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123 貴族派の陰謀 ⑨



『グルルゥ』

 突然森の奥から現れ、(あお)(がら)(ぐま)と第二騎士団の騎士数人を火だるまとした少女に、ネロはこの場にいる何よりも危険なものを感じて、耳から伸びた鞭のような触角から火花を散らしながら警戒の唸りをあげる。

 ネロから視たその強さは、自分が見守ると決めた“桃色髪の少女”と同じくらいだろうか? だが、あの少女が内に秘めた“力”と同様に、この病的な姿をした少女からも秘めた異様な“力”を感じた。

「うふふ」

 警戒するネロを見てその少女――カルラは長い黒髪を指で掻き上げながら、病的な顔色で愉しげに目を細める。

 カルラは幼い頃より詰め込まれた膨大な知識により、目前の獣が幻獣クァールだと見抜いていた。ランク5の危険な魔物で、現在ランク4である自分よりも戦闘力で上の相手ではある。だが、戦闘力はただの目安であり、他者を殺すためだけに鍛え続けてきた自分の魔術を試す相手として、充分な能力を持っていることがカルラの口元に笑みを浮かべさせていた。

 途中で見かけて襲ってきたこの辺りを縄張りとしているらしい蒼殻熊は、討伐難易度こそランク4相当と高いが、カルラの力量さえ見抜けなかった愚かな獲物だった。どうしてここに居るのか不明だが、それ故に、自分を警戒する知性を持つクァールの出現にカルラは自分の殺意の高ぶりを感じて歓喜する。

「いらっしゃい、子猫ちゃん」


【カルラ・レスター】【種族:人族♀】【ランク4】

【魔力値:425/530】【体力値:34/52】

【筋力:7(8)】【耐久:3(4)】【敏捷:12(14)】【器用:9】

【体術Lv.2】

【光魔術Lv.3】【闇魔術Lv.3】【水魔術Lv.4】【火魔術Lv.4】

【風魔術Lv.4】【土魔術Lv.3】【無属性魔法Lv.2】

【生活魔法×6】【魔力制御Lv.4】【威圧Lv.4】【探知Lv.2】

【異常耐性Lv.2】【毒耐性Lv.1】

【簡易鑑定】

【総合戦闘力:1030(魔術攻撃力:1545)】

加護(ギフト)魂の茨(ソウルソーン)


【ネロ】【種族:クァール】【幻獣種ランク5】

【魔力値:224/280】【体力値:465/510】

【筋力:20(30)】【耐久:20(30)】【敏捷:18(27)】【器用:7】

【爪撃Lv.4】【体術Lv.5】【防御Lv.4】

【無属性魔法Lv.4】【魔力制御Lv.5】

【威圧Lv.5】【隠密Lv.4】【暗視Lv.4】【探知Lv.5】

【毒耐性Lv.4】【斬撃刺突耐性Lv.5】【異常耐性Lv.4】

【総合戦闘力:2136(身体強化中:2704)】



「こ、この女はっ!?」

「レスター伯爵の娘だっ! 気をつけろ、こいつは――」

 生き残った騎士たちが乱入者の正体に気づいて剣を構えるが、それを見てカルラは邪魔だとばかりに軽く腕を振る。

「――【竜巻(ハリケーン)】――」

 レベル4の風魔術【竜巻(ハリケーン)】が放たれ、その風の渦に巻き込まれた騎士たちが無数の小さな刃に切り刻まれた。


『グァオオオオッ!!!』

 その瞬間、様子を見ていたネロが一瞬で飛び出し、カルラに牙を剥く。

 魔物であるネロは【鑑定】スキルを使えないが、そもそも鑑定とは眼で見て耳で聞きとり、己の五感で対象の能力を感じて数値化するスキルである。下位の魔物ならいざ知らず、上級の魔物ならばスキルに頼らなくてもある程度は鑑定に近い数値を読み取ることができた。

 それによって感じられたカルラの魔力値は、幻獣のネロから見ても驚異的なものだったが、体力値は人間種の子ども並みしかなく、ネロの爪が掠めただけでも容易く致命傷を与えられる――はずだった。

『ガッ!』

「ふっ!」

 その瞬間、カルラの身体から膨大な魔力が噴き出してその身体がふわりと浮かび、風に舞う木の葉のようにネロの爪を避けてみせた。


 身体強化で攻撃力だけでなく耐久力のような防御能力が上昇するのは、魔力そのもので肉体を覆っているからだ。それによって直接攻撃だけでなく、攻撃魔術にも耐性を得ることができる。そして上級の魔術師が身体強化を使用するのは、直接攻撃を避けるためだけでなく、身体強化の応用で肉体を強い魔力で包み、物理以外の耐性を上げるためでもあった。

