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乙女ゲームのヒロインで最強サバイバル 【書籍化&コミカライズ&アニメ化企画進行中】  作者: 春の日びより
第一部放浪編【殺戮の灰かぶり姫】第一章・ヒロインは運命に抗う
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12 魔術の習得



 さて【光魔術】の訓練をしよう。

 魔術呪文は基本的に、スキルレベル2……魔術でいうと『第二階級』以上の魔術は、あの女のように師匠に弟子入りして習うか、魔術師ギルドに入門して欲しい魔術を買って教えてもらうしかない。

 例外として貴族は魔術学園に入るので、基礎的な魔術はそこで教えてもらう。

 なら属性も分からないのにどうやって初歩の魔術を学ぶのか? それはレベル1である第一階級の魔術だけは、魔術師ギルドが魔術師を増やすために本にして売り出しているので、それで覚えるみたい。

 それでも学術本だから小金貨5枚はするんだけど、貴族はそれを買って親が子供に基礎を教えるのが普通らしい。

 あの女の師匠の所にもその本があって、あの女は授業の一環としてそれの写本を命じられていた。……あの女は独り立ちするとき、速攻で売り払ったけど。


 属性魔法の修行は、呪文を正確に覚えて正確に唱えることから始まる。

 それと並行して呪文の意味を覚え、その意味が世界にどう影響するのか理解しないと呪文は発動しない……とあの女の師匠は言っていた。

 まず『呪文』は、精霊が世界に干渉するための言語である『精霊語』を、古代エルフが人でも使えるように簡略化……まぁ、はっきり言うと劣化させたものみたい。

 人が使えるようにしたといっても元は思考形態さえ違う存在の言語なので、人が理解するのは何ヶ月も……下手をすると人によって数年かかるそうだ。

 あの女は自分が使っている呪文の意味さえうろ覚えだったけど、光魔術の呪文だけは意味も(理解できなかったけど)覚えていた。


 第一階級の光魔術は、【回復(ヒール)】と【治癒(キユア)】の二つなので、軽くお復習い。

 【回復(ヒール)】は体力を回復させて、身体の傷も強引に自然治癒させてしまう。なので知識の無い人が使うと、骨が曲がったままくっついたり、傷跡が酷く残ったりする。

 【治癒(キユア)】は自然治癒ではなく再生に近い。傷を完全に治療して痕も残らないけど、範囲が狭くて時間もかかり、深い傷を無理に癒すと体力を消費して瀕死になったりもするらしい。

 まぁ、一般的な怪我なら【回復(ヒール)】で済んでしまうので、フェルドのように【治癒(キユア)】を覚えていない人もいるのが実情だ。


 【回復(ヒール)】の呪文は――

『リティーワールストリザヒィカー』

 その意味は、『その対象を癒せ』になるらしい。

 ……呪文が微妙に長くない? 人の言葉にすると短いのに呪文は長いのには何か意味があるのだろうか? 精霊語を人が使える単語にしたので無理が出たのかな?

 【治癒(キユア)】の呪文は――

『リティーシュワールボルデアンオストーリーステン』         

 その意味は、『身体を元に戻す』となる。


 ……どちらも微妙に覚えづらい。あの女の“知識”だと微妙な発音の違いで魔術が発動しない時があったそうだ。

 唱えるときに韻を踏むと発動しやすいとかあったみたいだけど、最終的な答えはあの女の師匠が口うるさく言っていたことが正解だと思う。

 『呪文の意味を正しく理解して正確に唱える』。

 とりあえず一度唱えてみよう。幸い……というべきだろうか、森生活で細かい傷なら事欠かない。


「……リティワールストリザヒカー……」


 ……少し違う? 案の定それらしき魔術の発動もないし、鑑定水晶で視てみても魔力は減っていない。

 通常は最後に【回復(ヒール)】と唱えるが、『ヒール』は精霊語ではなく共用語で、呪文の一部ではなく『発動ワード』だ。要するによりイメージを明確化するために唱えるモノで省略しても構わない。

 それでも無属性魔術でも【身体強化】はともかく、【戦技】はほとんどの人が声に出さないと発動しないらしいので、慣れないうちは付けたほうがいいのかも。

 発音が悪かったのか、意味の理解が足りないのか、最初の詠唱は失敗した。

 それから何度か少しずつ発音を変えながら、最後に『回復(ヒール)』をつけたりして試してみたけど、まだ【回復(ヒール)】の魔術は発動の兆候さえ見られない。

「…………」

 少し“知識”を探ってみる。

 あの女の師匠が使っていた【回復(ヒール)】とフェルドの使っていた【回復(ヒール)】は同じモノだけど、思い出してみると発音の印象は若干違う気がした。

 フェルドは使えるまでに半年ほどかかったと言っていた。その間にやったことは、呪文詠唱の反復練習だけだったらしい。

 それでどうして使えるようになったのか? やはり発音を繰り返すことで正確な発音を覚えていくのだろうか? うろ覚えだけどフェルドが使った【回復(ヒール)】とあの女の師匠が使った【回復(ヒール)】を思い出して比べてみる。

 ……わずかだけど差違がある……気がする。実際、あの女が覚えていた呪文よりも師匠が唱えた呪文は、部分的に若干短い部分があったような気がした。

「……もしかして」

 ……呪文を短縮している? それでも発動するの?


