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乙女ゲームのヒロインで最強サバイバル 【書籍化&コミカライズ&アニメ化企画進行中】  作者: 春の日びより
第二部学園編【鉄の薔薇姫】第四章・銀の翼に恋をする

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228 開演前

今回は準備回です。



「……面白くない」

 王都のとある屋敷……陽の差し込まない暗い一室にて、一人の少女がぽつりと声を漏らした。

 子爵令嬢アーリシア・メルシス。王太子派閥により推薦され、聖教会とその本殿のあるファンドーラ法国に認められた聖女である彼女は、王都に出現した悪魔を倒したことで、民からもその愛称から『聖女リシア』として認められた。

 すべては〝正史〟に沿っている。正確に言うなら乙女ゲーム『銀の翼に恋をする』のエルヴァンルートに沿い、攻略対象者と共に大規模ダンジョンの攻略。そこで兵士たちを救うことで聖女と認められる流れとなるのだが、前提の違いから望むべき状況と変わっていた。


 本来のエルヴァンルートは、野外演習時にヒロインアーリシアが〝神聖魔法〟を咄嗟に使ったことで〝聖女〟ではないかと噂され、民から王妃となることを求められたせいで悪役令嬢クララがヒロインの暗殺を企てるのだが、クララはリシアが聖女となってから暗殺を仕掛けてくることはなかった。

 リシアは神聖魔法を使えない。自己愛主義の彼女は精霊に愛されることはなかった。

 リシアは神聖魔法で得られるはずの名声を、生み出した悪魔の眷属を倒すことで補ったが、本来なら味方になるはずのエレーナが敵対したことで、聖女を正妃に推すはずの貴族たちがリシアを認めなかった。


 その原因の一つとリシアが考えたのが、王女の護衛にいる〝桃色髪の少女〟だった。

 神殿騎士に彼女を襲わせ、聖教会との敵対を周囲に匂わせて排除しようと試みたが、その被害が主人に及ぶと察した彼女は姿を消し、影に紛れて聖女の派閥である貴族派の力を削ぎはじめたことで、リシアを正妃に推す声はさらに小さくなっている。

 あの少女が直にリシアを襲撃してくれたら、それを理由に王女の弱みを握れたかもしれない。そのために神殿騎士と上級悪魔(グレーターデーモン)を常に護衛に付けていたのだが、あの少女はそんな愚を犯すことなく搦め手で攻めてきた。

 だからといって襲撃がないとも限らない。そのせいでリシアはせっかくの駒である上級悪魔を上手く動かせずにいた。


「……〝教えて〟」

 リシアはお守り袋に入れていた半分欠けた魔石を握りしめ、欠けた鋭利な角がリシアの手を傷つけ微かな血を滲ませる。

 その〝魔石〟にはとある〝女〟の記憶と感情が込められており、様々なことをリシアに教えてくれた。リシアは自分を侵食しようとする〝情念〟に顔を顰めながらも、魔石の中の〝女〟の記憶と対話して必要な情報を選び出す。

「そう……そんな〝イベント〟があったのね」

 そんな呟きを漏らしたリシアが腰掛けるベッドで何かが身じろぐ気配がした。


「……リシア。どうした?」

「ううん、なんでもないの」

 リシアは無邪気な笑みを浮かべて、王弟アモルの胸に甘えるように縋り付く。

「私……聖女としてあまり認められてないから、悲しいな……って」

「そんなことはないぞ。もし、リシアが本当にそう思われているとしても、私がなんとかしてみせるさ」

「アモル様……」


 以前は誰からも認められず、ただ王族の数を確保するためだけに城に留め置かれて、鬱屈としていたアモルは、【加護(ギフト)】を得たことで性格が変わった。

 これまでと変わってその言動には自信に満ちており、細かなことを考えないようになった。それが良いことなのか悪いことなのか、周囲の評価で変わるだろう。

 そんな彼にリシアは蠱惑的な笑みを向け、アモルを押し倒すように身を寄せてその耳元で囁いた。

「それなら私、アモル様にお願いしたいことがあるの……」


   ***


「うぉおおおお!!」

 叫びをあげながら振るう男の短剣をそっと素手で逸らし、黒いナイフの切っ先をめり込ませるようにして頸動脈を掻き斬った。

「クレイデールの狗が……っ!」

「知っている」

 最期に呻きをあげる男にとどめを刺し、周囲を確認して私もそっと息を吐く。


 ソルホース王国の暗部らしき者たちの根城を襲撃して全員を始末した。

 〝草〟と呼ばれるその地域に長期間住民として紛れ込む間諜だが、暗部の目を欺くことはできなかった。クレイデール王国の暗部は人員こそ少ないがこういった情報戦では他国の暗部をしのいでいる。

 ハーマン商会を潰してから数週間が過ぎて、それから貴族派の資金源を幾つか潰してきた。その途中でクレイデール王国の暗部とも接触して、情報を貰いながら暗部では手を出しにくい他国の拠点を襲撃している。

「……めぼしい物はないか」

 他国の間者である証言が取れたが、貴族派と通じている証拠はさすがに残してはいなかったようだ。それでも探せば何か出てくるか。一応、制圧が終わった頃に暗部の連絡員が来るはずだが……


 タンッ!!