 だが人間種の魔力には限界がある。長い寿命を持った妖精族のエルフでもその魔力は下級精霊にさえ届かず、たとえ魔力制御を使えたとしても戦闘時に攻撃を避けながら魔力を制御するには、尋常ではない胆力を必要とした。

 カルラは【加護(ギフト)】を得たことで、膨大な魔力に慣れた身体は通常時でも限界以上の魔力を保持することができている。すべてを敵と定め、単独で戦い続けてきたカルラは、膨大な魔力を全身に纏い、戦闘中でも心を乱すことなく制御して移動にさえ活用できるようになっていた。

 それでもランク4の魔術師がランク5の魔物の攻撃を避けることは至難の業だが、カルラは事前に使っていた風魔術の余波さえ使い、ネロの攻撃を避けてみせたのだ。

 それが総合戦闘力には表れない、心と知恵の強さだった。


「――【火炎(ファイア)(ジヤベリン)】――」

 宙に浮かんだままのカルラが真下を通り過ぎるネロに魔術を放つ。

 斬撃刺突耐性を持つクァールにとって警戒するべきは攻撃魔術だ。だがそれも間合いさえ詰めれば対策もある。

『ガァアアアッ!!!』

 ネロの触角が電気のような火花を散らして魔術を阻害すると、放たれた火炎槍が掻き消え、その衝撃にカルラが顔を顰めた。

 ガガガッと大地に傷を刻むように爪を立て、そのまま通り抜けたネロが反転すると同時に、距離を取れたカルラが宙を舞いながら再び魔術を放つ。

「――【氷槍(アイスランス)】――」

 氷系の魔術を喰らえば低温によって行動が阻害される。それでもネロは、放たれた氷槍を身体能力と感覚だけですべて回避したが、その回避した先に火だるまとなって暴れ回る蒼殻熊がいた。

『グァアアアアッ!!』

 そちらに追い立てられたネロに蒼殻熊が襲いかかり、そこにも氷槍が降りそそぐ。

『ガァアアアアアアッ!!!』

 だがネロは一瞬の躊躇もすることなく火に包まれた蒼殻熊の咽に喰らいつき、自分と同じ大きさもある蒼殻熊を振り回すようにしてその首を砕くと、そのまま氷槍の盾にした。蒼殻熊を盾にして突撃してくるネロという強敵に、カルラは狂気にも似た凄惨な笑みを浮かべる。


「――【魂の茨(ソウルソーン)】――」



【カルラ・レスター】【種族:人族♀】【ランク4+2】

【魔力値:∞/530】【体力値:26/52】

【総合戦闘力:1030(特殊戦闘力:2957)】

加護(ギフト)魂の茨(Soul Thorn) Exchange/Life Time】


   ***


「俺と戦え、灰かぶりっ!!」


 ギルガンの猛攻を躱しながらその部下を殺していく私に、ギルガンが怒りの叫びを上げた。

 追撃してくるその一撃が怒りと焦りで徐々に雑になっていく。ギルガンからしてみれば、私がギルドを壊滅させるような危険な敵だと理解していても、ランク4という格下の相手に手玉に取られていることが我慢できないのだろう。

 ここまでの観察でギルガンは、部下を統率する力量があり、暗殺者ギルドの中央支部が避けた依頼を受ける行動力がある。だがそれを違う方向から見れば、部下の命を預かるギルドマスターとは思えない軽率さと傲慢さを感じた。

 そういう人間は我慢に対する耐性が低い。焦りと苛立ちは技の精度を下げる。

 彼の大振りな一撃を挑発するように軽業で避けると、スカートの裾が切られてわずかに私の足に絡まった。


「死ねっ! 【十字斬(クロスブレード)】っ!!」


 その一瞬の隙を見てギルガンが戦技を放つ。確か短剣術の【二段斬り】と同じ二回攻撃の戦技だったはずだ。違うのは【二段斬り】が攻撃力を高めるために飛距離が短くなったのに対して、【十字斬】は重なった中心部の威力だけを残した飛距離を得るための戦技だった。

 確かにこの状況では最適だ。だけど、私がギルガンの技の荒さに気付けたように、彼の短気さを知っている部下たちは巻き込まれることを恐れて動きが鈍り、怒りで視野の狭くなったギルガンはそれに気付いていなかった。


「ぎゃあああっ!!」

「なっ!」

 私がそのまま背後に倒れるように躱すと、【十字斬】がその背後にいた最後の部下を斬り裂き、ギルガンが思わず声をあげた。

 その瞬間に倒れた方向に蹴り上げるようにして回転した私は、翻った長いスカートを目眩ましにして腿から抜き放ったナイフを投擲する。

「ちっ!」

 キキンッ!

