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乙女ゲームのヒロインで最強サバイバル 【書籍化&コミカライズ&アニメ化企画進行中】  作者: 春の日びより
第二部学園編【鉄の薔薇姫】第四章・銀の翼に恋をする

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239 歪んだ聖戦 6

ダンドールパート

視点が変わりますのでご注意ください。




 アモルと第二騎士団の襲撃を躱したダンドール辺境伯とフェルドたちは、王都郊外にある屋敷へと駆け込むことができた。

「門を固めよ! アモルと反乱者どもはすぐに来るぞっ、戦の準備をしろ!」

『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!』


 先行していたロークウェルの報告によって、戸惑いながらも敵を警戒していたダンドールの騎士たちは、辿り着いた総騎士団長の命令にすぐさまあらゆる疑問を投げ捨て騎士として動き出した。

 この練度の高さがダンドールの強みであり、柔軟性に欠ける部分でもある。

 それを補っていたのが友人であるメルローズ家であり、メルローズ側に足りない戦力はダンドールが賄っていたが、現在は分断されて同時に襲撃を受けている。


「アモルめ……気が触れたように見えて、こしゃくな真似をする」

 ダンドール辺境伯は配下たちに指示を出しながら臍を噛む。

 おかしくなったように見えてもアモルは、辺境伯二家が平時であろうと協力させてはいけないことを知っていた。

 だがそれも教育を受けた王族ならば当然だ。クレイデール王国の成り立ちを知っているからこそ、ダンドールとメルローズを危険視した。


 そもそも辺境伯の知るアモルは決して無能ではなかった。ただ、有能でありそれ故に早世した前王弟に比べられたせいで、自己評価が恐ろしく低かっただけだ。

 そのせいで内向的になり、多少卑屈な性格になっていたが、あそこまで愚かではなかったはずだ。

 すでに王家からはアモル討伐の許可は得ているが、ダンドール辺境伯はそれがなくてもアモルを討つつもりだ。だが、不死者という未知の敵……それを成した【加護(ギフト)】を得たアモルも、おそらくすでに人間ではあるまいと考える。


 現在のダンドール側の戦力は、辺境伯自身が城から連れてきた第一騎士団の精鋭が五十名。ダンドールの騎士が三十余名。こちらで演習をしていた騎士たちもいる。

 数的にはアモルが率いている軍と大差はない。対人戦闘なら戦歴の多いダンドールに分があるだろう。

 だが、演習していた者たちはダンドール家の騎士に教導されていた若い騎士たちで、不死者と戦えば多くの犠牲が出るだろう。他の騎士たちも相手が不死者であることを考えれば、三倍の数がいても不利になるのは目に見えていた。

 それを打開するには――。

(あの者たちか……)


 黒い大剣を持つ偉丈夫――フェルド・タングス。今は家を出て姓は変わっていると聞いているが、彼は今でも貴族籍を持つタングス伯爵家の人間だ。

 若い頃からその卓越した剣技と身体能力は有名であった。お家騒動さえなければ騎士団の団長さえも任せられただろう。

(その力さえ無ければ今も彼は貴族として生きてきたのだろうか……)

 辺境伯はそう思いながらも、今はランク5で竜殺しの一人である彼がいることがありがたかった。


「フェルド殿っ、あらためて来てくれたことに礼を言う。反乱者たちをどう対処するか主な者を集めて話し合いを行うが、貴殿も来ていただけるか?」

「もちろんです。ですが閣下……」

「ああ……」

 微かに顔を顰めたフェルドの視線を追って、辺境伯も〝彼女〟を見るなり彼と同じような表情を浮かべた。


 レスター伯爵家令嬢、王太子の婚約者の一人、カルラ・レスター。

 まだ成人前の少女の身でありながら、すでに父であるランク5の筆頭宮廷魔術師と並び、王国でも屈指の魔術師として知られている。

 だが現実は時として噂よりも非情である。彼女を危険視する者は多かったが、彼女を調べた者はその事実に驚愕した。

 幼い頃より単独でダンジョンに潜り続けることで力を高め、王家のダンジョン攻略の際には王太子の婚約者の一人として参加して【加護(ギフト)】を得た。

 カルラは単純な戦力として、この国ではすでに父を超えた最強の魔術師と目されており、竜殺しの少女と並ぶ王国の最大戦力だった。

 だが、その精神性は危険極まりなく、それが知られても下手に罪に問うて反抗されたらどれほど被害が広がるか分からず、それに気付かず手を出した者はことごとく無残な死を遂げていた。