 背後の窓に向けて投擲ナイフを放つと、ナイフが突き刺さった窓枠の後ろに人影が揺れる。……この地域にいる暗部の人間じゃない。少なくとも私と接触した暗部よりも実力は上に感じた。

 一瞬で戦闘状態に意識を切り替え、隠れていた窓枠を分銅型のペンデュラムで粉砕すると、そこから外套を纏った人影が飛び出してきた。

 戦闘力300ほど。それで斥候職だとすると逃がすと厄介だと考え、即座にダガーとナイフを構えて飛び出そうとした私にその影が声を張りあげた。

「待って待ってっ、アリア!」

 その聞き覚えのある少年らしき声に私も思わず手を止める。

「……セオ?」

「そうだよ! だから攻撃しないでっ、普通に死ぬから!」


 どうやら私と接触した暗部が連絡したみたいで、セオが王都からの連絡員として来てくれたらしい。

 セオはすでにあの子爵令嬢である聖女の護衛任務を解かれている。宰相やミハイルが協議をした結果、セオを間者として動かすよりも、精神的な影響を受ける可能性が高いと判断されたからだ。


「久しぶり。それで情勢はどうなってる?」

「僕、いま殺され掛けたんだけど!? ……まぁ、アリアらしいけど」

 普通に対応したら何故か拗ねられた。それでもセオは周囲に敵が残っていないことを確認して、息を吐くように口を開く。

「こっちの情勢は、まずアリアが貴族派の資金源を潰している影響で、こちら側につく貴族家も増えてるよ。それと王女殿下が言うには、二ヶ月後の卒業パーティーまでには〝準備〟を終えるって」

「…………」

 エレーナがそう言ったのか……。

 それをわざわざ信用のあるセオを寄越してまで伝えさせたのも、エレーナが微かな自分の〝望み〟をその言葉に含ませたかったのだと思った。

 エレーナは私が学園に戻ることができる状況を作ろうとしている。

 私がエレーナの護衛に就くのは、最短で王太子が卒業するまでとなっていた。情勢によって期間がずれることもあるけど、王太子を追い落とした後なら、私がずっと護衛に就くような事態にはならないはずだ。

 彼女の側に戻りたい気持ちはある。けれど、エレーナが女王となることを考えれば、セラのように侍女として側にいるよりも今回のように〝影〟として動いたほうがいいと合理的に考える自分もいた。


「それと……これが本題なんだけど」

 無言で考え込んだ私に、セオが微妙な顔つきで一拍置いてから、真面目な顔で話を続けた。

「これはダンドール家からの話というか、王女殿下だけの話じゃないんだけど、第二騎士団の一部で少しおかしな動きがある。武器や装備を集めているというか、まるで大規模な戦闘の準備をしているみたいな感じなんだ……」

「……なるほど」

 ダンドール家ということは騎士団絡みで、総騎士団長であるダンドール家当主の統制が取れていないというのは――

「王弟殿下?」

「うん」


 聖女を擁護する派閥で急激に力を付けてきたのが、王太子派閥と思われていた王弟アモルだ。これまで常に聖女の側にいたナサニタルの姿が消えたことで、その代わりに目立っているだけかと思われていたが、アモルの第二騎士団掌握はかなり進んでいたらしい。

 でも……あの人はそんな人物だったか?


「了解、私も一度調べてみる」

「うん。アリアもあまり無理はしないでね!」


 これは暗部の任務ではなく騎士団の仕事になるだろう。でも、王弟アモルの変わりように、私は心のどこかに引っかかるものを感じていた。


   ***


「……お嬢様。ご要望の情報が揃いました」

「そこに置いていいわ」


 王宮にある王妃宮の一室にて、書類をサイドテーブルに置いた老執事が一礼して退室すると、その少女は閉じていた目を薄く開いて、紫色の瞳を覗かせた。

 死人のような白い肌。生気のない黒い髪……。生きているかも疑いそうになる死体のような少女は、膨大な魔力を漲らせる瞳に書類を映すと、上から一枚ずつ魔力で飛ばしながらその内容を確かめた。

「……ふふ」


 自分はいつまで生きていられるのだろう?

 医者は大人になるまで生きていられるか分からないと言っていた。

 自分の寿命はどれほど残っているのだろう?

 【加護(ギフト)】さえ使わなければ二十歳程度までは生きていられたかもしれない。

 でも、そんな人生に意味はあるのか?

 幼い頃から死ぬために生きてきた。

 死ぬことだけが希望であり、そんな歪んだ人生の幕引きに関わった人間すべての命を求めた。


「でも、もうそれもどうでもいい」


 彼女に出会ってしまったから。自分を止めてくれる彼女を見つけてしまったから、彼女と殺し合い、彼女に殺されることだけが希望になった。

 自分は彼女以外に殺されない。

 彼女は自分以外に殺させない。

 道連れで殺そうとしたこの世界も、すでに彼女と自分が殺し合うためだけの〝舞台〟としての価値しかない。

 だからこそ、悪魔を見逃した。偽物の聖女や、愚かな取り巻きどもも、舞台装置(・・・・)として殺さずに残しておいた。

 ただ、その単なる舞台装置が開幕前に舞台を壊すことは許されない。


おいた(・・・)をした子どもは叱りにいかないとね」


 最後の舞台が整いはじめた王都という戦場で、〝悪役〟令嬢カルラが静かに動き始めた。



動き始める少女たち。すっごい迷惑w


いよいよ物語も終盤です。もう少しお付き合いお願いします。


BOOKWALKERさまの電子版先行配信が始まりました! 紙のほうもあと十日で発売です!

皆さんよろしくお願いしまーす。

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― 新着の感想 ―
あー、ようやっとカルラ偽ヒロイン殺すんだ まあ、そりゃそうよね あんな変なの邪魔だよね まあ、おかげでアリアは単独行動することになって強くなりそうだけど…
セオ生きとったワレ! 最後の姿が偽ヒロインの所に戻る的なセリフだったから、心配してたけど影響出る前に護衛解任されたようで安心しました。 カルラが出てくると癒しと安心感が凄いw
 カルラさんやっちゃって下さい!(小者臭  見えてる世界や次元が周囲とかけ離れているのに同じ世界に居続けるから周りは大変だろうなあ(棒
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