 すかさず我に返ったギルガンが戦技を撃った硬直から回復して、わずかに掠めながらもギリギリで急所を狙ったナイフだけは鉈で弾く。

 その瞬間には絡まった裾を引き裂きながら飛び出していた私が【刃鎌型】のペンデュラムを振り下ろす。だがギルガンはそれを手甲で弾きながら、振り上げるように下から鉈で斬りつけてきた。

 最初から間合いを取っていた私が下がるようにそれを避けると――


『あああああああああああああああああああああっ!!』


「っ!」

 突然ギルガンが雄叫びを上げ、私の身体が一瞬硬直する。【威圧】じゃない。でも私の【幻痛(ペイン)】と近いスタン系のスキルだと推測できたその時、目前のギルガンが鉈を高く振り上げた。


「――【鋭斬剣(ボーパルブレイド)】――」


 レベル5の戦技【鋭斬剣(ボーパルブレイド)】が放たれ、幾重もの不可視の斬撃が私を襲う。

 一度目は掠めながらもギリギリ避けることができた。だが、この至近距離で二度目を躱すのは不可能に近い。もちろんギルガンもそう思っているだろう。だからこそ私も、『次に戦技を撃たれるのならこのような場面』だと、そう“確信”していた。

 先ほどの【雄叫び】は【幻痛(ペイン)】ほど硬直時間が長くない。一瞬の硬直から立ち直り、さっき引き千切ったスカートの裾を前方に放ると、斬撃の来るわずかな風圧に布がわずかに揺らぎ、一度目の斬撃からも想定していた“剣撃の隙間”に頭から飛び込むようにして躱しながら、戦技の硬直で動けないギルガンにペンデュラムの刃を投げつけた。

 だが――

『ぐぉおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!』

 ギルガンがまた【雄叫び】をあげ、全身からブチブチと筋肉が切れるような音を立てながら血を噴き出すようにして、顔面に放たれたペンデュラムの刃を避ける。


「……やってくれるじゃねぇか」

「…………」


 ギルガンが血塗れの顔で牙を剥くように笑う。おそらくは『声』系のスキルを有しているのだろう。生死を賭けた一瞬の隙を突いた攻撃でもギルガンは倒せなかった。

 やはり決め手が薄い。部下を倒して一対一の状況を作り、その過程で敵の集中力を乱して技の精度を下げる程度では、たとえ互角にまで持って行けたとしても決め手には足りない。

(ならどうするか……)


 ドドォンッ!!!


 その時、離れてきた場所から魔術の爆発音らしき音と衝撃が響いた。

 ギルガンに視線を向けたまま耳を澄ますと、ネロの咆吼と微かに知っている声が聞こえた。

「なんだっ、あの音はっ!」

「さあな」

 状況が見えないギルガンの声に軽く答えると、そのまま背後のネロとアイツが戦っている場所に向けて飛び出した。

「どこに行く、灰かぶりっ!!」

 移動を始めた私にギルガンが投擲ナイフを放ち、私は後ろに下がりながら【分銅型】のペンデュラムでナイフを弾きながら、背後から飛んできた“流れ弾”を避けると、飛んできた【火球】は私とギルガンの間で炸裂した。


「ぐぉおおおおおおおおおおおっ!?」

 撒き散らされる炎に、腕を焼かれながらも回避したギルガンが飛び出してくる。私もとっさに張った【魔盾(シールド)】も破られ、熱と衝撃でダメージを受けていたが、そこでペンデュラムを仕舞い、黒いダガーとナイフを構えた。


「ここが私たちの戦場だ」


 ギルドを潰した私の戦い方を見せてやる。



次回、貴族派の陰謀 決着。


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― 新着の感想 ―
根本的にランク5って組織のトップには向かん人種だなあ ここまで上り詰めるための素養にある種の狂気を内包する必要があるみたいだし 少数で動く冒険者パーティーの統率くらいならともかく、ある程度の規模の組織…
ギルガン! 貴様、何度アリアの下着を見たんだ!?
[一言] 「……ここが私の戦場だ」注:打ちきりではありません!
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