 彼女がこの場でも最大戦力なのは間違いない。だが、カルラが自由に振る舞えばこちら側の騎士にも被害が出るだろう。その前にある程度の話を付けておく必要があった。


「……あら、いかがなさったの? 総騎士団長」

 辺境伯とフェルドが二人でカルラの所へ赴くと、騎士たちの動きをつまらなそうに見ていたカルラが一瞬だけフェルドに視線を向けて、すぐにダンドール辺境伯へ言葉をかけた。

「レスター嬢、先ほどはご助力ありがとうございます」

 爵位としてはレスター家よりダンドールのほうが上だが、王太子の婚約者であるカルラは準王族としての立場にあり、頭を下げねばいけない相手だった。

「いいのよ。ただの人間には大変な相手でしょ? わたくしが全部相手をしてもよろしくてよ?」

 カルラの言葉に他意はない。単純に普通の人間は邪魔だと考えているのだろう。

 それに対してダンドール辺境伯は、わずかな間を置いて静かに息を吐く。

「……いえ、それには及びません」


 この場合は、爆弾のようにカルラを敵に放つのが正解かもしれない。カルラがどれほどの大魔術を使えるのか分からないが、騎士を前にさえ出さなければ被害が最小で抑えられるはずだ。

 だが――


「我々は王国の騎士です。この国を守る役目があり、そこにはレスター嬢……あなたも含まれている」

「へぇ……」

 ダンドール辺境伯の言葉にカルラの目がわずかに細められた。

 カルラがどれほど強くても、カルラはまだ少女であり、騎士団が守るべき王族の一人なのだ。それに……

「レスター嬢……無理をされてないか?」

「…………」

 辺境伯の指摘通り、カルラの顔色は姿を見せたときより酷く、死人よりも死人らしく見えた。

 ダンドールも中枢に関わる古い貴族だ。【加護(ギフト)】の対価も知っている。おそらく先ほどの戦闘でも【加護(ギフト)】を使わなかったのは、そうした理由があるのだろう。

 そんな辺境伯の指摘に薄く微笑んだカルラは、不意にフェルドに視線を向けた。

「そう言えば、そちらの方……あの〝猫〟ちゃんはどうなさったの?」


 上級貴族同士の会話の邪魔にならないよう言葉を控えていたフェルドは、突然話しかけてきたカルラに眉を顰めながらも律儀に答える。

「……ネロのことか? あいつは外にいる。人間と馴れ合うつもりはないようだ。アリア以外はな。そして俺もあいつと一緒に前線に立つつもりだ」

 今更、貴族同士の口調は必要ないだろう。アリアと同じ歳で、アリアと同等以上の戦闘力を持つという少女だが、アリア以上に気遣いは無用だと感じた。

 それでもカルラとアリアは、友人ではなくても分かり合えているような気がした。そのせいかカルラの滲み出る〝殺意〟に気圧されながらも、彼女に必要以上の恐怖は感じなかった。


「なるほどね……」

 言葉は違えど、暗に『余計なことをするな』と釘を刺す二人に、カルラは唇の端を上げるように笑うと、ローブを翻して屋敷へと続く石段に腰を下ろす。

「それなら、あなたたちに任せますわ。わたくしが出るようなことにならなければ良いけど」

「「…………」」

 もう会話は終わったと視線をどこかへ向けるカルラに、辺境伯とフェルドも目礼して背を向ける。

 何が目的でカルラがこちらに付いたのか判断できない。ただの気紛れかもしれず、アリアが関わることだからかもしれない。

 だがフェルドは、アリアから聞いていた印象と直に対峙した感触から、カルラには彼女なりの思惑があるような気がしていた。そして、カルラがアモルに追撃をせずに一度退いたことで、疑念は確信に変わりつつあった。


