する戦い方とは違い、削る(・・)ための戦いに変移した。

 クラインの必殺を許さない、身を削るような接近戦。

 体格も技量も筋力も速さもすべてクラインが上。

 その中でアリアは振られるクラインの魔剣に自ら飛び込むように黒いダガーを叩きつけ、飛び散る魔力の衝撃でアリアだけが傷つきながらもその攻撃をいなし、膝を踵で蹴って体勢を崩させ、黒いダガーを囮にして側頭部に肘を打ち付ける。


「……クソ女どもがっ」

 クラインが感情を顕わにして口汚く吠える。彼の全身が仄かに輝き、光の精霊の加護によってその傷が癒される。

 世界を滅ぼしかねない邪竜や大悪魔のような、〝魔王級〟の敵と戦うために精霊が与えた勇者の力。

 それでも、アリアに削られた精神までは癒せない。


「……こほっ」

 口から零れた血が胸元を汚す。動けるまで身体を癒した私は、アリアの援護のために魔力を魂から汲み上げる。

 でも、その瞬間、私がそうしたようにアリアが一瞬だけ私を見る。

 ……随分と期待をしてくれるわね。

 いいわよ……。あなたが知っている本当の私を見せてあげる。


 あなたは勇者を殺して問題が起きても、自分が死ねばいいとか思っているのかもしれないけど……。

 それは私がさせてあげない。〝勇者〟を殺すのは〝私〟だから。


   ***


 クラインが振るう魔剣を掻い潜り、繰り出された蹴りを自分の膝で受けながら、吹き飛ばされるように距離を取る。

 その瞬間に必殺の間合いで魔剣を振るうクラインに、左手で操る四つのペンデュラムが関節を打ち、わずかにズレた一撃を躱して私は再び距離を詰めた。

「ウザいんだよっ!」

 クラインが強引に間合いを取ろうと魔剣を振るう。戦闘力に倍近い開きのある私では受け流すだけでも命懸けだ。

 でも、少しずつ……ほんの少しずつだがそれに対応できるようになってきた。

 クラインの精神が削られ、技が荒くなっているのか?

 私がクラインの攻撃に慣れ始めたのか?

 どれも合っているのだろう。でもそれだけじゃない。


 ガキンッ!!

 魔剣の一撃を受け流すも威力に押されて距離を取られた私は、再び距離を詰めることなく跳び下がって着地する。

 私はゆっくりと息を吐いて〝鉄の薔薇〟を解除すると、黒いダガーを腰の鞘に収め、素の状態のままクラインを煽るように指で手招いた。


「このクソ女ぁあああああっ!!」

 精神を削られ、分かりやすく激昂して全身から魔力を放ったクラインが、魔剣を構えて飛び込んでくる。

 分かっている。この状態では単なる自殺行為に過ぎない。でも……。

「がっ――」

 私には〝確信〟があった。

 真っ直ぐに繰り出された魔剣の切っ先をわずかに〝銀〟の力を込めた拳で微かに逸らし、頭の横を数本の髪を斬り飛ばしながらすり抜ける魔剣を横目に、私はクラインの顔面を掌底で打ち抜いた。


「――!?」

 クラインの顔が衝撃よりも困惑に歪む。

 お前には分からないよ……一生ね。

 何度も鉄の薔薇を使い、何度も虚実魔法を使った私は、一瞬だけなら〝拒絶世界〟の〝銀〟を使えるようになった。

 それでも戦闘力の差から掌底を打った私の手のほうが痺れる。

「死ねぇええ!!」

 それでも怒りに任せて振るわれる魔剣を一瞬の〝銀〟を込めた拳で逸らし、繰り出されたクラインの蹴りを踏みつけるように乗り上げ、顔面を蹴り上げる。

「ぐごっ!?」


 私の速度が追いついたわけじゃない。私の力が上がったわけじゃない。

 でも、目で追いきれない攻撃が気配で読める。魔力の流れで攻撃の先が見える。

 私のステータスが上がったわけじゃない。

 私の中で、技術が少しずつ上がっていく感覚があった。


「クソがああ!!」

 クラインの剣速が上がり、その風圧と魔力の余波だけで私の肩や腕を傷つけ、頬から血が零れる。でも、私は殺せない。

 私がダガーを仕舞ったのはお前の注意を分散させるためだ。これまでダガーに集中していた意識がそれを見失ったことで、わずかな隙が生じた。

 もうお前の技は理解した、クライン。

 お前の技には〝威〟が足りない。格上との戦闘が足りていない。だから、戦闘力に差があっても、こうしていなすことができる。


 技術(スキル)は、何度も繰り返してその身に刻むことで魂にも刻まれる。

 私は格上との戦いで、敵を理解して命を懸けて技を魂に刻んできた。

 だが、お前の技はただ刻まれただけで深みがない。

 それはお前の技が、精霊に与えられた〝借り物〟だからだ。


【アリア(アーリシア)】【種族:人族♀】【ランク6】1Up

【魔力値:145/420】10Up【体力値:121/320】10Up

【筋力:11(18)】1Up【耐久:11(18)】1Up【敏捷:20(32)】1Up【器用:9】

【短剣術Lv.6】1Up【体術Lv.6】1Up【投擲Lv.5】

【弓術レベル3】【防御Lv.5】【操糸Lv.5】

【光魔法Lv.5】【闇魔法Lv.5】【無属性魔法Lv.6】1Up

【生活魔法×6】【魔力制御Lv.6】1Up【威圧Lv.5】

【隠密Lv.5】【暗視レベル2】【探知Lv.5】

【毒耐性Lv.3】【異常耐性Lv.5】

【簡易鑑定】

【総合戦闘力:3356(身体強化中:4536)】773Up


 ガッ――

「――っ!」

 ついに私の繰り出した掌底がクラインの防御を抜き、その顎を大きく揺らした、そのとき――

「チッ!」

 クラインが私ではなく、背後からの噴き上がった巨大な魔力に回避しようとするが、何度も揺らされた脳はそれを許さない。

 咄嗟に跳び下がる私の視界に、私を信じて魔力を高めていた、黒い髪を靡かせるスノーの笑みが映り、白い指先がそっとクラインを指さした。


「――【雷煌(サンダーブレイク)】――」


 その瞬間、天から降りそそぐ無数の雷が収束し、巨大な一本の雷となってクラインを撃ち抜いた。




ついに力を見せるアリア。

スノーの一撃がクラインを襲う。



コミック7巻は8月15日発売です! 暗殺者ギルド編最終! そして長大ページの書き下ろし漫画、カルラの過去編が収録されております! 淑女として生首より重いものを持ったことがない発言の元になったバイオレンスな内容なので、お楽しみに!

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― 新着の感想 ―
作り込まれた世界観が素敵です!これからも楽しみにしております。
つまり生首は持ったと。変わらず殺伐だぜ!
アリアやスノーらしさが出てきて負ける気がしませんね。ところでナイトハルトの存在忘れてました……。あちらは絡んでくるんでしょうか?
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