 一つ仮説を立ててみた。私が使っている人間種の共通語でも、地域によって若干違っていたり、生活の中で言葉を短くしていたりする。

 正式な文章ではないけれど、話す側と聞く側がどちらも正確な意味を知っていれば、短縮された言葉でも意味は通じるのだ。

 だからこそ呪文の詠唱には『意味を正しく理解する』必要があるのだろう。

 多分、古代エルフが伝えた呪文は、『正しい文章』になっていたはずだ。それがどうして短くされたのか……きっと“長すぎた”からだ。

 正確に言うなら、普段使いに長いと“面倒だから”短縮されていった。

 その過程で『正しい文章』は“古文”のように使われなくなってしまったのかもしれないけど、それは悪いことばかりではない。

 現在の共用語の単語でさえ間違って覚えている人もいる。正しい意味が分かりにくくなった反面、意味を正しく知っている人ほど意味が分からなくなり、『会話』として失敗という結果になるけど、ちゃんと意味を理解できているのなら、現代の言葉のほうが古文よりも多くの表現が可能になるはずだ。

 魔術はそうやって進化と退化をしてきた。

 覚えにくく間違えやすくなった反面、一度きちんと理解できれば、原初の魔術よりも使いやすくなっているはず。


 ここまでは前提で、ここからが私の仮説になる。

 呪文も最初は『文章』だったはずだ。それがどのように変化したのか?

 たとえば共用語で『その人の身体にある怪我を全て治療して癒せ』とする――これが、

『その人にある怪我を治療して癒せ』――になり、

『その人の怪我を治療して癒せ』――になって、

『その人にある怪我を癒せ』――から意味が分かりづらくなり、

『その人を癒せ』――になってしまった。


 ……我ながら極論で強引すぎるけど、似たような現象が起きたのではなかろうか。

 状況と発音次第ではギリギリ意味は通じる。でもそもそも意味さえ分かってないと、わずかなアクセントでただの意味の分からない“音”になってしまう。

 ――と、仮説を立ててみたけどどうだろう?


 もちろん呪文を覚える上で、フェルドのように反復練習で“それらしい発音”になるまで繰り返して覚える方法もある。

 でも私はその方法に不安を感じていた。だって自分で何を言っているのか分からない言葉なんて、間違っていることにさえ気付けないから。

 生きるためには“力”がいる。

 私は女でしかも子供だ。通常の……フェルドのような恵まれた体躯を持つ男性と同じことをしていては、いつか大事な場面で負けてしまうと思った。

 手段は選ばない。強くなる。それが少しだけ遠回りになっても、私は自分の力で本当の強さを手に入れたい。


 【回復(ヒール)】の呪文――『リティーワールストリザヒィカー』が文章だと仮定すると、幾つかの単語で区切られているはず。

 その中でも単語そのものが短くされたもの。前の単語と後の単語が混ざってしまったものもあるはずだ。

 他の呪文が分かれば類似点を捜して研究できるのだけど、あの女は光と火と水の第二階級までの呪文しか知らなかった。そこまで覚えていれば大したもんだと言ってあげたいが、あまり使わない呪文は覚えていなかったのであまり褒められない。


 呪文の習得方法を変えてみる。

 まずは呪文の中に紛れている“単語”を捜す。とは言っても、闇雲に唱えても正解しているかどうか分からないので、確実に存在する単語――『癒す』を捜すことにした。

 呪文である『劣化精霊語』は、ただ唱えるだけでは効果はない。ちゃんと意味を理解して声にするのはもちろんだけど、言葉に魔力を乗せる必要があった。

 これはやってみるとそんなに難しいことじゃない。習い始めた魔術師には難しいのかもしれないけど、要するに体内の魔力を活性化させれば、行為そのものに魔力が含まれるようだ。

 私の場合は、全身の魔力を流している身体強化状態がそれに近い。最終的には身体強化なしでも活性化できる必要はあると思うけど、私は身体強化や戦闘訓練と並行して呪文の単語を捜すことにした。


 【回復(ヒール)】の呪文の中から単語らしきものを抜き出して、『癒す』と念じながら唱えてみる。

 失敗しても気にせず何度も繰り返す。ただそのために戦闘訓練が適当にならないように注意しながら、丁寧に身体を動かし、『癒す』と念じて声に出す。

 一日目は何の成果もなかった。そもそもそんな簡単に見つかるとも思っていなかったけど、精神集中と身体の同時鍛錬は思ったよりも負荷がかかったようで、その日は泥のように眠り込んだ。

