280 新たな火種
皆様、あけましておめでとうございます。
いつも沢山の応援をいただき、ありがとうございます。少し早いですが元旦ということで、本日更新させていただきました。今年も何卒宜しくお願い申し上げます。
「お待ちください!」
用が済んでしまった私たちが次の目的地を話し合っていると、一度だけ立ち寄った冒険者ギルドの職員が駆け寄ってくるのが見えた。
「……ふぅ。まだ居てくださってよかった」
「どうかしたの?」
アリアが問いかけると、その小太りの男性職員は汗を拭きながら書類のような物を取り出した。
「えっと……あなた方がアリアさんとスノーさんですね。〝虹色の剣〟のドルトン様から連絡が届いています」
ドルトンは王都の冒険者ギルドから、サマンサが立ち寄りそうな地域のギルドに一斉に連絡を送っていた。
ただ各地のギルドに張り紙をするだけでもかなりの金額がかかるのに、探してまで連絡するとは、どれほどお金がかかったのかしら?
ギルドの職員もわざわざ探してまで見つけてくれたのは、私たちが若い女と老婆という目立つパーティーだったのと、アリアが有名だったからでしょうね。
ランク5パーティーの斥候。盗賊や暗殺者からも畏れられる〝灰かぶり姫〟。
以前は裏社会でのみ轟いていたその威名は、徐々に国外にも広がっている。
「それで、どうしたの?」
「……すぐに王都に戻れ。ただそれだけ」
私が問いかけると伝言を読んでいたアリアがそう答えた。
「ほら」
「……簡潔ね」
内容は本当にそれしか書いていない。裏を返せばそれだけ重要な案件だと分かる。
しかも、それだけ多くのギルドに送れば、聡い者なら、貴族とも繋がりのある〝虹色の剣〟が何かをしようとしていることも知られてしまうでしょう。
けれどドルトンは敵対派閥に知られることよりも、時間を優先した。
「戻ろう。……平気?」
「仕方ないわねぇ」
アリアが本気で急ぐのなら、街道や馬車を使わず、森を突っ切って真っ直ぐに向かうということね。
私も体調が完全に良くなったわけじゃないけど、お婆ちゃんに教えてもらったこともあるし、実践しながら進むとしましょう。
私たちは子爵領のお店で買い込んだ保存食を【影収納】に仕舞い込み、王都がある南東に向けて真っ直ぐに進み出した。
……結局、一日もベッドで眠ることができなかったわ。
私たちは身体強化を使い、深い森の中を駆け抜ける。
〝生き急ぐ〟……それは本当に私たちのためにある言葉だと思うわ。
アリアはやるべき事、しなければいけない事、そして誓いのために命を懸けた。
私は憎しみのため、すべてを殺して、殺してもらうため、残り少ない命が尽きるまで止まることはできなかった。
何も知らない人たちや、優しさしか知らない人たちは、そんな私たちを可哀想だと哀れむのでしょう。
何も見ずに生きてきた人や、狭い世界で生きてきた人たちは、まだ十代の前半で悪魔さえも殺せる私たちを、バケモノと呼んで畏れるのでしょう。
他の子たちが、ベッドに眠るまで親に絵本を読んでもらっていたときに、私たちは血反吐を吐きながら戦い続けてきた。
そして、それを悔いることも振り返ることもしない。
すべて、私たちが自分で決めたことだから。
誰かに文句を言えるのは、本当に恵まれた人なのでしょうね。
知っていて?
この世の大抵の不満は、〝死ぬ〟か〝殺す〟かで消えるのよ。
だから私たちは〝強く〟なるしかなかった。
そして私たちは、今も〝生き急いで〟いる。
「顔色が悪い」
「……お薬はいらないわよ」
私の顔色を見たアリアが【影収納】から何かを取り出そうとしているのを見て、思わずそれを止めた。
だって、死はそんなに怖くないけど、アリアのお薬は苦いのよ。
「そうだね。そろそろ新しい薬を……」
「そうではないわ」
どうして新しい薬で地面を掘るの? 森の地面に何があるの? ミミズの丸焼きなんて本当に効くの?
私が笑顔で不思議そうな顔をするアリアを止めていると、その肩にいたネコちゃんが溜息を吐いて、幻術の姿を消した。
「ネロ?」
『ガア』
次の瞬間、名を呼んだアリアの影から小さな家ほどもあるネコちゃんの〝本体〟が姿を現した。
「どうしたの?」
鼻先を撫でるアリアに耳の触覚で彼女の頬を撫でたネコちゃんは、私を見て面倒くさそうに目を細めた。
「背に乗せてあげるって」
「……あらそう」
本当にどうして言っていることが分かるのかしら?
ネコちゃんの背に乗せてもらってからは、アリアの脚でも一週間以上かかる道のりをほんの数日で王都周辺に辿り着いた。
予定では途中の街に一日か二日は立ち寄るはずだったのだけど、またベッドで眠りそこねたわ。
途中でまたネコちゃんはアリアの影に戻り、問題なく王都にあるドルトンのお屋敷にまで着くと、馬車へ乗り込もうとしているドルトンを見つけた。
「早かったな、お前ら。ちょうどいい。お前たちも来い」
「私も?」
冒険者としての〝虹色の剣〟の馬車ではなく、目立たない商家が使うような馬車なのだから、きっと彼を呼び出したのはあの人でしょう?
「そうだ、お前もだ、スノー。アリアもそうだが、お前もいれば連れてこいと言われている」
「……ふぅ~ん」
意外と剛毅ね、お姫様。死んだことになっているとはいえ、王都を破壊した張本人を呼び出すなんて、自滅願望でもあるのかしら?
本当に生き急いでいるわ。アリアも気にしていないように馬車に乗り込んでいったけど……またベッドはお預けね。
でも、さすがはお姫様。最初からその予定だったのか、それともアリアが来ることを信じていたのか、私たちは王城ではなく、その近くにある貴族家の屋敷でお姫様が待っていた。
「ようこそ、ドルトン、アリア。ここは接収した元貴族派の屋敷で、私預かりとなっていますから、他の人の目は気にしなくても大丈夫よ。あなたもね」
「……痛み入りますわ」
勧められたソファーの端に、フードを脱がずに腰を下ろした私に、部屋にいるクルス人と黒髪の侍女が睨むように警戒する。
どうやらこの屋敷に普通の騎士はほとんどいないけど、侍女も使用人も暗部の騎士なのか、かなりの手練れ揃いね。
当然、この私を一番警戒しているでしょう。でも、お姫様が許しているから異を唱えることはできない。大変ねぇ。
「……あなたの力が必要になるかもしれませんから」
お姫様は薄く微笑む私と警戒する侍女たちに軽く溜息を吐くと、静かに話し始めた。
「まず最初にアリア。この件に関して、わたくしはあらゆる力を使ってあなたを守るつもりでいるわ。最終的な判断はあなたにお任せしますが、それだけは忘れないで」
「分かった」
アリアが頷くと、お姫様は一息間を置いて真剣な表情を見せる。
「結論から申し上げます。他の大陸から現れた〝勇者〟殿が、英雄級の力を持つアリアを、聖教会からの正式な要請として。ご自分の仲間に迎えたいと言っているのです」
来ちゃった……。
勇者は敵か味方か。そしてその実力は?
新作『竜娘が巡る終末世界』は第一章まで終わりました。
現在修正作業中ですが、よろしければ読んでみてくださいね。
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