『敵軍を発見っ!!』

 その時、見張り台のほうから声が響き、フェルドと辺境伯が顔を見合わせる。

「話し合う時間も無かったか……。フェルド殿、お力を借りても良いか?」

「ええ、そのために来ましたから。俺も外のあいつも」

「……頼もしい限りだな」

 辺境伯としてはランク5もの幻獣が人に味方しているなど、心から信じ切れてはいなかった。

 それはネロも同様で、アリア以外の人間は基本的に信用していない。アリアに関わる人間にはある程度の敬意はあっても、共に在りたいと願うのはアリアだけだった。


『ガァアアアアアアアアア!!』

 城壁の外にいたネロはアリアとの約束を果たすために戦意を高める。

 本来ならネロはどのような状況でもアリアの傍らにいただろう。それがアリアの願いとはいえ、見知らぬ人間を守るために戦う理由は、己の力が足りないと考えていたからだった。

 脆弱な生物だと、ネロは人間を脅威と見ていなかった。どれほど研鑽しようとその肉体はネロの爪で容易く引き裂ける程度の生き物だ。

 だが、アリアは戦いの末にランク7の竜と戦い、ネロをも超える力を身に付けた。

 そして、あのカルラという人間もネロを超える力を持っている。

 今のネロではどちらも止められない。二人の戦いに介入もできない。アリアと共にいると願うのなら、彼女らを止められるだけの力が必要だと考えた。

 強者故の孤独は誰よりも知っているから……。


 それはフェルドも同じだ。運命と闘うために力を求め続けたアリアは、この大陸でも有数の力を持つに至り、彼女を止められる者は限りなく少ない。

 同等の力を持つカルラと決着をつけたあと、アリアがどう生きるにせよ、その力故に孤独にさせてはいけないと考えていた。

 そのためにフェルドは、せめて仲間がくれた竜角の大剣を自在に使いこなせるようになろうと、いまだに使いこなせていない大剣の柄を握りしめる。

「さて……行くか」

 そう小さく呟いたフェルドが辺境伯を追って城壁に駆け上がると、すでにアモルの軍は城壁前に集まり、こちらに武器を向けていた。


「ダンドールよ! 唾棄すべき古き血の者たちよ! 今こそこのアモルが鉄槌を下し、今こそ新たな血で王国を再生するときが来たのだ!」

「王族としての誇りさえもなくしたかアモルよ! お前が言う古き血の盟約により、このダンドールが王家を乱す敵を排除するっ!」


 戦口上を述べるアモルに対して、城壁の上からダンドール辺境伯が言葉を返す。

 かつてのクレイデール王国が、ダンドールとメルローズという二つの公国を平和裏に纏めた盟約――。王家が乱れたとき王家さえも討つという盟約があったからこそ、二つの辺境伯家は総騎士団長と宰相という二つの要職を任せられていた。

 その『排除』という言葉にアモルが眉尻をあげて辺境伯を睨めつける。

「者ども、ダンドールの首を討ち取れ!!」

 アモルの声と共に第二騎士団の騎士たちが動き出し、城壁よりダンドールの騎士たちが矢を放つ。

 だが、その矢を頭や胸に受けようと第二騎士団は止まらない。

『うぉおおおおおおおおおおおおお!!』

 ドォンッ!!

 巨大な丸太を抱えた数名の騎士が無数の矢を受けながらも正面扉にぶつかり、攻城槌が轟音を響かせる。

「やらせるか!!」

 それに対してフェルドが城壁から飛び出し、背中の大剣を引き抜いた。

「――【地裂斬(グランドスラッシュ)】――っ!」


 一閃――それだけで巨大な攻城槌が砕け散り、攻城槌を抱えていた数名の騎士をも引き裂いた。

 それでも再生しようと蠢く不死者たち。そこに城壁に上にいた魔術を使える者たちが【火矢】の魔術を撃ち込んでいく。

「がっ――」

 だが、その魔術師の首に第二騎士団から放たれた矢が突き刺さり、矢に限りがあるため控えてきた第二騎士団もなりふり構わず城壁へと矢を放ち始めた。


『ガァアアアアアアアアア!!』

 そこに飛び込んできた漆黒の獣がその巨体と鞭のような髭で矢を弾き飛ばし、再生しかけていた騎士を爪で叩き潰す。

「ネロっ!」

『ガァアア!』

 フェルドの声にネロが応え、その咆吼に怯える騎士の中から意思の消えた不死者たちがネロに飛びかかるが、その騎士をフェルドの大剣が鎧ごと上下に両断した。

「フェルド殿に続け!!」

 城壁の上にいた腕に覚えのある騎士たちが飛び降り、大盾をもって城門前を固め、手にしたメイスで再生途中の騎士たちを潰した。


「おのれ、冒険者と獣ふぜいが!!」

 少しずつだが削られ始めた手勢を見たアモルが、剣を持って飛び出した。

 キィン!!