 二日目も成果無し。多分だけど、発音するのに足りない文字がある。現在だと『癒す』の『イヤ』しかない状態かもしれないので、色々な音も混ぜてみる。

 三日目、成果なし。ただし、体力が少し下がって、最大体力値が1増えた。

 四日目、同時にこなすことに慣れてきた。成果はないけど、魔力が少しだけ消費されているのに気づく。

 五日目、魔力を消費した単語を探す。魔力を常時使っているせいか、身体強化や生活魔法の効率が上がった気がする。

 六日目、この方法で本当に単語が探せるのか不安になってきた。

 そもそも簡単に単語が見つかるなら他の魔術師が見つけているだろう。そんなことを考えていたせいか、兎の骨で指先を切ってしまった。痛い。

 七日目――


「リティル・ヒィカー」


 そう『声』にした時、手から光属性の魔力がわずかに光る。

 ……私は考え違いをしていた。【回復(ヒール)】の呪文に『癒す』という単語は存在しない。

 私は【回復(ヒール)】を治療魔術だと思い込んでいた。ほとんどの魔術師に聞いてもそう答えると思う。でも違う。【回復(ヒール)】の効果を思い出すと、体力が回復すると同時に傷が塞がって徐々に治っていく。

 そう……これは回復呪文。体力を戻す過程でついでに怪我が治っているだけだ。

 『リティル』と『ヒィカー』――これは、ほんのわずかだけど魔力が消費された単語だった。同じような単語はまだあったけど、この二つを合わせることでようやく魔術らしい効果が発動した。

 おそらくだけど、この二つの単語で『癒す』に該当する単語になる。

 でも正確じゃない。もっと違う意味がある。【回復(ヒール)】の魔術が回復効果だとすると、『体力』? それとも『生命力』? それを使った言葉があるとしたら……『戻る』かもしれない。『体力』を『戻す』? ……唱えた感じだと『リティル(戻す)』『ヒィカー(体力)』になるのかも。


 それから少しずつ発音を変えて、意味を類似語に変えて何度も繰り返す。

 地味に魔力が消費されるせいで魔力を使った身体鍛錬ができなくなったけど、今は魔術に集中した。

 そしてその二日後――


「リティール・ワールストリザ・ヒィカー……【回復(ヒール)】」


 そう呪文を唱えると手がわずかに光り、数日前に怪我をした指先から小さな傷が消えていった。

「…………出来たっ」

 まだ意味が完全じゃないし、魔術の効果も薄いけど確かに【回復(ヒール)】が発動し、鑑定水晶で視た私のステータスに【光魔術Lv.1】が追加されていた。



【アリア(アーリシア)】【種族:人族♀】【ランク1】

【魔力値:24/65】13Up【体力値:32/37】1Up

【筋力:3(3.3)】【耐久:4(4.4)】【敏捷:5(5.5)】【器用:6】

【隠密Lv.1】【暗視Lv.1】

【生活魔法×6】【光魔術Lv.1】New【無属性魔法Lv.1】

【魔力制御Lv.1】【探知Lv.1】

【総合戦闘力:26(身体強化中:28)】2Up


   ***


 サース大陸の中でも大国であるクレイデール王国は、150年前に北方のダンドール公国を併合し、続いて120年前に南方のメルローズ公国までも併合した。

 だが、けして平和的に併合したのではなく、政治や経済面で圧力をかけ続け、最後には軍事力で威圧することで、クレイデール王国が二国を“侵略”した形になる。

 その二つの公国――ダンドールとメルローズの王家は潰されることも殺されることもなく、北方と南方を纏める『辺境伯』という形で残されることになった。

 二つの王家が残されたのは、政治的な問題である。各分野でその二国を上回っていたクレイデール王国だったが、力尽くで侵略して管理するほどの軍事力はなく、その地の民と貴族家の不満を抑えるには、ダンドールとメルローズの旧王家の力と“名”が必要だったのだ。


「どうしよう……ここ、『銀恋』の世界だ…」


 旧王家の一つ、ダンドール辺境伯の孫娘であり、ダンドール辺境伯嫡子の第一令嬢である八歳の少女は、数日間高熱に冒され、目を覚ました時には今までの自分とは違う、『前世』の記憶を取り戻していた。

 八歳まで生きた自分の記憶も自我も残っている。その上に前世の“自分”が混ざりあい、混乱状態からようやく事態を理解した。

 クララ・ダンドール辺境伯令嬢、八歳。十三歳で魔術学園に入学し、卒業パーティーにて婚約者である王太子から婚約破棄され、国外追放か、最悪の場合“処刑”されることになる『悪役令嬢』であった。

 自分がその『クララ』である事を理解した元は高校生だったクララは、記憶にあるゲームの知識をメイドの目を盗んでノートに書きだし、最悪の結果を回避するため数週間も悩んだ結果、一つの答えを導き出した。


「………ヒロインを殺すしかないのかも」



クララは、ある意味一般的な『悪役令嬢』です。

悪役令嬢はもう一人出る予定です。


次回、再び町へ。そこで待ち受ける驚異。

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― 新着の感想 ―
クララは大地に立てるのか・・・果たしてクララは白いのか?悪魔なのか? 永遠の謎なのかもしれない
殺すんかい!? 自分が変わる、自分を磨く、悪役令嬢に何てならない、と考えないのが恐いなあ。 あの女といい、転生者は恐ろしい。思考が。
[良い点] ヒロインを殺す結論に至れるその考え方、流石の悪役令嬢、先ずは奪えばいいよね!
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