表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
乙女ゲームのヒロインで最強サバイバル 【書籍化&コミカライズ&アニメ化企画進行中】  作者: 春の日びより
後日譚:【茨の白雪姫】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

292/302

292 殺意

あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いいたします。


『ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!』


 こちらを見下ろした火竜が〝竜の咆吼〟を奏でる。

 己の前に立つ相手を選別するという咆吼は大地を震わせ、それを受けたアリアや勇者たちはわずかに顔を顰めただけだったけど、もしもここに後方にいる人たちがいたら、〝虹色の剣〟はともかく、神殿騎士や従者では恐慌を起こす者もいたでしょうね。

 そんな〝竜の咆吼〟に、私は顔を顰めることも恐怖を覚えることなく、どこか感動したような感覚で火竜を見つめていた。

「ああ……綺麗ね」


 私が漏らした微かな呟きに、火竜がわずかに瞳を向けてくる。ほんの一瞬――火竜の金色の瞳と私の紫の瞳が見つめ合い、すぐに視線を外された。


《――ヒトの子よ。我が狩り場にして領域に侵入する、その狼藉を何故行うか――》


 火竜が私たちの言葉で警告する。高位の幻獣は人語を解すると言うけれど、ネコちゃんよりもハッキリと話せるのは、さすがは長い年月を生きた幻獣というところかしら。


「やぁ、火竜よ。君が人族の馬車を襲うから討伐に来たんだよ」

 火竜の威圧を物ともせず、勇者クラインが飄々とした態度で答える。

 いい度胸ね。ナイトハルトやダグラスでさえも緊張はしているというのに、クラインは何も考えていないかのように笑みさえ浮かべていた。

 アリアは……微かに視線を向けると火竜を警戒しながらも、私の呟きが聞こえていたのか瞳だけで私を一瞥してきた。


《――我が領域に入り、我は警告したが、あれらはまた入り込んだ。それに応じた我を責めるか? ヒトの子よ――》


 勇者の態度に怒りを見せることなく、火竜がさらに問いかける。

 さすが高位幻獣は理知的ね。紳士的と言っていいかしら。火竜はこの大陸の属性竜の中では気性が荒いと聞いたけど、噂は当てにならないわ。

 火竜の言い分では、警告はしたが、それでもゼントール王国は火竜の縄張りを侵したので、お灸を据えたというところかしら?

 私に言わせればゼントール王国の自業自得ね。火竜は選別に耐えた相手とはいえ、敵対宣言をしたクラインにまで言葉で対応しようとしている。ゼントール王国の上部に理性的な人がいれば対立は……まぁ、無理な話ね。人間は強欲で――

「愚かだから」

「スノー……」

 気にしなくていいのよ、アリア。ただの感想だから。


 でもクラインは、そんな火竜の言い分に飄々とした態度を崩すことなく、大げさに肩を竦める。

「困りましたね。なんとか引いてもらえませんか?」

《――くどい。人は千年の棲み分けを破った――》

「こちらも引けないのですけどねぇ」

 どちらも引く気はない。……というか、クラインはわざと戦おうとしているように見えるわ。


 そもそも、勇者御一行がこのサース大陸まで来たのが、精霊が邪悪な存在を感知したからで、その最大候補である闇竜をアリアが本当に倒せたのか、その実力を確かめる意味で火竜退治をすることになった。

 けれどアリアは、その火竜が邪悪ではなく、意思疎通ができるのなら意思を確かめるべきだと主張した。

 でも、腑に落ちないところがあるの……。

 他の邪悪な存在が現れたとき、英雄級であるアリアを仲間に迎えるというのが、最初に私たちを呼び出した理由だった。その力を確かめるために火竜を倒すのが目的で、アリアがその必要性を感じなかったからこそ、前記の理由をクラインがでっち上げた。

 私はクラインが個人的に、アリアを仲間に欲しがっているように思えた。アリアの実力を示すことは聖教会を納得させるためだけど、聖教会の意見よりも〝勇者〟が本気で望めばそちらが優先されるはず。

 アリアが拒んでも、あのときクラインが言ったように、国家に圧力を掛け続ければいい。それがどうして、クラインは火竜退治に拘るの?

 まさかこのクラインが、支援元とはいえ枢機卿のご機嫌を伺っているなんてあり得ないと思うのだけど。

 そんな適当な考察をしている間にも会話は進んでいく。


「そうなると、少し痛い目に遭ってもらうことになりますよ?」

《――愚かなヒトの子よ。その選択を悔やむがいい――》


 その瞬間に火竜の威圧感が増し、その金の瞳が獰猛なまでに輝いた。

『――ガァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』

 火竜が咆哮をあげる。でもそれは選別を行う〝竜の咆吼〟じゃない。これは――


飛竜(ワイバーン)だっ!」

 いち早く気づいたナイトハルトが声をあげる。その声に私たちもそれを察して空を見上げると、火竜が眷属を呼び寄せたのか、亜竜である飛竜が数体空より舞い降りてくるのが見えた。