「アモルっ!」

「フェルド!!」

 二人の剣がぶつかり合い、緋色の火花と音を響かせた。

 アモルとフェルドは学園の同期となり、直接話したことはなくても互いのことは知っていた。だがそれは良い意味だけではない。

「貴様も私の力を思い知るがいいっ!」

「なんだと!」


 フェルドはその恵まれた肉体と卓越した剣技により皆より慕われていた。その力故に学園を途中で辞めることになり、そんな彼を不憫に思いながらもアモルは、そんな男が王子である自分に向ける同情の瞳が嫌いだった。

 不幸なフェルドに、自分よりも不憫だと思われていることが、アモルの心に小さな傷を残していた。

 アモルはダンジョンの精霊に『負けない力』を求めた。

 倒れても倒れても立ち上がり、最後に勝利を得る、『物語に登場する英雄の力』だ。

 だがダンジョンの精霊は、その想いの源泉が幼い頃より比べられ、心が傷つき続けた卑屈さだと見抜いていた。


 ダンジョンの精霊は人を愛している。泣く子に好きなだけ飴を与えるように、精霊は慈愛をもって彼らの要望に応えた。

 ナサニタルという少年は、愛する少女を守るため……神を軽視するように人を殺す桃色髪の少女を退けるため、神の鉄槌を下せる力を求めた。

 だが精霊は、あらゆる対価を払ってもそれが不可能だと悟ると、【加護(ギフト)】の代わりに彼が求める最適な条件である『悪魔』を呼び出し、善意(・・)で彼に紹介(・・)した。

 そしてアモルには、この世の英雄が持つ要素を与えようとして、呼び出した悪魔に死人となる魔界の寄生虫を与えさせ、慈悲による【加護(ギフト)】によってあらゆる不安を感じない精神に作りかえた。


 強き【加護(ギフト)】は身を滅ぼす。

 ナサニタルは誰かを守るための神聖魔法を求めれば良かった。

 アモルは卑屈さを乗り越える心の強さだけを願えば良かった。

 強い願いが身を滅ぼすと知りながら、あの少女――リシアはそれを彼らに伝えることはなく、さらに煽り立てて彼らに望みの【加護(ギフト)】を取らせた。


「私は生まれ変わった! 逃げ出した貴様とは違う!」

「くっ」

 人とは思えぬ膂力で振るわれる剣をフェルドが捌く。

 剣技はフェルドのほうが上。何度もフェルドの大剣がアモルの身体を切り裂くが、その度に飛び散る血肉に混ざった寄生虫を躱さねばならず、その間に再生するアモルが徐々にフェルドを圧倒し始めた。

『ガァアア!』

 だがフェルドも一人ではない。

 周囲の不死者を討ち倒したネロが、隙を見てアモルに爪を叩き込む。

「ぐお……獣がっ!!」

 アモルが横に転がり、ネロに注意が逸れる。そしてフェルドもそれを見過ごす理由がない。

「――【斬撃(スラッシュ)】――っ!」

「ぐぉおおおおおおおおっ!?」

 ついにフェルドの戦技がアモルを捉え、脇下から心臓を抉るように上半身を斬り飛ばした。



アモルとフェルドの決着は? ネロの決意は?

そしてカルラの思惑は?


そうそう……コミカライズ5話が27日更新らしいですよ。(こっそり)

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― 新着の感想 ―
私は生まれ変わった > 転生したら蟲だった件。アモル左上とアモル左下に分裂したりするんだろうか?  嫌だなあ、斬っていくうちに殆ど蟲で構成されたアモル軍団とかになったらどうしよう? 斬るんじゃなく、カ…
[一言] タングス伯爵ってなんかこう……タングステンみたいな名前で硬そう? 平和になったらアリアにでっかい猫じゃらし持たせてネロの前で振ってみて欲しいw アモルこれ以上増えないと良いなぁ
[良い点] 大人がちゃんと大人してる話は素晴らしいですよね。 [気になる点] カルラさんの思惑。 アリアを本気で怒らせることだけはしないと思いたいところですがねぇ。 [一言] なんというか。 自分勝…
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