261 茨の白雪姫
本編は完結しましたので、こちらから後日譚になります。
冒険者パーティー『虹色の剣』――。
サース大陸の大国であるクレイデール王国でも有数のランク5パーティーであり、百年以上続く伝統と高い依頼達成率は王国随一である。
最高にして最強――。だが、その永い年月によって培われた評価は今、とある少女によって新たな『伝説』になろうとしていた。
『ギィガァアアアアアアアアアアッ!!』
大空を舞う飛竜が牙を剥き、威嚇するように咆哮をあげる。
虹色の剣は、王国の北にある魔物生息域に現れた飛竜の群れが王国の領域に近づいてきたことで、その調査及び殲滅の依頼を受けた。
だが情報が遅く、飛竜の群れは餌場を求めて移動した後であり、虹色の剣は急ぎ一番近い町へと向かっている群れに追いつき、町の一歩手前で戦闘を開始する。
「一匹たりとも町へは行かせるなっ!」
リーダーであるドルトンの声にパーティーメンバーが行動を始める。飛竜の数は六体で、町までわずかな距離しかない。
「――『風の精霊よ』――」
精霊魔法使いのミラが『風の守り』と同時に、複数の飛竜を巻き込むように『竜巻』を発生させた。
『ギィギャアアアアッ!』
巻き込まれた飛竜が失速して墜ち始めた。
地竜ほどではないとしても、強固な飛竜の鱗は風の刃では切り裂けない。だが、視界を塞がれれば方向を見失い、速さが落ちればその自重を支えられるほど強靱な翼は持っていなかった。
それでも高度な魔法を二重で使ったミラはしばらく魔法を使えない。落ち始めた一体が怒りを漲らせて突っ込んできた。
「やらせるか!」
その飛竜の前にミスリルの全身鎧を纏ったドルトンが立つ。
全長五メートルの巨体だ。空を飛ぶために骨格が軽量化されていたとしても、大砲を真正面から受けるような衝撃を受けるだろう。だが――
「うぉおおおおおおおおおおお!」
ランク5の重戦士であるドルトンはそれを受け止めた。
「うぉりゃあああ!!」
その真横から同じ山ドワーフのジェーシャが魔鋼の両手斧を飛竜の首に叩き込み、その蛇のように長い首を両断する。
『ギィガァアアアアアアアアアアッ!!』
飛竜が完全にこちらを敵と認識した。落下した二体の飛竜は地に落ちる寸前で脚を使って衝撃を殺し、まるで鳥が駈けるような速さで迫り来る。
それに対し、巨漢の剣士――フェルドが躍り出ると背にある黒い大剣を振り抜いた。
「たぁああああああああっ!!」
闇竜の角から作られた大剣はフェルドの技量と合わさり、亜竜の鱗を木っ端の如く斬り裂いた。
『ギガァアアア!』
それと同時にもう一体の飛竜がフェルドに向けて牙を振るう。だがその瞬間、駆けつけてきたドルトンが振るうミスリルのハルバードが、フェルドの脇をすり抜けるように飛竜の口から脳まで粉砕した。
まだ空にいる飛竜が尾にある毒針から毒液を撒き散らす。だがそれは、風の守りによって防がれた。
幻獣種である地竜や属性竜と違い、亜竜はブレスを使えない。対地攻撃を封じられ、地上にいる人間たちの攻撃力に飛竜がわずかに怯えた気配を見せると、その瞬間、小さな人影が黒いスカートを飜しながら、飛竜の頭上に舞い上がる。
陽光に煌めく桃色がかった金の髪。怪鳥の如くはためく黒革のドレス。そして何よりその少女――アリアの殺意ある冷たい瞳に、飛竜が怯えたように牙を剥いた。
「ハッ!」
怯みもせず脅えもせず、軽く息を吐いた少女の黒いダガーが飛竜の両目を貫いた。
視覚を失った飛竜が失速して落ちていく。だがその後ろから怒りを漲らせたもう一体の飛竜が、旋回するように身を飜し、尾にある毒針を少女に叩き付けた。
ヒュン!
その瞬間、復帰したミラの放った矢が飛竜の顔を掠め、それを信じて待っていたかのように飛び出したアリアが、一瞬動きを止めた飛竜に向けて、〝闇竜の牙〟で作られたナイフとダガーを振りかぶる。
「――【兇刃の舞】――」
属性竜の牙は亜竜の鱗などものともせず、翼と顔面を斬り裂かれた飛竜は悲鳴をあげて落ちていった。
それを見て最後の飛竜は戦意を無くして逃亡する。だが、その方角には町があった。
外壁の見張り台からこちらに気付いていた兵士が矢を放つが、空を高速で飛ぶ物体に当てることは難しく、たとえ当たったとしても弓術レベルの低い矢など飛竜の鱗を貫けはしないだろう。
真っ直ぐに向かってくる飛竜の巨体に兵士たちの顔が引き攣る。でもそこに……町を囲む外壁の前に一人の〝少女〟の姿があった。
「――【狩猟雷】――」
閃光。少女から放たれた複数の雷撃が飛竜の翼を撃ち抜き、飛竜が体勢を崩す。
だが、翼の推力は無くても慣性で飛び込んでくる飛竜は止まらない。このままでは町にも被害が出る――そう思われた瞬間、白い少女がそっと前に出た。
真っ白なローブのフードを目深に被り、波打つ真っ白な髪を揺らしながら、その少女は飛竜に立ち塞がるように両手を突き出した。
「――【氷の鞭】――」
どれほどの魔力が込められているのか、白い少女を中心に生み出された膨大な氷の茨が飛竜を絡め取り、瞬く間に氷のオブジェへと変え、凍結した飛竜を粉砕した。
町の兵士たちから沸き起こる歓声。
氷が塵のように舞い散る幻想的な世界の中で、白い少女が歩きながら笑うように白い髪を揺らしていた。
ランク5冒険者パーティー『虹色の剣』。
その評価は二人の少女によって伝統から『伝説』へと変わろうとしていた。
一人は竜殺し、桃色髪の少女、『灰かぶり姫』『鉄の薔薇姫』――。
そして――
新しく加入したランク5の魔術師……本名は誰も知らない。ただその真っ白な装いと髪から、人々は彼女を『白雪姫』と呼んでいた。
後日譚は月一程度のペースで進めたいと思います。
文章量もまちまちになるかと思いますが、よろしくお願いします。
第4巻は7/20日に発売です。予約も始まってます。
第5巻も絶賛加筆修正中!こちらは年末予定です。
 