「待て、クライン。火竜には戦いの意思はなかったはずだっ」

 戦いを始めようとするクラインをアリアが止める。その声に腕を組んだままのダグラスが視線を向け、すでに剣を抜いていたナイトハルトが顔を顰める。

 利害が一致しないのなら戦うのは仕方ない。だけど今回の場合は火竜から攻められたのではなく、あきらかに千年間の棲み分けを破ったゼントール王国に非がある。

 これは火竜とゼントール王国の問題で、私たちにはなんの関係もない。

 それなのに無理に火竜と戦おうとしてアリアに呼び止められたクラインは、火竜と対峙しながら視線だけで振り返る。

「無駄ですよ、アリアさん。どちらにしても〝動物〟と理解し合えるはずがないのですから」

 その瞬間――

「アリア!」

「スノー!」

 同時に互いを呼んだ私たち。アリアが私を抱えて跳び下がるのと同時に私は氷の壁を造って衝撃波を受け止める。

 戦いになるとは思っていたけど、いきなり全開とはね。


『ガァアアアアアアアアアアッ!』

 クラインの剣を使った魔法? 戦技かもしれないけど、膨大な光と威力を放ったそれを、火竜も空に羽ばたくことでいなしていた。それでも無傷ではなさそうだけど。


「クライン! 飛竜が後方に向かうぞ!」

 私たちと同じく衝撃波をいなしたダグラスが声を張り上げる。

 クラインの放った衝撃波が襲いかかってきた飛竜も吹き飛ばし、その飛竜たちが後方に向かおうとしていた。

「ふんっ!」

 大剣を振り上げたダグラスが、そのうちの一体を投げつけた大剣で仕留める。でも大部分はすでに空へ飛び立ち、もう攻撃も当たらない。

 しかもその向こうでは――

「アリア」

「行こう!」


〝虹色の剣〟や神殿騎士たちがいる後方……ここからでは見えないけど、その辺りの空に、こちらに来た飛竜とは別の群が旋回しているのが見えた。

 こちらに眷属を呼ぶのと同時に、後方にも飛竜を差し向けていたのね。


「待ってくれるかな。それには及ばないから」

 後方の援護に向かおうとした私たちをクラインが止める。

 私やアリアがいない時点で〝虹色の剣〟の殲滅力はかなり下がっている。ドルトンたちがいるので持ちこたえるとは思うけど、空を旋回している飛竜だけでも十を超えているので油断はできない。

「ナイトハルトさん、あなたが後方の支援をしてくれるかな」

「クライン!?」

 その言葉に火竜を牽制していたナイトハルトが声をあげる。そしてダグラスも勇者の指示に少しだけ片眉を上げた。

「どういうつもりだ? 仲間が危険なら、その少女たちを下がらせればいいだろう」


 ダグラスは、私たちのような若い女を前に立たせることに難色を示していた。それなら私たちを後方に下げたほうがいいと言うダグラスに、クラインはいつもの意思が読めない笑みを浮かべながら、微かに〝威圧〟を滲ませる。


「元よりアリアさんの力を見ることが目的だよ。それとも〝勇者〟の指示が聞けないのかな?」

「……よかろう」

「ダグラスっ……くそっ」

 一瞬眉間に皺を寄せて〝勇者〟の言葉に頷いたダグラスに、ナイトハルトも舌打ちをするが、それ以上食い下がることなく素直に剣を収めた。

「すぐに戻ってくるからなっ!」


 後方支援のために、剣士ナイトハルトがこの場を離れた。私たちの力を見るとしても英雄級一人を欠いて、この戦力で火竜と戦える?

「ネロ……?」

 最悪の場合、ドルトンたちの所へネコちゃんに向かってもらう手もあるけど、ネコちゃんはアリアの呼びかけに応じることなく、黒猫の幻影さえも消していた。

 ネコちゃんが火竜に脅えるはずがない。だとしたら何かを警戒している? その対象が火竜でないとしたら――


「さて。邪魔者はいなくなった」

 奇妙な威圧感で私たちだけでなく、火竜さえも牽制していたクラインが声を漏らす。

「どういうこと?」

 その言葉の意味を問うアリアに、クラインは私たちや火竜を視界に収めながら、ニタリと笑う。

「〝僕〟はね。我慢できなかったんだよ」


 今まで〝私〟と言っていたクラインの気配が少しずつ変わり始め、禍々しさが増していくように感じて、火竜さえ〝勇者〟を警戒する。


「この世界は僕のオモチャ箱だ。精霊が僕を見出したとき、〝勇者〟となる替わりに精霊もそれを認めた」


 世界がオモチャ箱……? その真意は分からないけれど、精霊は……特にダンジョンの精霊とは違って人の意思が交ざらない純粋な精霊は、人間社会に興味がない。


「もううんざりなんだ。好き勝手にできないのは。英雄というだけで暑苦しい仲間なんて求めていない。とは言え、勝手に排除すれば聖教会からの支援もなくなるなんて、なんて面倒なんだろう」

「クライン……? お前は何を言っている」

 唐突な、自分や聖教会さえも貶めるような〝勇者〟の物言いに、この場に残った寡黙なダグラスも、困惑した様子でクラインに詰め寄った。

「……ああ、ダグラス。僕はね……」


 ――斬ッ!!


「クラ……イン?」

 クラインが笑顔のままその右手がぶれると、袈裟懸けに血を噴き出したダグラスが崩れ落ち、クラインの手には血塗れの剣が握られていた。


「僕はね……殺したいんだ」




ここにきて見せた勇者の本性。

次回、対勇者戦……開幕!

後日譚らしくノンビリと……あれぇ?


1月15日書籍とコミカライズ同時発売。

早い本屋さんだと10日には入るかも? その頃に簡単な告知がありますのでお楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
この作品に出てきた若い男たちは、基本的に単純な性格だったことをふと思い出した。 勇者は強いだけで頭は同レベルな感じかな?
 よっしゃ!ようやくサツバツとしてきた!  やはりこうでなくては!
もうみんな頑張ったんだから休ませたげてよぅ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